■東 雲流棚町薫編、コミカライズの基本を忠実に蹈襲


東雲流・棚町篇(上)◆アマガミ 棚町薫編(東雲太郎版)
評価★★★★★

アマガミコミカライズの東雲流棚町薫篇の上巻です。巻末には森島はるかの読切作品が収録。
本編の一応メインヒロイン格である絢辻詞篇を第一弾に起用した東雲氏。以後のヒロイン格を起用する際にそのアレンジをどのようにするのかが注目されてきま したが、総論として棚町編も東雲氏らしく無難にまとめてきたなと言う印象があります。

コミックアンソロジーや他コミカライズ等の諸作家が描く棚町薫は、比較的ワイルドさが強調されているのですが、東雲流はワイルドさとヴァージンティックさ が上手く調和されており、読み進めていても、原作や諸作品でも多少感じさせられていた不快な部分が殆ど無い、棚町薫のエクセレンスを十分に発揮させている と評価しても決して過言ではない。

■東雲氏の奥行きと技法

東雲氏の画風は成年誌によって培われてきた魅力と色気が兼備されていて少年~成年と左右に舵取りの利く優れた線が特長である。重ねてストーリー構築も奥行 きを以て形成されており、漫画家としては非常に堅実な路線を蹈襲しているというのが感じられる。
そう言う意味において、このアマガミコミカライズの棚町編も原作の時系列を遵守しながらもキャラクタの魅力とストーリー性を東雲氏流として遺憾なく発揮で きると言うのが損得抜きで素晴らしい。
実際、コミカライズというのは原作がある分だけ、読者側にもキャラに対する感情移入がある。過度に歓心を刺激したり、あからさまにキャラクタを壊した設定 など、二次創作なりに舵取りが難しいものなのだが、熟練した東雲氏ならではに特異な人気を保つ棚町薫を捌いているなと言う印象であり、下巻もやはり期待で きると言えよう。

キミキスなどのコミカライズでも成功した東雲太郎氏は、コミカライズが求めている基本をよく解っている作家のひとりと言っても過言ではあるまい。
ゲームにしろアニメにしろ原作がある分、リーダー側はあらかじめそれに対する世界観・先入観・感情移入などがあるので、二次創作でも言えることなのだが簡単そうに見えて非常に難しい物なのである。
単純なコミカライズならば原作絵を限り無く近く再現する作家に描いてもらえばよいだけの話なのだが、そうではないというのならば、作家の技量が同時に試される。好きな作家が手掛けているのに、その作家らしさが見えないというのであれば、実に本末転倒な話であろう。

東雲氏はそう言う意味において、原作の重要性や立ち位置、キャラクタの特徴、世界観・時系列などを基本としながら、作家自身の持ち味を加減良く取り入れるという絶妙なコミカライズのバランスを保持できる作家であると言っても決して過言ではないのである。

■他のコミカライズやアンソロジーでは描ききれない棚町薫のヴァージンティック

棚町薫はアマガミ原作においても奇特な人気があるとされる。声優が高い人気を得ている佐藤利奈君ということもあり、その性格は明朗快活というイメージの強いキャラクタなのである。
それゆえに、アマガミの派生作品においては比較的ワイルドなイメージが通り、乙女らしさというのがなかなか前面に現れにくいキャラクタだと言えよう。

しかし、東雲氏の描く棚町薫編は原作のコンセプト通りに主人公・橘純一に一定の高い親密性がある設定として相関関係を決定づけ固定。ストーリーの基軸は薫自身のヴァージンティックに置いているという印象があった。
どういう事かというと、東雲氏の棚町篇は目下予想していたよりも、ワイルドさという、元来の粗暴さという色合いがなく、むしろ静淑さという今までの棚町薫像とは違った、彼女の内面を能く表現しようとしているのが感じられるわけである。

東雲氏のように、成年誌も手掛けている作家ならではの視野の広さは、コミカライズにおいては特筆すべき点ではないだろうか。