迷謬を導く箴言、大いに青大を決断さす

偽絆の疝気を頭痛に病み、良薬を投ず


第142 話は、隣接する御島明日香へのやましさが残る青大が、一連の騒動 に唯一荷担していなかった天谷栞に事の成り行きを話す。天谷は経緯は経緯として割り切り、自分にとって何が大事なのかと問いかける。その言葉を聞いた青大 は柚希を呼び、ハイツ旭湯を出て柚希の住む町への転居を仄めかす。柚希は嬉しさに腕を組み、青大は決意を改めて示す。

第142話 個人的イメージソング:この街で君と暮らしたい/小松未歩

  奸婦、能く本質を見透し道標を呈す

御島明日香については論評に値しません。先週号までに言った通りです。

一連の別離騒動に関与しておらず、また親友陣とも一定の距離がある天谷栞の登場は、やや過熱状態になった物語に冷却水を通すと言う意味においてはピンポイ ントとしては時宜を得た登場であったと考えて吝かではありません。
親友陣●親友陣

この状況で青大の前恋人が親友陣に対し何を話しているのかは想像の域を抜けないのですが、青大への節義に対し不誠実さで答え続けていたので、せめ て一矢を報いる言動をして、関係収束を図るべきだと考えます。そして、それが彼女に最後に残された最低限の誠意であると思うのです。
実はこの場面で未だ偽絆に疚懼を抱く桐島青大に、進むべき道を提示したのは天谷栞でありましたが、こういう場面におけるアドバイザー的存在として、必ずし も天 谷栞でなければならないという絶対的なコンセンサスは、鷹岑個人としてはあまり感じないのが正直なところです。
以前にも評したことがありますが、天谷栞の立ち位置やキャラクタ設定程度ならば、天城紫歩の再登場が無難です。今回、一連の騒動で中立的な立ち位置とし ては時系列として尤も距離が近い天谷栞というキャラが桐島青大を綏撫する役目に宛がわれたと言うだけに過ぎず、同じ立場で同じ言葉をして青大に対する説得 力をより強いものにするのは、やはり広島編において、枝葉柚希に渡したネックレスを購入するために過酷なバイトをし、その状況をよく知る、天城紫歩を登場 させておいた方が、読者に対してもより訴求効果はあったのではないでしょうか。
天城紫歩ではなく、敢えて天谷栞というキャラクタを大学編において投入し、徒に青大を翻弄する役回りを演じさせる程度という、中途半端な立ち位置の上、今 回第142話程度の青大綏撫の台詞では、やはり天谷栞を投入した重要性があったとは必ずしも言えません。キャラクタを持て余し、無駄遣いであると見られて も仕方が無いと考えます。
ただ、鷹岑が言うのは、決して天谷というキャラクタ『そのもの』がムダというわけではありません。奇しくも、天谷栞という一種の奸婦が同じ奸婦の悪評を 被っている枝 葉柚希への帰結を指向した桐島青大への理解を示したことは、実に因果なものであると言えます。
気まずさ●反省する様相は無し

先週号の次期予想でも上がっていた「絶交されそうな青大のことを庇う」。そんな希望的観測が挙げられましたが、擁護まではいかずとも、 青大に対して自分にも非があったの一言があれば、少し は見直しの機運も出 来たと思うのですが、どうやら彼女自身、今のところそういう気は全くないようであります。青大の前恋人については、第141話までの鷹岑家文書考察でも散 々に述べた通りであり、このままであるのならば、これ以上個別の話の上での論評の余地はありません。

逡巡せし心機一転、綏撫を得て転居を求める

青大と前恋人が復縁するという可能性は限りなくゼロに近いと考えます。青大の霹靂な らぬ青天の霹靂的な電撃破局として非常に後味が悪いとされた結果では ありますが、相手と住居が隣接する上、結果として青大が上京の大義名分としてあった枝葉柚希との帰結指向へと一応傾斜してきた以上、ハイツ旭湯へ留まる意 義は確かに薄れたと言ってもいいでしょう。
鷹岑は一応、今後の動きとして故郷広島へ青大と柚希が帰って行くという予測を挙げましたが、柚希の住む町への転居を仄めかしたことから、物語は続くのだろ うかと考えました。正直、これ以上どのような波瀾を持ち込むのかは見物ではあります。

劇中では転居について資金の心配を柚希がしていましたが、いつだったか当鷹岑家文書の考察でも述べたように、基本的に漫画やアニメ・ゲームなどの創作作品 の世界においては、資金は無限であります。
一介の大学生が、家賃がいくらかは別として、東京都心にある立派なアパートを易々と借りることも創作世界の基本理論からすれば、全く問題はありません。そ れが自然か不自然かは読み手側が判断することなのです。
天谷栞●天谷 栞

青大の選択を間違ってはいなかったという、一定の理解を示す発言は中立的な立ち位置として発する天谷栞というキャラを通して青大の心を 綏撫する意味で無難ではありましたが、同じ言葉を本来は柚希回帰への象徴的なアイテムとして一連の騒動で注目されたネックレスを手に入れるために懸命にバ イトをしていた青大を直近に知る天城紫歩を登場させておき、言わせた方がより強い説得力を持てたのではないかと考えます。そう言った意味で天谷栞という キャラクタの必然性・重要性を考えれば実に味気ないものでした。

同 棲の可能性も出てきた「君のいる町」

枝葉柚希の略奪愛という、ある意味東京編の最大のヤマ場を越えた君のいる町ではありますが、今後も続くとするならば、焦点は強い青大依存を以てしかる当の 枝葉柚希に対して、独居を決意し、仮に同棲を持ちかけた場合に柚希がどのような反応をするかによって、また一つ波瀾が起こる可能性もあります。

父親が関東随一の極道の大親分という美少女と、しがない大学生の青年が奇縁を以て同棲生活を送るという、大島永遠氏の秀作「同棲レシピ」よろしく、孤独・ ふたりぼっちの青大と柚希の先行きに襲いかかる数々の嵐という設定をもってすれば、単行本五冊分のネタは挙げられるかも知れませんが、瀬尾氏がこのまま泰 然として作品を終熄させるか、強固なふたりの仲を再び震撼させる大事件を持ってくるのか、飽和状態の感は否めません。
やはり、前恋人との一連の破局騒動によって、劇中の場面よろしく大きな祭りの後の静けさと言った感じもあり、またそれ以上の騒動を起こすことへの厭倦度が 高いと言うことも、正直否定できないような気もします。

いずれにせよ、青大と柚希の強固な至高の愛を完成する方向で形づけて行くことが大切であると考えます。
青大依存●青大に依存する柚希

柚希は青大に対し極めて従順でほとんど彼の意向に従うという、ある意味主体性の乏しいキャラクタでありました。先週、初めて彼女自身の 意志で青大の傍にいることを選択したことは非常に画期的だったのです。
今後、独居する事を目指す青大が、仮に柚希に対し同棲を求めた場合どのような反応をするのかも、目下注目するべき点ではあります。
名言蒐解
自業自得 ―――― 天谷栞、青大の迷謬を断つ

理由や本質がどこにあったにせよ、破局宣言をしたのは青大であるという現実を指摘し、理解を示しつつ青大の迷いや誤りを断つことを促した天谷栞。同じ情景 を、天谷ではなく、古くから青大、加賀月・由良尊らのこと。そして、青大が柚希のネックレスを買うためにアルバイトをしていたことを知っている天城紫歩で あったならば、より強い説得力が期待できました。

この街に… ―――― 桐島青大、柚希の許に帰す

前恋人と住居が隣接するという理由だけでは、衣食住足りて余り有るハイツ旭湯を出て、労苦を伴う東京都心のアパートに独居するという大きな決断は一介の大 学生には相応の負担であるはずです。
“かぐや姫”の「神田川」の世界ではありませんが、ボロアパートに柚希と同棲するという展開でもなければ、また一波乱が起こりそうな雰囲気ではあるようで すね。