相変わらずの突拍子展開に啞然とす

加賀月、 安 全地帯なく、横恋慕だけが目立ち心証凋落す


山口に住む従兄妹の結婚式に出席するために帰省していた青大は、月も父親が倒れたと聞き帰ってきていることに驚く。庭先で一人たたずむ月と話す青大は、月 からこれを契機に大学を中退し、帰広することを告白する。広島で青大と尊が帰ってくることを待っているという月は、もし青大が柚希と破局したら結婚してあ げると言い、本気にしない青大にキスをする。

青大への思慕前面に表し、謎の強制撤収へ

最近、作者の瀬尾公治氏が躁状態である。限定版18巻の発売を起点として、ツイッター等でもテンションが非常に高く、益々頑張ると意気揚々の体だ。
限定版の宣伝ツイートでは、Amazon.co.jpの商品紹介にリンクされ、瀬尾氏自身も当該サイトのカスタマレビュー等を目にしていると言うことの証 左である。
瀬尾氏の一連の公式発言や基本理念を勘案すれば、君のいる町の一連の評価レビューに対して敢然と強硬姿勢を貫き、ストーリー性の有用というよりも、自身の 漫画 家としての矜恃を強く優先させた作品作りをしているように思える。面白さ、つまらなさ、読者の意見は関係が無い、自身のプライドだけで保たせようとしてい るのだろう。
本来ならば、それでも良い。面白い、つまらないは個人差があるから鷹岑は論評はしないのだが、ここで論ずるのはストーリーに筋が通っているか、むちゃく ちゃでは無いのかという点のみである。
従姉妹のリエちゃん ◀従兄妹のリエちゃん

単行本第13集・第115話の青大と七海・月・清美らの会話の中で出てきた、青大の実在の従妹。保育園の頃は青大と結婚すると公言していた。
今回、山口の親戚ということが言及されたが、当時は出身地に言及されていなかったので、鷹岑流の創作小説では在居が隣町と言うことにしている。

今にしてあざとき月が秘想の意味

桐島青大がクズだヘタレだと言われているのは、ひとえに彼を廻る周辺環境に、作者の瀬尾氏は一切安全地帯を敷こうとしないからである。
今回、加賀月が青大に寄せた想いや行動は単行本第9集・第78~80話周辺で一応顕示されたことを反芻する程度のことであり、月の父親の件で大学の中退を 決め、帰広させるという判断は、名目的なもので事実上の強制収束の何物でもない。
アイス半分こ
この場面自体、月が第9集当時よりも青大への思慕を強くさせていることは確認できるのだが、それが直接的でも間接的でも青大や月自身に何らひとつのメリッ トがある訳ではない。
少なくても、月自身が青大に対して「恋愛感情が無い」と明言している以上は、せっかくしたディープキス(俗に言うベロチュウ)も、全く意味が無い。
読者にとっての心証は、「青大は柚希がいるのに、他の女とディープキスして、これは 事故だと言い張り、ほんの少しの動揺で済ますのか」ということだろうと思うが、読者諸卿はいかがだっただろうか。

ここで月が「ウチはハルトのこと好きなんよ」と言った感じで、恋愛感情とも受け取れるような表現でするならば、月が何故、明朗快活なハーフの超絶美女であ りながら、今まで彼氏のひとりも作らなかったのかという素朴な疑問にも納得できたはずである。
瀬尾氏は余計なところで白黒をハッキリさせたいという考え方を持っているので、月は青大に恋愛感情は持っていない。でも一度目は触れるだけのキス。二度目 は大人の濃厚なキスはする。それで本心はどうなのか。などと、あざといやり方で動かさなくても良いキャラクタを動かし、結果として貧乏籤を引かされるのは 主人公の青大なのである。

あくまで一般論だが、いくら幼馴染みとはいえ、妙齢の女性が恋愛感情がない相手を一人暮しの自宅に呼び裸になったり、ディープキスをしたりするだろうか。 この記事を読んでいるあなただったら、そう言う相手に月と同じことが出来るだろうか。また、同じことをされたとして、相手に恋愛感情が無いと割り切って接 することが出来るだろうか。
瀬尾氏は心理描写不要論者として、劇中の加賀月に「青大への恋愛感情はない」という台詞を貼り付けて、くだんの通り心理を表情に込めているのだろうが、月 を忖度する以前に、柚希と峻厳な峠を乗り越えて結ばれた青大に対し、かような行動を起こさせることに、恋愛の前に人道的問題、「節操」という言葉が先んじ るのではないだろうか。
大学中退 ▼物は言いよう

大学は行かない(涼風)加賀月と「涼風」の秋月大和は事情が違うとは言うものの、親の対応がまるで違う。
同じく枝葉柚希の父・義昭氏も青大の学業怠慢を激しく詰っていた。
月の両親は苦労をして彼女を東京の大学にまで入れたのに、中退をあっさりと受け入れたという設定に、瀬尾氏の見識がよくわかる。

桐島青大のセーフティゾーン

今更だが、正直な話、主人公・青大はラブコメの主人公なのだから、全方向から想いを寄せられても良いのである。ギャルゲーの主人公。君のいる町ベースなら ばエロゲーの主人公であろう。躁状態の瀬尾氏としては、いっそのこと成年誌で書き下ろししても構わない位の勢いでは無いだろうか。

まあ、それはともかくとして、どんな三流のギャルゲーでも、一発屋のエロゲーでも、ヒロイン格の女の子が主人公とそういう関係になってゆくには、一応「過程」というものがある。
ディープキス(ベロチュー)その「過程」が主人公にとって一定の安全地帯となり、「言い訳」出来る余地というものになり得るわけだ。
先述の青大の話が途中で止まったので再開しよう。
今回の話も非難は誰に向くかと言えば、結局は青大に向く。月は広島編の最後で青大への秘想を示してきたから、彼女が青大に好意を抱いているというのは、ラブコメの大原則としても、瀬尾氏の設定上に立ってみても、こういう行動を取る一般論から見ても明らかな話だ。

要するに、青大にはそうした安全地帯が全くない。枝葉柚希への至誠忠義だけはうざったいほどにひけらかす。ただし非常に脇が甘い。
単純にラブコメとしてのリア充という範疇に納めてみるには、青大が美少女・美女から好意を抱かれる根拠が完全に不足し、非常にえげつなくさえあるのだろう。

柚希に対しては行き過ぎとも言える至誠忠義の壁に阻まれて肉体関係を結べずにいるのに、幼馴染みとはいえ月と二度も内緒の熱いキスを交わす関係となり、それを「ただの事故じゃ」と単純に動揺するだけで済まそうとする青大の神経がわからない。
「キスは特別なもの」という考え方もあれば、月が青大に向ける想いというのは想像に絶することも考えれば、少なくとも青大の方に柚希以外の女性から受ける 想いの受け皿・緩衝地帯を設定し、柚希一筋ならばそれに強い説得力を持たせなければ、また青大のイメージダウンのスパイラルに陥るだけだろう。

瀬尾氏、加賀月を飼い殺す

今回の加賀月のネームは、少なからずOAD等の制作にまつわる影響もあったのだろうかと邪推するのだが、鷹岑はOADを視聴していないので、OAD中の加賀月の立ち位置がどのようなものなのかはわからない。
しかし、前回の料理編から全く唐突に広島に舞台を移し、あれよあれよと月とベロチューでは、瀬尾氏の異様とも言える高いテンションの理由とアニメの関連と絡めてまさに遣りたい放題の瀬尾ワールドと言った感じである。
神咲七海もそうだが、加賀月と広島編から続く準ヒロイン格を事実上飼い殺しにして青大のプラトニックハーレム状態を醸し出す「君のいる町」はいよいよもってコンセプトの破壊活動へと、瀬尾氏自ら起こし始めているのではないだろうか。

担当編集者に少しでも良識があるならば早晩に物語を終わらせ、瀬尾ワールドを青年誌以上に格上げした上で新しい「君のいる町」でも描かせれば良いのだ。

第186話 名言蒐懷

何を坊さんみたいなこと言うとんじゃ‥(桐島青大)

かくいう青大は柚希不犯の弥勒仏。皆の者、好きな人に手を出さない青大を敬え(笑)

5月いっぱいで大学やめるわ(加賀月)

広島収束の先駆けか。しかし、相も変わらず瀬尾氏の手法は強引無謀。経済的論拠が全くない。

ウチが結婚してあげるよ(加賀月)

これが衷心からの告白であるということを全く気がつかないのはラブコメの主人公ならでは。まあ、青大ならば言わずもがなではある。

オレもう彼女おるんやぞ!?(桐島青大)

脇の甘さは今に始まったことではありませんが、ここまでしていて恋愛感情が無いという月の言葉を真に受けるのは、人間感情として大いに問題があるだろう。

もっと信じられる約束しとく?(加賀月)

この場ははぐらかしたが、月は青大がその気になったとしても厭わないはずだ。