十二年前の連載開始から変わらぬスタイルで長命 を維持するラブコメ
ぱすてる第32集 ぱすてる・第32集
評価★★★★★

第148~151話を収録。
麦のおっぱい星人疑惑の議論から展開するコメディ。麦のゆうに対する想いの強さを実感する。
今回の新しいゲストキャラクタはパフュームを擬した「あみ」「ゆみ」という女性。マコの要請を受けて麦の真意を追求しました。
尾道の風景詩「猫の集会」を題材に、一機の愛猫"黒鉄"の淡い恋物語にも注目して下さい。

第1 集から十数年の連載期間を経て、舞台の時系列はゆっくりと流れており、麦とゆうを取り巻く環境も目立った変化はみられない。だが、それが舞台である尾道の 穏やかな風景に合致し、読み手にも穏やかな雰囲気を齎す不思議な空気を持った作品であることは過去のレビューでも指摘しました。
「ぱすてる」の世界観は、尾道の穏やかな舞台にあって登場キャラ達が時代の風潮に囚われず、ゆっくりと成長をしてゆく話。麦の周囲にも並み居る美女・美少 女達がいるが、彼女らも麦に触れながら大小のハードルを一つ一つ越えてゆく温かさを感じられる。目立たないが実に安定した作品である。

同じ広島県・マガジン作家の瀬尾氏との差違

「ぱすてる」を論調する際に必ず引き合いに出されるのが、同郷かつマガジン系列でラブコメの連載を持つ瀬尾公治氏なのだが、「W's」「CROSS OVER」「涼風」「君のいる町」と連載作が立て続けに変化してゆく瀬尾氏とは違って、小林俊彦氏は前作「ぱられる」の後継作としての「ぱすてる」の長期 連載を得てきた。一時期、週刊少年マガジンでの連載もあったが、マガジンスペシャルに再昇格し、十二余年の大長命作品に至っているのはやはり大きな事であ ろう。

理由は至極単純で、小林氏は「ぱすてる」における基本理念が変わっておらず、尾道を中央舞台とした設定が不変な点にある。
2000年代前半は、ぱすてるも一端としたあったように、ほのぼの系・癒やし系と称された恋愛作品が主流を占め、ぱられる連載終了後も、小林氏の人気は衰えず、ぱすてるの連載開始に至った。
当時の主流の影響を受けた「ぱすてる」は週刊誌での連載で更に人気が上ったが、古巣であるマガジンスペシャルの舞台で連載を継続することになったのは、小林氏の尾道に対する愛着と、登場人物達のしっかりとした、活きたキャラクタ作りを求めた結果であると考えて良いだろう。
第32集は冒頭こそ主人公・只野麦のおっぱい星人疑惑から始まる下ネタが展開しているが、瀬尾氏の君のいる町との最大の差は、その下ネタが着実に主人公とヒロイン・月咲ゆうとの関係を成長させてゆく切っ掛けにしているというところである。
無駄に話数稼ぎのためだけのお色気・サービスカットの場面を取り入れてはいない。
ぱすてるの基本コンセプトの基となったブームは過ぎ去ったとは言え、不変の信念を持って描かれている「ぱすてる」の世界観を支持している読者はいるのである。長命の秘訣は、しっかりとしたコンセプトと信念、そして活きたキャラクタ創りに他ならない。