重要性と緊迫感無き、広大な水面に礫一個の投石
依然青大いを心 裡顕示したのみ
~“明日香でなければならない”という明確な根拠がない、ハップハザード

▼高校(東京)のクラス会に出ようという明日香の誘いを渋々受けた青大は、席で大酒を呷る。泥酔の青大をあしらいながらハイツ旭湯に連れてくるが、葵が不 在だったために青大を通路に放っておく。気になった明日香が、青大が柵から飛び降りようとする様子に慌て、思わず部屋に連れ込んでしまう。様々な想いが過 ぎる明日香。酔余と寝ぼけに青大は明日香を柚希と勘違いして抱きしめてキスをしようとしてしまう。

青大非難と明日香である必然性に疑問

総論としては、瀬尾氏が惰性弛緩と化している君町の流れに、緊張感と波乱要素を投じようと入れた話なのだろうが、鷹岑からすれば、今回の話の相手が御島明 日香でなければならない。という必然性に少し疑問があるのではないかと考えている。
簡単に言えば、同じ場面の明日香というキャラクタを「神咲七海」や「枝葉 懍」、或いは「天城紫歩」や「水本真菜」、「夏越美奈」などの正閏ヒロイン格のキャラクタに置き換えてみ た場合、あまり違和感というものを感じないのである。つまり、以前から鷹岑が指摘しているように、全ての女性キャラクタが、主人公指向に戻ってしまったた めに、相関関係が非常に浅薄となってしまい、波瀾含みの展開になる要素というものを殆ど感じなくなってしまったのである。
おそらく、この場面を明日香ではなく神咲七海に置き換えても、明日香のような心情を七海は持たないという事は考えにくい。懍もしかりであり、紫歩や真菜も そうである。皆、どんな経緯があろうとも今現在、何故か一連に青大に対し好意を寄せているので、「柚希以外の女に手を出す最低野郎!」という非難はあまり 意味が無いと思うのである。

もちろん、御島明日香は「前ヒロイン・元カノ」という肩書きがあり、表面的には柚希に準じて青大に近い立場ではあるのだが、くだんのようにあそこまで青大 や柚希からの精神的惨殺を受けてもなお、青大への懸想断ち切れずと言う心情理解こそが鷹岑にはなかなか出来ない。
クラス会の誘い◀クラス会への誘いをする明日香

交際前・交際中・破局後と、明日香の青大に対する対応の差異が全く見当たらない。
明日香は都度、青大のことは「完全に吹っ切れている」としているが、今回の話を見れば、吹っ切れているどころか、未練と言えば語弊があるが、懸想の残光があるという風に見て取れる。
明日香らとの関係を修復したことによって得られた場面だが、進み方によっては、あの波乱が殆ど意味を失う事になるだろう。
“帰ってないのかな葵サン‥‥”~タクシー等で送る選択肢

あくまで一般論としてだが、明日香との経緯を考えてみれば、たとえ同窓会という雰囲気の中にあっても顔をハイツ旭湯見合わせること自体なかなかしにくいというものだろうが、彼らは『友人回帰』という、尤も理想的な元カレ元カノ関係になったというのだから、とかく明日香自身が寛大な心の持ち主なのか、逆にそれほど強く青大のことを好きでは無かったと言うことなのかが推量される。

泥酔した青大のことは、本来ならば介抱した二人の同級生なり、明日香自身なりがタクシーなりの交通手段を使って青大のアパートに送り届け、柚希に引き渡せ ば良いだけなのだが、それを敢えて明日香の居住するハイツ旭湯に連行してきたということ自体が、物語の恣意性を如実に示していると言える訳だが、物語を俯 瞰した場合、今回は東京編における高校同窓会という設定上、御島明日香が一応は前ヒロインという位置にあって青大を誘引する形式になったが、同窓会という 設定そのものがストーリーとして前後連繋がなく、単純に「たまには明日香と青大を接触させたい」という表面的な手法に恃んでいるに過ぎない。

つまり、今回は何もここで「クラス会」という舞台を設ける必要性も重要性もない。仮に単なる飲み会でもよく、そこに神咲七海であれ浅倉清美であれ誰であれ当て嵌めれば、今回の明日香のような行動・描写は容易に想像が付き、また違和感がないというのである。

“ 柚 希 っ !! ”~些末なことを後に引く既成事実

まあ、鷹岑は箍が外れた禁欲ほど、手の付けられないものはない。というニュアンスを考察でも述べたことがある。
本質論ではないのであまり話題にするのもバカバカしいのだが、本編では青大と柚希の性交渉の回数を4回としてきている。まぁ、実際は時系列を重ねて相当数 であることは言うまでもなく、酔余の勢いとはいえ、明日香を柚希と思い込んでこういう行動を取っていることを考えれば、青大は家に帰るなり料理をするなり 風呂上がりなどにおいて都度同じようなことを柚希としていると言うことが明察できよう。
明日香の胸を揉む青大
今回、明日香に焦点を当てて捉えれば、彼女が本気で青大のことを何とも思っていないというのであれば、そもそも青大を「同窓会」に誘う必要も、一連の流れ で特段彼を意識をする必要も無い。本気で嫌いになった。嫌いから昇華して百歩譲って何とも思っていないにしてもだ、酔余の勢いとはいえ、男に突然背後から 胸をわしづかみにされて、その瞬間に突き飛ばしたり、撥ね除けないということは考えにくい。
それを勘案すれば、明日香が何とも思っていないどころか、青大を今も好きでいるという証左である。
泥酔酩酊している状態だとはいえ、青大も随分と役得な立場だ。
今回の話で青大を改めて「最低最悪の野陋」だと決めつける事は鷹岑はしないが、瀬尾氏のことであるから、明日香にとって青大が自分の胸を揉んだという行為 そのものを波乱の核として引き摺りそうで、またこの先が見えない物語の本質的な部分から遠ざかりそうな気がして何とも歯がゆい思いがするのである。

“寝ぼけてんのげ!!”~改めてSchool Days化への期待を寄せる

青大・明日香の急接近この物語がどういう風になるか、と言うことは制作者側の裁量ひとつであり、鷹岑のような一読者がとやかく言おうが所詮は結果論に過ぎない。
青大が柚希とどうなろうが、その評価というのは読者がするものであり、歴史に名を残す作品たり得るかどうかも然りである。
君町が仮にコンセプトを大きく変えたというのならば、瀬尾氏自身も編集サイドの意向としても何らかの場で表明する機会はあり、今のままでは青大と柚希の珠 玉の恋愛譚という第一回からの基本設定のままペンディング状態でどうも煮え切らない。「氷花」で終結したのであるのだから、今は青大の自由奔放な好色一代 記。と言ったようなコンセプトになったと言えば済む。
そうでなければ、御島明日香編において、その基軸を中心としたラブコメとして深みを得た作品が、今回未だに青大に対して懸想をしているなどと言った感覚で台無しにしてしまうようなことはあってはならない話だ。

泥酔酩酊が青大と明日香の急接近の弁明程度の要素としてあるならば、ラブコメなどでもなく、物語としても全くナンセンスであり、どうしてもこのキャラクタでなければならないという要諦ではない。
鷹岑は以前からずっと言っていることで、また繰り返すことになるのだが、柚希を筆頭として君町の全女性キャラが青大に対して好意を懐いているのだから、珠 玉の名作「School Days」のように、青大を伊藤誠のようなキャラクタに置換し、柚希を正妻にし、明日香や七海と目眩く快楽を愉しみ、流れ流され るストーリー性にした方が余程潔いと考えている。
そういう意味から鷹岑が個人的にはリスペクトしている、SchoolDaysの主人公・伊藤誠の立場をすれば、そのまま青大と明日香が間違いを起こすことに強い期待感を持っていることは事実である。
しかし、そういう個人的な見解を横に置いた場合、このような場面は実に詮なき物であり、君町の世界を喩え広大な鏡のように平かな池沼の水面に、明日香という小さな礫を一個投げる程度の波紋にしかならないということなのである。
こういう場面をやるならやるで、意味のある事をして欲しい。それだけのことだ。