モブキャラの昇格によって附帯されたキャラクタ、一息に一纏めとなって終決す
就活膠着の恋愛弥勒、合間に夏越美奈を早晩収斂させる
~夏越美奈、誤解を懐きながら大きく迂回し坂本に収斂す

▼就活が一進一退、膠着状態の青大。冗談を言う柚希にも苛立ちを見せる精神状態の中、御島明日香から知らない男から桐島に怒りを持っていると知らせを受 け、動揺する。明日香から、青大の想いがもどかしかったと言う。苦悩する青大の前に現れた怒れる男。一触即発の中、そこへ現れたのは何と夏越美奈だった。 混乱する青大。しかし、その男が「坂本」だと知り、会話を紡いでいく内に、青大は夏越の言動行動が全て誤解であったことを悟るが、坂本に唾を吐きかけられ てしまう。茫然と立ち尽くす青大に、一次面接通過の報せが届くのだった。

モブキャラ昇格の夏越美奈、漸く正常収斂へ

夏越美奈◆ラブコメとしての機能を失ってから本領発揮?

夏越美奈。モブキャラとして登場したのが、単行本第9集・第83話であるから、通算160話を経ての収斂を迎えたという、瀬尾流にとっては異例の役割を得 たキャラクタであった。
モブキャラが人気を博して一部読者の支持を得て準レギュラーとして昇格、夏越美奈という名前と、天然勘違い不思議ちゃん的な立ち位置として青大に懸想をす るという、君町の世界的には非常に不毛であれ、彼女自身はそれで満足していたキャラとしてあったのだから、幸福この上ないだろう。

立ち位置的には保科美友や宮永知沙を出さずともいい存在価値があったわけだが、ラブコメとしての機能を終えた君のいる町の状態になってから、皮肉にも夏越 美奈の存在感は貴重な癒やしの元になっていたと言っても過言では無い。
彼女自身は、モブキャラから昇格して、勘違いキャラとしての定位置に収められたことが、お笑い要員とまでは言わずとも、青柚を巡る画一的な好意という人物 相関図の中にあって光る存在だったと言える。
鷹岑が、保科美友ではなくて夏越美奈を隣室の住人にしていた方が良かったと指摘した理由も、彼女のそうした立ち位置や設定を見てみれば読者諸卿も一定の理 解は出来たのでは無いだろうか。キャラクタというのは、出せば良いという物ではない。既存のキャラクタを如何に活かすことが出来るか。瀬尾氏の筆致によっ て生み出される美女・美少女キャラは高い評価を受けていることは分かるのだが、キャラクタとして意味がなくては本領発揮にならない。
夏越美奈はモブキャラから昇格したことによって附帯した「坂本」という、瀬尾氏思いつきのキャラクタによって立ち位置の軸足となり、この160話を乗り 切って収斂した。それはそれで良いのだが、ラブコメとしての機能を失ってからと言う点が、苦笑絶えないことだった。

「坂本」君、青大を嫌うも1話で出番を終える

登場するキャラクタ全てが、青柚に画一的な好意を寄せているので、非常に薄っぺらい相関図である。
鷹岑が散々そう指摘している中で、ようやく青柚に距離を置くキャラクタが登場したかと思ったが、それが夏越関連で思いつきで名を上げたキャラである「坂 本」であったことは期待が一息にしぼんだ瞬間だったのだ。
坂本君◀C組の坂本君

イ メージCVは高橋広樹。その名前は単行本第10集の第85話、夏越美奈のモノローグで登場するが、彼女の中の掛け合いとしての台詞の一つとして名前が挙が るのみであって坂本君本人は登場することはなかった。今回、イケメンとして青大に敵愾心を燻らせるという設定での1話限りのゲスト出演だったが、夏越美奈 を軸にした一連の流れを見ればオマケ的存在だったキャラクタが、さも秦檜像に対するが如く、誰もが出来なかった青大の顔に唾を吐くという衝撃的な行動をさ せたのは大したものである。
瀬尾流にとっては珍しい男性キャラの新顔だが、夏越美奈の回収を担う存在としての登場であって、物語に影響を及ぼすどころか、1話限りのゲストの様相である。
まあ、客観的に見れば青大の軽佻浮薄な行動を怒れる事は確かであって、寧ろ夏越美奈をそこまで想い続けてきたという至誠は柚希に対する青大に共通する。
似たもの同士は反発し合うというが、そもそも青大にとっては夏越に限らず柚希以外には興味が無いので生死を分ける修羅場には至らないのだ。

まあ、比較するまでもないが坂本は風間恭輔にも及ばない。知己があるかどうかは分からないが、本来ならば風間恭輔の葬儀の場に夏越美奈もいたことを考えれ ば、彼女を想う立場としては葬儀会場にあって青大らと知己を得ていたと言っても不思議では無い。明日香も認めるイケメンならば、高校時代に同学年として彼 の存在を全く知らなかった、というのは、学校生活上の確率からしても難しい解釈だ。
まあ、夏越美奈が君のいる町の中にあって、件のような立ち位置になっていなければ、坂本君の登場意義も増していたのであろうが、彼が産廃回収業者宜しく夏越美奈を回収するためだけに登場したのは、ある意味神咲七海に宛がわれた藤河昭人よりも立場が悲しい。
そんなに修羅場や複雑な相関関係を構成するのが嫌なのか、そう言う問題では無いと思っているのかは分からないが、ラブコメという位置づけをしているのならば、もう少し男のキャラクタを活かしてみる必要もあるだろう。

「俺の態度が…」苛つく青大、柚希の不安

苛つく青大冒頭、就活の膠着状態でぴりつく空気を解そうと冗談を言う柚希に苛立ちを見せる青大の様子だが、一般論としては全面的に青大が悪い、と言うことになるのだろう。
まあ確かに、就活で知り合った長門未沙と頻繁に接触していることを知りながら容認姿勢の枝葉柚希。今回登場した御島明日香にも絡めるが、どうしてこの漫画 のヒロイン達は、主人公が他の女性と合うと言う事に対して寛容なのであろうか。普遍概念として、恋人が他の異性に会うことに対して嫉妬心を懐かない、と言 うことはあり得ないわけで、この話の中で青大は「俺の態度が嫌だったらはっきりそう言ってくれれば良い」と吐露しているが、第三者からすれば「自分でそう思っているのならば自分で改めてみろ」と言うことになるだろう。
まあ、青大は困っている人間を見捨てることが出来ない、という性格なので、漫画の性質上その困っている人間がたまたま可愛い女の子ばかり、と言ってしまえ ばそれまでなのだが、「俺の態度が嫌なら……」と言っている割には、柚希を追って広島を出奔し、「もう来ないで、もう会わないで」と言う柚希の言葉を「あ れはウソじゃ」と断定して言う事を聞かない。青大と柚希の変な形の歯車の合致は、まさにここに表れている。

柚希がどう思っているのかは瀬尾のポリシーに沿って心理描写が無いので、憶測の域を脱しないのだが、考えてみれば就活で知り合った女の子が内定を得た時には、すっかりと青大に心を奪われ、伝わらずとも愛の告白まで至ったのである。尋常らしからぬ経緯があったからであろう。
「自覚が無い罪」とまでは言わないが、青大は知らずのうちに柚希に杞憂を植え付けている。柚希自身、その明日香から青大を略奪した経緯があるので、青大と の仲に瑕疵が入ると言う事はないという確信はあるにしろ(というか、壊すほどの事象を瀬尾は作れない)、確かに青柚の関係も頭打ちであるという焦燥感があ るという意味での緊張感を感じることは出来る。

明日香、君が言うとどうしても‥‥

だったら何故、君は・・『お前は柚希か、明日香か』
アニメ放送の昨今、そう言う質問が来たことを想定すれば、鷹岑は以前から言っているように、キャラクタそのものとしては断然明日香派である。
だが、ラブコメとしての君のいる町を俯瞰した場合はどちら派でもない「無所属」。残念だが明日香は柚希に及ばないとも指摘して、当ブログで明日香の言動行動について厳しく指弾してきた。お陰で、鷹岑が某大手掲示板の君町スレにおいて槍玉に挙げられた端緒でもある。

明日香に関しては個人的に凄く大好きなキャラクタなので、どうしても話が長くなってしまいがちだが今また言おう。
今回、明日香は青大に対して、誤解とはいえ柚希関連と解釈し、青大と交際していた当時の不安を吐露した訳だが、断腸の思いで鷹岑はそれを厳しく指弾する。
「だったら、何故それを解決しようと、明日香。君は動こうとしなかったんだ」
青大の性格を熟知しておきながら、裡に秘めた苦悩を感じていたという明日香。本気で青大が好きだったというのならば、何故自ら進んで青大の苦悩を打ち砕こうとしなかったのか。
鷹岑はずっと指摘しているが、青大の心底には枝葉柚希という巨大な壁、岩盤がある。明日香は交際当初から青大にとって柚希という存在がどれほどのものだったのか判っていながら、自ら積極的にその分厚い岩盤を壊そうとする努力に欠けていたのだ。
青大は柚希だけしか見ていない。今回の明日香の不安は、青大が柚希を想っているという再確認のポップアップ程度で正直言って何の役にも立たないのだが、明 日香には幸せになって欲しかったと、考察記事を除く純粋な明日香スキーの1人として、明日香の吐露は実にもどかしい。批判をせざるを得ない鷹岑を許してく れと(笑)

しかし、今回の話は御島明日香はなお、青大への恋心の残照があることを再認識させられた。まあ、酩酊酔余の事とはいえ、青大に胸を揉まれたことを最後まで秘した明日香だ。青大への想いがなければ到底そのようなことが出来るはずがない。
青柚に惨殺されてもなお青大への想い遙か。怪談話ならば、明日香は生き霊となって青柚を祟るというファンタスティックな展開も妄想できる訳だが、まあ、そこまで飛躍した話をすることもなかろう。
それにしても、御島明日香。久し振りの筆致なせいだろうか。文句ナシに、本当に可愛い。恋人にするならば断然御島明日香だぞ諸君(笑)