織り成す景色の中で、ただ‥‥君の声が聞きたくて

果てしなき将硝の赤心を繋ぐ契機、紡いでゆくひとつひとつの友情
~将也が心を開いて ゆけば、確実に結ばれている、ヒューマンリンク

総合評価★★★★★+10

第22話 アトモスフィア・イメージ(石田将也高校期イメージ) 君の声が聞きたくてTHE JAYWALK

 

西宮結弦~「急に女んなったね」(初井言榮さん(ラ ピュタのドーラ)風に)

結弦西宮結弦が、がらりと可愛く変貌してしまいました。妹であると言うことが将也らに判明した直後あたりから急速な変化 を感じてはいましたが、今回はすっかり と線まで少女然。むしろ、将也のヘタレっぷりが逆に際立ってきているという見方も出来るのですが、姉のために将也を攻難してきた鬼気迫る様相は、今やただ 姉と将也の関係を憂慮し取り持とうとする、良い妹の顔になっていますね。
そして何故か、石田家にすっかりと馴染んでおるんですが、永束友宏といい石田家はどうも居心地の良い空気があるように思えます。

結弦からすれば今の将也と硝子の関係は微妙なんだと思う。まあ、将也に対してはまだ思い致す部分はあるにしろ、怒気・ばつの悪さと、結弦にも初めて見せる とされた表情を作るきっかけとなったのは紛れもなく石田将也という存在であることを考えると、結弦にとっても自分が思っている以上に切っても切り離せない 存在になっていると言う事なのだろう。
まあ、彼女自身不登校の時期もあったことを考えれば、将也に対してはそこはかとないシンパシーを感じている部分があると思うのだが、それが自分の予想以上 に心に占める割合が高いとも言えるのである。

私はあんたのことが好き。どうしようもなく好きだから!

植野が将也の家の前でじっと立って待っている。将也に向ける彼女の想いの本気度というのが垣間見える。そして当の将也の方だが、一瞬なりとも×印が取れて しまったところに、迷いというものがあるだろう。
息を強く吸えばそこはかとなく感じるヘタレ臭――将也
「ずっと、好きでした」という言葉には実は途轍もない魔力が秘められていて、言われた当方は将也ではないが、相当に警戒してしまう。
植野のような、小学生時代にメインヒロインの硝子・佐原を虐遇し、将也に対しても冷酷な態度を取り続けてきた女が、今更になってこんな言葉を連ね、将也の 突き放しにも敢然と立ち向かい、じっと彼の家の前で待っている。こんな行動・好意を向けられたら、千年の怨恨も瞬時に流されてしまうだろう。ましてや、植 野は何度も言うが美少女である。硝子とは対極にあるが、読者の中にも硝子に対して親反両派もいることを考えれば、植野はそう言う意味で独立した魅力を持っ ているのである。植野直花

と、なると硝子・植野に寄せるそれぞれの魅力のツケを誰かが払わなければならない。そんな負債を抱えるのは、誰であろう当の主人公・石田将也である。
なぜ将也が? とは思わないで欲しい。聲の形に限らず、ラブコメディというのは必ず、魅力のあるキャラクタがそれぞれにあるとするならば、その負の部分を 誰かが負うことによって物語に奥行きをもたらすものである。
一番オーソドックスなのが主人公であって、よく「ヘタレ主人公」とレッテルを貼られるのは、対極にあるヒロインに捨てがたい魅力がある場合が多い。そりゃ あ、硝子もしかりだが、植野とて紛いなりにも将也とは竹馬の友を標榜していた相手であり、特別な想いを懐いているというのならば然もそうずだ。将也でなく てもそりゃあヘタレるだろう。硝子でも良い、植野でも良い。この二人のどっちに対しても批判をしている連中は、実際に二人のような美少女がいたとしたら、 同じような態度や考え方を取れるだろうか。なかなかそうは上手く行かないと、鷹岑は思うのだが。
「植野はビッチだ。こんな性格の悪い奴はいない。俺の一番嫌いなタイプだ」と鼻息を荒くしているものの、さて想像してみよう。現実にそんなビッチがいたと して、「ずっと好きでした。あの時はごめんね」って、家の前に神妙に君を登場するのを待ち続けている姿を見たら、鷹岑だったら「おお!許す。何でも許すか らまず俺の部屋に来い」なんて感じで言っちゃうわ(笑)

「ごめんねー」で済む問題か

ごめんねーさて、丁度良い台詞が出たので、考察の手を伸ばしてみよう。
植野は石田将也が受けてきた辛酸の時に言及し、声を掛ければ良かった。ちょっと後悔している。ごめんね。などと、軽い感じで謝罪の言葉を述べているのだ が、果たしてそんなひと言で解決する問題だったのかという話になる。
本気で将也に対して想いがあったとするならば、自宅も知っていることなのだから、何故もっと早くその言葉を言おうとしなかったのか。縦しんば中学卒業の時 に言うべきだったと、卒業時限定だったのかということだろう。
まあ、植野の将也に対する想いというのは嘘偽りというものは感じはしないが、ずいぶんと将也を見縊っているというか、買い被っているような気がしてならな い。
将也は少なくても、西宮硝子に対する自らの仕打ちが招いたことだとという自責に苛まれて死をも覚悟したのに対し、植野はその西宮硝子のせいで、将也らの関 係がおかしくなってしまったとしている。
この認識の点だけで、植野と硝子は相容れぬ不倶戴天であると言うことがよく分かるのである。
また、もっと初歩的なことを突っ込むとするならば、「この前は言い忘れたけど」と言うのもずいぶんと変な感じではある。気に掛けていたとするならば、再会 した時にいの一番に将也に伝えなければならない言葉だったのではないだろうか、という素朴な疑問に過ぎないのだが。

君の声が聞きたくて~変わってゆくものや、変わらないものが

結弦が本気で可愛く感じてしまう、というか先週の植野の嘲笑じゃあないが、「結弦どーしたー?」みたいな感覚だ。
励ます結弦いつもの日に姿を見せなかった将也を案じて石田家を訪れる結弦、また植野の厳しい指摘を受け流させようとする言 動。以前の彼女からは想像出来ないほどに、彼女の中そのものが石田将也を必要としていることの証左であろう。
結弦が指摘した表情の変化というのは怒気や悋気と言ったどちらかというと負の表情である。まあ、結弦からすれば硝子が見せ続けてきた表情というのは、哀し くなるほどの微笑みと前向きな言葉ばかりだったことを考えると、将也との交流で芽生えたそうした負の感情・表情というのも結弦にとってはすこぶる嬉しいこ となのであろうと思えば、別の意味で新鮮である。
まあ、それまでは人形天使のような純粋な心を持ち合せているという心象が、護らなければならないという使命感を駆り立ててきた心の負担を考えると、硝子が ある意味“人間”により近くなったことに喜びを感じるというのも至極当然な話であろう。
植野からの返信◀植野からの返信メール

植野に送ったメール。奇しくも先日メルアドを拒否したばかりで来た将也からのメールに、植野は素っ気ない返事を返すのだが、将也からメールが届いた瞬間の 植野の本気で嬉しそうに目を細めている様子というのは想像に難くない。
この素っ気のない文言の中に、ツンデレぶりとどんな障害にも敢然と立ち向かう一途さ、そして西宮硝子に対する激しい敵愾心というものを感じ取ることが出来 るのである。

お前は知らず知らず、支えられていること友情

激しい孤独と周囲からの拒絶。阿鼻地獄を這いつくばり辛酸を舐め、堪えきれずに死をも覚悟した将也が今、硝子の差し伸べた手ひとつから始まり、戸惑いながらもひとつひとつ、彼が知らない間に友としての絆によって支えられている。
変わらなければならなかった自分、そしてまだ変わっていない自分。将也は「西宮硝子から奪ったであろう大切なものを、ひとつひとつ取り戻さなければならな い」と誓っているが、それは彼自身無意識の内に自分にとっても失くしてしまった大切なものを取り戻してゆく過程なのであろう。聲の形の本質的魅力のひとつ でもあるここは、メインヒロイン・硝子も切々と将也に問いかけている事でもあるわけだが、硝子のためにと時々盲目になってしまう将也はまだ気づいていない ところがもどかしいところである。

あなたのことが知りたい~加速する、心の青方変移

あなたのことが知りたい

それは愛の告白でも、プロポーズでもない。天文学的数字ほどに懸け離れながら、永遠に近づき合っている将也と硝子の心に、少し加速を掛けただけの言葉である。
心の青方変移は、無限に近づき合っていてもひとつになることはない。永劫に広がり続けている宇宙空間のように、限りはあるが、果てがないという論理のようなもの。
「もっとあなたのことが知りたい」
それは将硝という二人の間に広がっている距離に、ほんの少し目を向けるための言葉だ。悪い意味ではない。もちろん、二人にとっては天地鳴動の大きな変化だろう。

将也は硝子のことを知りたい。硝子の将也の事を知りたい。恋人になるということよりも、二人にとってはその近づき合っている、という感覚の片鱗を感じることが出来ると言うことが何よりも大切なのであろうと思うのである。
心の青方変移は、二人の心が目に見える形や、胸を突くような感覚では無いほどスケールの大きなものである。お互いが遠く、また眩しく感じているからこそ、互いを意識しそして少しずつ変わってゆく。気がつけば互いを思い、喜怒哀楽を共にする。

ポニーテールにした西宮硝子。耳あな型の補聴器が覗くそのうなじがまた、そこはかとなく色っぽい。それこそどーした硝子。ここ最近読者に色気を振りまくな。そして、互いを知り、植野に対して遠慮なんかするな。ドロドロとした部分が、その魅力を更にかき立てるのだ。



友達なの?(西宮結弦)
植野についてこう聞いた結弦に対して、将也は狼狽する。少なからず将也が意識していることを照査したわけで、結果、将也のヘタレ性が露見。
…つまりごめんねーってこと…(植野直花)
てへぺろっぽくこの言葉を発した意味は、植野にとってはそんなに軽い意味ではないかも知れないのだが、将也にとっては非常に複雑な思いだっただろう。
西宮のほうに謝れよ!(石田将也)
それは違う。前にも言ったが、将也は植野の想いに対して逃げるべきじゃない。これは西宮硝子に託けた逃避の言葉だ。よしんば植野が西宮に謝る以前に、将也は彼女に無理矢理付けたその×印を取るべきである。
石田と私の時間(植野直花)
西宮硝子が現れなかったら、自分は必ず将也と付き合っていただろう。それを確信させる言葉である。
オレはうれしいよ(西宮結弦)
以前の結弦だったら決して言わなかった感謝の言葉。「ありがとう」「嬉しい」この言葉に勝るものはない。それくらい、結弦は将也を信頼しているのだろう。
言われなくても行くし!!(植野直花・メール)
このメールをフリックしていた時の植野の嬉しそうな様子は、妄想小説を書く者として、想像するだけで楽しい。
あなたのことが知りたいです。(西宮硝子・メール)
決して大きな変化ではない。永遠に近づき合う心に、少しだけ加速を掛けたもの。だが、それが不思議にグッと来るのである。

【追記】

聲の形のSSについてのアンケートを設置致しました。 今のところ書く予定はありませんけど、もしも書くとするならば誰が良いのか、またどのような感じが良いのかを設問しています。
興味があれば、ご回答いただければ幸いです。

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