西宮家を照らした透徹の空、西宮母の心に響きしその想いと、確かなる成長

不器用“母宮”忠愛 その衷心大母、大いに結絃済う

~硝子を「普通」に“押し上げよう”と気張った西宮母、掛け違えた釦の中に滔々たる母の愛

第31回「手紙」アトモスフィア・イメージ 透徹の空徳永英明

総合評価★★★★★(+10)

■祖母から結絃に伝えられた手紙。それを読み上げる将也。一歩ながらも、確実に歩みを進めている西宮家。姉妹の母は、将也に「結絃と仲良くしてくれてありがとう」という言葉を、将也に伝える。

母親に贈りたき「透徹の空」

今回、鷹岑がアトモスフィア・イメージとした徳永さんの「透徹の空」を聴かれた方ならばイメージがついたかも知れないが、今回は硝子や結絃ではない、この姉妹の母親の心情を照らし合わせたものとして想起したものである。
言わずもがな、この姉妹の母が、今回死去した義母(?)である、祖母に向けた想いであるのだが、鷹岑はそれまでのイメージとして、西宮家に漂うどんよりとした雲が、この祖母の登場で、一気に澄み切った青空を拝む契機になったことは素直に喜ぶべき事だと思った。
飲泣の西宮母
まずは始めに言わせて欲しい。鷹岑は何だかんだ言っても、やっぱり将也の母親がいい。結婚してくれと言いたいのは将也母の方である(笑)
西宮母の方はどうだろう。鷹岑は多分、彼女は硝子や結絃ら子供達を第一に思って、再婚(西宮母が父親(夫)と離別(離婚・死別含)していると想定)はしないのではないか、と捉える。
将也母のほうは、将也らを思うが自分の幸福もまた家庭を幸福にするという観点から再婚も視野にいれているのではないかと。
ゆえに、不肖キモオタオヤジ・鷹岑昊、玉砕覚悟で将也母様、我と再婚給ふ・・・。いや、結果は言わずもがなだろう(涙笑)

と、妄想は大概にして、西宮母のビジュアルは意識して加齢を表しているが、何々十二分に美人だ。鷹岑は将也母に特化したが、今になって悔しくはないぞチクショウ。

心を開いてゆく、西宮之母

加藤諦三先生に言わせれば、西宮之母のその両親にまで話が至る心理解説になるのだろうから、人生相談でも何でも無いこの場では言及はしないでおこう。遭遇
だが、西宮母が石田将也の改心を誠意として感じていたのは、自らが忌諱してきた手話の習得だろうことはこの考察でも指摘したわけで、言葉だけではない贖罪と姿勢が、確実に西宮母に伝わってきていると言う事は多くの読者の統一した見解ではないだろうかと思うのである。

将也と再び出会ったことによって、硝子も変わり、結絃もまた大母様の言うように、気づかないうちに変わっていっているのである。
まあ、彼と出会ってからと言えば、運命の神様のようで大仰だが、心を強くありたいと肩肘張る西宮母に対し、将也はそれをおくびにも見せず、寧ろ過剰なほどに西宮家そのものに気を遣っているようにも思える。
長い髪をばっさりと切ることになった結絃の経緯。将也母に揃えられた髪型に更に手を加えようとした西宮母は、そうした強くあるためには自らが強くあらなけ ればならないという、周囲の支えに依らないというしっかりとした考え方の中にありながらも、どうも結絃の反発を招き、硝子もまた、母の思惑からは外れて将 也らと仲良くなってゆく歯痒さを感じていたのであろう。

それでも、西宮母もまた将也と出会ったことによって変わりつつある。近くて遠い心の距離。娘・結絃が将也と心からの理解を深めてゆくことによって、相乗効 果でゆっくりと乍らも氷解してゆく事になるのだろう。不思議なことに、将也は独りそっと飲泣する女性達を目撃してしまうと言う幸運に恵まれている。西宮母 が、大母様の升遐に涙を見せたことは、紛れもなくカルチャーショックに等しいはずだったろう。

結絃の決意と、強さへの反駁

結絃断髪結絃が何故、断髪をしたのか。敷かれた伏線が見事に繋がってゆく大今氏の手法には、毎度感心の唸りが鳴り止まないほどである。
硝子に求める強さ、結絃が感じた強さ。大母が見越しているように、西宮母も結絃もどちらも間違ってはいないのである。正論だからこそ互いにぶつかり合うこともある。そして気性の激しさは、やはり結絃は母親譲りなんだろうなと言う印象である。
長く伸ばしていた髪をばっさりと切ることによって、母親への抗議とした結絃の姉硝子に対する想いの強さと同時に、何故かそこはかとない限界を感じ、読み手の心を締めつけて止まない。

強くありたい。硝子を守るという意味に於ては反駁する母娘。当時は硝子虐遇クラスタに対して孤軍奮闘していた結絃も然り、硝子に強さを求めてきた西宮母も然り、疲労困憊の極限に至っていたのである。
だからこそ、将也が贖罪を込めて改心したことを、結絃も然りだが、複雑な思いを懐いているであろう、西宮母こそがそうした将也の気持ちを理解するしないを別としてダイレクトに伝わっていたのではないだろうか。

西宮家の世界を裹む、青き透徹の空

ゆづが涙を…大母様はいつの時代でも家族の菩薩である。なぞと言えば宗教でもやっているのかと誤解されてしまいそうだが、おばあちゃんっ子という言葉もあるように、祖父母が大好きで、また孫が一番可愛い、という考え方は人類普遍の幸福論の根幹ではないだろうかと思うのである。
全てを見抜いていると言えばまた大仰だが、亀の甲より年の功という。家族構成はどうなっているのかは分からないが、仮に西宮母が亡息の嫁だったとするなら ば、少なくても硝子の年齢分は側に見てきている。分からないはずがない。肩肘張ってはいるが、悪い人ではない。西宮家はそれとなく乾燥はしているが、崩壊 はしていない。もしかすると一般論からすればまだ仲の良い家族なのかも知れない。
結絃の不登校、硝子の障碍。確かにハンデはあるが、身内に凶悪な犯罪者が居るわけでもないのだから、絆は強いはずである。

そんな西宮家を透徹の空から温かく見守る天界に升遐した大母様と、主人公将也はついに直接的な接点そのものはなかったのだが、その結絃に対する遺言に秘め られた本質に、硝子や結絃を変えてくれた人(将也)に、この婆の思いを引き継いで欲しい、という願いがあると考えるのは飛躍しているだろうかと思うのであ る。
大母亡き後の姉妹、そして突き詰めれば西宮母をも、将也が変わって見守っていって欲しいという、シンパシーメッセージのような気がしてならないのだ。

将也が今、出来ること

ありがとう「仲良くしてくれてありがとう」
この一言は西宮母の心がどれだけ大きく動いたかと言う事を示す。将也にとっては少しだけ報われたような感じがしたであろう。
将也はよく、自分に何が出来るか。どう言う事をしなければならないのか、ということに齷齪している。しかし、特別何かをするということは必要ない。普通通りに、結絃に接し、永束や真柴に対するように硝子とも話をするだけで良い。
恋愛感情というところまで意識をすることもあるまい。天気の話だけでも良いのである。肉声でなくても、語りづらいことがあればSNS等のツールでも何でも良い。
限りなく遠く離れている世界。永遠に近づき合っている心の青方変移。将也も硝子も、その心裡に話をしたい。「君の声が聴きたい」という想いを伝え合ったばかりである。それで良いのだ。
将也の確かな歩みは、西宮家も然り、彼を囲む様々な関係にゆっくりとした変化をもたらしている。それ以上に確実なことはないのだ。


頑張れ! おばさん! (将也)
「誰がおばさんですって!?」というお約束な突っ込みが、不謹慎にも脳裏に過ぎった俺をお許し下さい。
喜多先生か (同)
手話を覚えましょうと言った言葉は出任せでは無かったのか。お見逸れしました。
そ (西宮母)
ドライな反応だが、これが西宮母らしいと言えばそうである。
お前が泣いてんの黙ってたのと同じだ (将也)
独り泣いていた場面を目撃。運が良い。
見ててイライラするわ! (西宮母)
硝子を「普通」に押し上げようと気張っていた、母なりの愛情なのであろう。
さっき ゆづが… (大母)
西宮家を大所高所から見守り続けてきた祖母の、達観した視点。さすがである。
仲良くしてくれて ありがとう (西宮母)
この言葉が、この母の心を大きく動かしていたことの証。そして、母も確実に変わりつつあるのである。