真に郷里を思えば紡ぎ出される、心を震動させるエモーショナルファンタジー

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達増拓也岩手県知事・編纂

総合評価★★★★★

岩手県の観光振興、並びに東日本大震災の復興支援を兼ねた岩手出身の有志漫画家によるアンソロジーの第 3集。
前集までとは違い、タイトルの通りWEB漫画として掲載されてきた作品を集約しているとされる。

掲載順と、オムニバスでテーマとしている題材は次の通り。

・池野 恋(星のおくりもの)/未来都市銀河地球鉄道壁画(花巻市花巻駅)
・飛鳥 あると(「キリコ、閉じます!」第3話,第4話)/阿弖流為(奥州市・蝦夷の英雄)
・空木 由子(「桜の木の下で」※第3回「いわてマンガ大賞」大賞受賞作品)/石割桜(盛岡市・盛岡地裁前)
・月 子(かえり道)/開運橋(盛岡市)
・とりの なん子(山地直送)/八幡平(八幡平市)
・ひうら さとる(22時間弾丸あまちゃん久慈ツアー!)/久慈市(2013年朝の連続テレビ小説『あまちゃん』)
・五十嵐 大介(リンダリンダとダラスコダン)/さんさ踊り(主に盛岡市の伝統芸能)
・竹谷 州史(すれ違うオムライス)/小岩井農場(雫石町)
・そのだ つくし(平成岩手御伽噺)/ファンタジー
・吉田 戦車(テペピト様)/国際リニアコライダー(岩手が誘致を目指している国際的科学事業)
・鈴木 みそ(岩手防衛隊)/森の図書館(大槌町)
・のなか みのる(確忍者誕生秘話~復興応援キャラクター確忍者まん丸~)/確忍者まん丸(一戸町のゆるキャラ)
・沢田 ひろふみ(金色の思い)/奥州藤原氏(後三年の役から藤原秀衡までのダイジェスト)

全体的に主にファンタジー色が強く、飛鳥あると氏の「キリコ、閉じます!」は好評なためか最後に描き下ろしとして4話目を掲載している。
個人的には「キリコ」は好きな作品なので是非、別誌において連載化を目指し、独立したコミックスの発刊を目指しても良いと思う。
池野氏、とりの氏、そのだ氏、吉田氏などの初期からの掲載陣は安定していて、月子氏などの比較的萌え要素が含んだ作家や、竹谷氏など
女性向な筆致が特長な作家、吉田・鈴木氏らコミカルな絵柄でソフトなギャグ要素を求める作家、沢田氏のようにシャープな筆致で秀麗に
歴史を辿る正統派など、多方面に亘る幅広い支持を得る全体的なアトモスフィアは、第1集の頃から不変的なコンセプトとしてある。
また、今集は特に各作家がそれぞれ特筆するべき岩手の名所名勝や地場産業を滲ませるなど、前集までに色濃かった被災地復興色はギリギリ
まで抑えられた内容になっているので、全国規模でも手に取りやすいアンソロジーに仕上がった。

個人的には生粋の岩手県人としてどの作品も甲乙付けがたいのだが、筆致やストーリー個々に拘るならば、飛鳥氏・月子氏・吉田氏・沢田氏
が好みの作家。まあ、主に筆致に依る部分が多いのでお聞き逃しを(笑)
空木由子氏の「桜の木の下で」は地元開催のマンガ大賞受賞作品と言う事で掲載ページは一番長い。ファンタジー色が強い理由はやはり、地元
が輩出した歴史的作家・宮沢賢治にリスペクトされている部分が多いからではないかと邪推。
良く言えば安定、悪く言えばこれと言って抑揚のあるストーリー性はなく、お世辞にもドキドキハラハラと言った興奮はないのだが、岩手県を
思うという情熱そのものは各連名作家からは伝わるので、一読の価値はあるだろう。

本連載を標榜する、飛鳥あるとの「キリコ、閉じます!」

「ゴルゴ13」のさいとう・たかを氏や、「サイレントメビウス」「ダークエンジェル」「彼女のカレラ」の麻宮騎亜(菊池通隆)氏が連名した前集とは異なり、今集はWEBコミックで起用された連名で編集された第3集となっている。
鷹岑としては、飛鳥あると氏の「キリコ、閉じます!」が筆致的にもキャラクタ的にも好みのど真ん中を突く作品であり、第1集から通算4話を収録。その人気の高さからか、今集では巻末に描き下ろしとして、当該の第4話を収録されている。

まあ、基本的に少女漫画誌や一般誌における漫画に寄稿されている作家が多く、いわゆるヲタク層と言われるクラスタに媚びるような絵柄は殆ど無いのだが、生 粋の岩手県人としては、連名作家の出身がどこであると言うことよりも、このアンソロジーが発案から数年経ても3冊目を発刊し、4冊目をも視野に入れるほど の支持があることに驚きと喜びを禁じ得ないのである。
さて、飛鳥あると氏の「キリコ、閉じます!」だが、この作品を通じて飛鳥氏の作品に共感。「ゴーガイ!岩手チャグチャグ新聞社」を全3集完走させた所以 は、郷土愛もさることながら、その中性的な筆致(要するに男性・女性双方に偏重しない絵柄)に漫画そのものとして高く感銘を受けたことである。
性別それぞれにあるとされる「萌え要素」というものからは一線を画し、そこはかとなく清潔感のあるシャープな線に、人物個々の性格。奥州の英雄・阿弖流 為、母礼らはイケメンに描かれてはいるものの、そこに媚びはない。何というか、主人公の江口キリコ、ボーイッシュな小林真帆というキャラにも、不思議な 話、性別を意識する事はない。まあ、恋愛要素というものがアンソロジー全体に対してないというのもそうなのかも知れないが、ゴーガイ!においても、終始飛 鳥氏の描くアトモスフィアに、恋愛的なものはなかった気がする。中性的な筆致が魅力と言う事は、言い方を悪くすればラブコメ向きの作家ではない、というこ とになりかねないが、勿論、この2作に関してだけの話であることを注記しておこう。

真の郷土振興を目指す作品とは

まあ、ある全国的有名週刊漫画誌で、つい先頃まで通算6年近く連載されていたある中国地方出身の漫画家が描いていたラブコメディがあるのだが、その漫画の 中でとってつけたように出身地の話題を取り上げて、その地元もコラボレートを試みたことがあるとされるのだが、傍目からしてもあまりにも中途半端で、東京 や四国地方にも手を付け、食い散らかしのような話に終わってしまった。
本来、地域振興というのはこのアンソロジーでもあるように、オムニバス形式や読み切りで十分であろう。もしくは、これ見よがしに地域の名前や名所名物をカットに入れて販促活動をすると言ったようなあざとさでもあるまい。
郷土愛というのはある意味愛国心と同義であって、強制したりあざとくステマをして人心を誘導するものではない。長く培い、また特別な想いがあればこそ自然とそれがネタとなって生まれてくるものである。郷土をアピールするのに、裸やハーレムは必要ない。
淡々としたアンソロジー全体を通じて湛えているアトモスフィアを感じるにつけ、そうしたジャンルの真骨頂を見るようなのである。