地方発信の話題作、終盤に到りソフトランディングを図る

大今氏、大手有名全国誌の不文律を守り、主要キャストの東京遷居を目指す

~岐阜県大垣市の風光明媚なアトモスフィアから、硝子が目指す煌びやかな大都会の行 く末

総合評価★★★★★

■ファッションモデルを務めた佐原みよこへの黄色い歓声に驚く将也達。ファッションコンクールの結果発表のために、渋るうえのをごういんに引き摺り東京へ と向かう佐原たちを羨ましそうに見送る硝子。そんな彼女にやりたいことがあるのかと尋ねる将也に、硝子は上京し尊敬する美容師の下で働き、美容師になりた い夢を語る。それに対して将也は硝子の東京行きに猛反対。結絃や家族に止める方策を尋ねるが埒があかない。そんな夜、佐原からグランプリを受賞し、東京行 き確定というメールを受ける。

西 宮硝子、絶望を乗り越え改復の先に見た花の都への冀望

佐原みよこ◆佐原みよこ・植野直花の成功

2014年第48号は何か一方で騒然たる展開があったらしいが、それを横目にして収束へと向かう聲の形本編。西宮硝子の自死未遂から端を発した将也昏睡篇 が明け、大きな山場を抜けた物語は、舞台大いに静謐にして、まさに澄み切った旻天の青空の如く将硝を取り巻く主要キャラ達もそれぞれに思いゆかしく収斂を 目指しているように見えた。

冒頭の佐原みよこはさも現実世界のトップモデル・冨永愛かくやとばかりのビジュアルに後輩女生徒達の黄色い声援を得、植野直花との確執を越えた先に見つけ た〝自分らしさ〟を信じ、刄ヶ谷龍月に散々酷評されていた「妖精の衣装」のコンテスト出展に到る。西宮硝子によって背中を後押しされたのだが、話を先にた どり着けると、コンテストは見事にグランプリに輝き、植野直花とともに一発で自分の夢の第一歩を踏み出せたという、何とも喜ばしい帰結を得た。
一般的に様々なジャンルのクリエイターになるには、大いなる葛藤や苦悩があり、日夜辛酸を舐める思いを感じながら努力する姿を想像しているのだが、こうも 天質が備わっているとなると、そうした努力家達はぐうの音も出るものではあるまい。
チーム永束のいわゆる〝片手間〟が、実はあらゆる苦難を乗り越えた彼らの昇竜の切っ掛けであったこと。そして、将硝を支えてきた彼らの夢の向かう先は、や はり未来ある「東京」という大都市に向かうのである。

◆硝子もまた、東都への夢沸々と

佐原らに感化された西宮硝子。おそらくはそれ以前に彼女なりの〝夢〟を懐いていたのであろうが、それが奇しくも上京。という選択肢であったのは、大今良時 氏、というよりもさすがは大手出版社の全国漫画誌らしいものであったと言えよう。言いたくないです…
紛いなりにも一時は絶望して自死を図ろうとした少女が、時系列はともかくとして短期間で岐阜から遠く離れた東京一択の遷居を目指すところが、かつて連載さ れていた君のいる町という漫画の田舎篇から東京編への舞台遷移を想起させるに難くない。

単純に考えて、東京とは言わずとも岐阜から近い大都市ならば、東北岩手に住む愚拙鷹岑ですら、名古屋か京都であると推察するわけで、西宮硝子の東京遷居の 大義が、尊敬する美容師の店がそこにある、という尤もな理由である事も完璧さが齎す効果である。
まあ、名古屋や京都にも硝子が行ってくれるならば、石田将也も近くて良いのだろうが、そこに尊敬する人はいないから。と言われてしまえば硝子を大切に想う 将也も何も言えなくなるだろう。せっかく引き合いに出したから想起しよう。東京に帰って行ったエバ某を追いかけようとする桐嶋ハルト。東京に行っても傷つ くだけだと必死で止めようとする加賀あかり。何故、東京に行くのか。何故そこまで東京に拘るのか。そこにエバがいるから。である。

岐阜県大垣市を舞台とした、大今良時氏のシャープでかつ精緻な背景描写によって表現された風光明媚な雰囲気。聲の形のメインストーリー、完璧で切なく、ま たそこはかとなく懐かしさを感じさせる人物相関もやはり最後は東京という、花の都に呑み込まれてしまうと言うところが、地方を舞台にした作品のある種の法 則に沿う形になっていくのかなあという感想である。

○別離こそがハッピーエンドなのか

大手全国漫画誌に連載されている以上、東京を貶める。或いは東京を話題にしないと言うのはタシット・ルールなのであろう。東京は怖いよ・・・
どうしても東京に行きたい。珍しく強くそう主張する硝子を止めようとする将也。まあ、硝子が行くなら行くで、将也もまた周辺に押される形で上京するのだろ う。
鷹岑はいわゆる〝別離こそがハッピーエンド〟という法則があまり好きではない。ラブコメでなくても良くある二人それぞれの道、前向きに進もう。いつか何処 かで会ったならば笑顔で思い出話を語ろう。そういう展開を好まない。どんな理由であれ別離は悲しいからだ。当たり前だろう。聲の形を読めば、将也でさえ言 葉にはまだ出してはいないが、経緯はともかくとして硝子は将也のことが好きである。多分、事実上のプロポーズのようなことを告白した手前、将也は硝子の傍 にいてもらいたい気はするのだ。

まあ、硝子は東京へ。将也は地元へ。青春の甘酸っぱい想いを……と言うにははげしい語弊があるのだが、いずれにしろ、この作品が事ここに到って将硝を別れ させようという機運は酷というものである。

将也、お前も東京に行ってこい featuring 母に捧げるバラード

止める方法は・・・硝子の東京遷居の決意に反対する将也。しかし、半ば呆れ気味に遇う結絃や将也母。裏を返せば、オレも一緒に東京に行きたいんだ。と言うことである事くらい見抜いているだろう。
将也は心根が非常に優しい。悔悛を越えて、心の縁の喪失を怖れ半ば焦っている。
「将也、将也。東京へ行きなさい。お母さん、アンタがここにいなくなっても何にも寂しくはないわよ。ただね、東京に硝子さんを追ってゆくんなら、休みたい とか、遊びたいとか。一度でも思ったらだめだよ。その時は息子でもなんでもない。そして硝子さんとともに、小さな幸せを掴んでたまには帰って来なさい」
…とまあ、そんな感じのセリフを将也旅立ちの前夜辺りに語って欲しいものではある。
仮に将也が東京に行った後、母が寂しくないかと将也はきっと思うだろう。大丈夫だ。安心しろ。この鷹岑、聲の形の世界に入りてお前の母を大切にしようぞかし。


え? は? なんで私も? (植野直花)
キカン猫・植野直花さんがすっかりと丸くなってしまいました。佐原がひと皮もふた皮もむけて彼女を圧倒。
俺も全力で応援するし (石田将也)
高を括っているようだが、男に二言はないぞ将也。
とうきょう・・・ (西宮硝子)
あらすじでは「秋」と言明。絶望の淵から数ヶ月か。硝子は堅い意思を持って花の都を目指す。
今までの姉ちゃんなら (西宮結絃)
それを後押ししてくれたのが石田将也である。戸惑いは、将也の小さな怖れ。
西宮を止める? (将也)
西宮硝子の東京行きを止めたいんじゃない。自分も硝子と共に東京に行きたいという裏返しのように聞こえる。
来年の東京行き決定!! (佐原みよこ)
お誂え向きのクリエイター登竜門、一発グランプリ突破! “物語”ゆえの収斂手法。