アニメヒットと長期休載が好循環となった稀有のロングセラー作

かんなぎ第10集かんなぎ 第10集

評価★★★★★

事実上の新展開第55回~第61回、番外編・幕間を含めて収録されている。
ナギに課せられた運命はそのままに、暗黙のテーマでもあったナギと仁の恋愛的観点に焦点が当てられ、ラブコメディ色が徐々に強くなりつつあるところに注目 される。
不安定な存在として復活したナギ。仁を巡る想いに逡巡する心。再び御厨家から遠離るナギに平穏な時は再び訪れるのか。
改めてこの作品を読み進めてみると、初期の頃からの筆致の変化が極めて目立ち、アニメ放送時期(長期休載期間前後)からの賛否は分かれるところではあろ う。
ただ、個人的には劇中で登場する通話アイテムがガラケーであるところに、時系列がきちんと安定していて強引にトレンドを用いていないことへの好感がある。 武梨氏は後記で「時代遅れになる」と嗟嘆していたが、辻褄が合わなくなることや、不用意にトレンドを用いることでの設定破綻を招くよりはずっとマシであ る。と言うわけでガラケーを出していることで星評価は+1の5とさせて頂いた。

アニメのヒットを契機に降り坂とはならなかった、長期休載期間の成功

随分とまた筆致が変化したものである。かんなぎのアニメをたまたま深夜に観かけてその面白さに嵌まってDVDを全巻揃えたのもプラネテス以来。客観的に捉 えてもこの作品はすこぶる評判が良かった。巫女ブームの席捲があったかどうかは憶えていないが、かく言う鷹岑が本当に久し振りに嵌まった現時点で最後の作 品でもあるので、殊の外思い入れは深い。
単行本ベースで見ると、それでも初期の頃から大分筆致が変わってきた。個人的には第1集から中盤に掛けたのっぺりとした筆致が好みだというのが正直な話。まあ、筆致の変化は致し方あるまい。

第二期を期待されながら今のところは沙汰止みなかんなぎだが、第一期のアニメの直後に作者急病による本編長期休載という不運に見舞われたのだが、結果論としてみれば、それが良い方向に作用した、というのはまさにかんなぎ様の御利益とでも言えるだろう。
アニメのヒット。しかしかんなぎの連載ベースは大手週刊漫画誌のような、老若男女に知名度の滲透したものでもない。ヒットするのは良いが、終わった後にブームが初秋の夜の如く昼の暑さを忘れたかのような涼風にそよぐ。
だが、アニメのヒットと第二期への期待が爛熟期を迎えたところで長期休載が始まった。かんなぎ再開に向けた期待感は、固定ファンを繋ぎ止め、また増幅はせ ずとも確実にかんなぎファンの心に対する保温効果が生まれたと言っても過言ではない。作者が実は大病だった、という事実もかんなぎを厚く支持する相乗効果 をもたらしたのである。

さて、その本編だが物語もいよいよこの第10集に至ってようやくラブコメディ色を滲出させてきた。今まで違っていたのか、と言う話になるのだが、どうもオ タクの内情にトピックされたギャグメッセの色彩が強く、またメインヒロインのナギもそれほど読者の心を鷲掴みするラブコメのヒロイン然とした振る舞いに乏 しかった。ヒロインのつぐみもいまいち押しが弱い。火上祥峰もどうもラブコメの相手役としての任に能わず、と言ったところである。
ケガレに侵食されたナギ、というところで長期休載に至った本編。再開からここに至って新展開となり、それでもナギと主人公・御厨仁の間に立ちはだかる壁は 決して低くはない。必ずしもラブコメ色を強くしてグダグダとした展開を求めているわけではないが、個人的にこの作品にのめり込む基本ロジックとしてそうい う流れを期待している部分があるので、ようやく始まったのかなと言った感想である。

まあ、アニメ化以前からかんなぎのファンだったとしても、足掛け6,7年にはなるのだろうか。10歳でファンとなったとしても高校生、二十歳でファンとなった人も粗方社会人や所帯持ちの人も少なくはないだろう。
鷹岑が一番感心しているのは、作中で出てくる携帯電話が、時系列を捩じ曲げず、ガラケーのままである、と言う点だ。ここは星評価でもそれだけで1を付け加える最大の要素であった。
時代の潮流やトレンドを意識して、その漫画時空にありながらも持っている電話だけは次世代型、という違和感もある中で、作者はきちんと作品の時代を守り、 コンテンツアイテムをその時の潮流に沿ったものにしているところに、こだわりを感じ、またファン層を大切にしている姿勢が窺えるのである。

アニメの第二期への希望は廃れず、地道に連載を続けてゆかれることを切に願うものである。