清純派うららの 薫風受けるも龍海波濤起たず、されど小春への壁峭峻なりて…

ハレ婚。第5集ハレ婚。第5集

評価★★★★

「一夫多妻」という現実の日本の国民性からは非常に困難な特区制度があるという、茨城県北つばめ市という架空の町を舞台に繰り広げられるファンタジック恋 愛ドラマの第5集。2ヶ月連続刊行という強行サイクルの第一弾となっている。
主人公・伊達小春が家出中の家出編・第38回からハワイアンズへのハネムーン編初回の第47回までの全10話を収録。
構成の手塚だい氏が手掛けた書き下ろしのショートノベルの第2回を巻末に掲載している。

作者がSNS上で実施した人気投票で、作中の出番が少ないにも拘わらず上位に食い込んだ「松橋うらら」がカバーを飾り、ヒロインの小春・柚子・まどかの三 人に追随する存在感を作中でも発揮している。また、新キャラとしてほぼゲスト扱いだが、小春の学生時代の想い人として「武田恒星」が登場している。

さて、物語の流れとしては前集までの流れとほぼ同じで二進一退の平坦鈍足で、小春の反抗先行の葛藤に対して龍之介の余裕綽然とした腹黒さに、武田もろとも 取り込まれてゆくという様式。今のところハレ婚生活そのものの崩壊危機や離婚の予兆というものはなく、小春が龍之介一家の生活に馴染んでゆくという行程を 描いてゆく状況なのだろうが、そろそろアクセルを踏んだ変化が欲しいところではある。

物語そのものは小春の心情描写を語り部として、龍之介との距離縮小を基本に据えているので、そう言う意味では次第に距離が縮まってゆく二人の姿というのが 楽しめるのだが、一方で柚子やまどかと言った、二人の正ヒロイン格との掛け合いが十分とは言えず、キャラクタとしては個性があって良いのだが、本編中では 龍之介と小春の関係に対する相乗効果を生ずるほど存在感がないのが残念なところだ。

また、松橋うららと武田恒星の新キャラだが前者は余白の作者欄において今後の活躍に含みを残しているが、後者は無いと明言されているように、基本的に小 春・龍之介ら主人公格らに今後の波乱の素因を投げかけるほどのマターとはなりにくい立位置になってしまった。いずれも作者が出してみたかったキャラクタ、 という位置づけのようである。

ただ、男性キャラが龍之介という特異質な性格付けでなかなか感情移入しにくいのに対し、武田恒星の性格は作者が気張らずに設定したこともあってか、極めて 平均的な「今どきの若者」然に仕上がっていて共鳴する部分は少なくても龍之介よりはある。松橋うららは逆に「普遍的な男性の理想像の集約」とされている 分、ハレ婚。の世界の中では毛色が目立たなくなってしまう可能性もあるので、劇的な豹変が期待されるキャラと言っても良いだろう。

異質だからこそ主人公たり得る伊達龍之介

はっきり言ってしまえば、この手の物語における主人公は普通では生きて行けない。と言うか、アクの強いキャラクタであればあるほど、現実的ではなくなる。 となると、感情移入もその分遠ざかるわけで、後に残るのはヒロインキャラに対する選り好みと言うことになるのかも知れない。
下手に物語性を強調してしまえば途端につまらなくなる。元々ナンセンスな世界設定なのでもっと自由奔放に展開しても誰も文句は言わないだろう。
だからこそ、松橋うららという女子高生キャラをも自由に登場させ、小春や龍之介らとも絡ませることが出来るのだ。

武田恒星――――非現実の世界に投影された現実武田恒星

作者の設定画からは非常に粗雑な印象を受けたゲストキャラの武田恒星。決して報われることのないキャラクタであることは確定しているのだが、不思議なもので、こうしたいわゆる“捨てキャラ”が一番現実味のあるキャラクタに描かれると言うことが多い。
小春が高校時代に告白したという相手という回想シーンから肉付けがされていったキャラクタだが、既婚者で妻は妊娠中。しかも特有の情緒不安定気味で生活は 針の筵。高校時代はがさつで相手にしなかった小春が美人に変化していてまさに逃がした魚は大きかった、と悔悟の涙を流すが後の祭。
それでも武田は小春の身体を求めて色々と場当たり的な優しさを見せようとするが、鈍感な小春はそれにすら気がつかない。

さすがに龍之介とのバッティングはドラマ感が溢れているが、小春は自分のことを好きだった、とどや顔で語る様子は、男って言うのは総じて自分の都合の良いように物事を解釈してゆく生き物なのだなと言う事を改めて実感させられる。
少なくとも、龍之介にシンパシーを感じることは少なくても、武田の気持ちは良く分かる。と言った読者の方が比較的には多いような気はするのである。

小春帰還と今後の展望

家出編終章小 春家出編とも言える今集は、武田恒星という波乱要因にもならなかったキャラクタの一喜一憂で幕を閉じた感があるが、小春と龍之介の仲がどう進展してゆくの か、という点についてはストーリーの根本的な進展は見られなかったと言える。まあ、龍之介のことを好きだと気がついた描写はあれど、それは本質的な部分で 今更言う迄も無い話であって、特別注目するべき点ではあるまい。
ただ、基本設定が「ハーレム結婚」という、この世界でもあまり滲透しているとは思えない制度。ハレ婚生活の崩壊危機などの様々な危機は想定される。
それが特区制度の消滅や、単純に小春を始めとする、柚子・まどからのハレ婚生活の脱退など単純な路線が想定されるが、制度枠の第4夫人の座に注目されよう。
それが、鮮烈な登場を果たした松橋うららの活躍を示唆した作者欄の雑記に寄せる期待はあるが、別の新キャラによる危機惹起。伊達龍之介が、止ん事無き事情でこのまったりとした生活の終焉を告げるなど、選択肢は多いと考える。

ただ、紛いなりにも第5集・第47回まで引っ張ってきた手前、そうした読者の想定の範囲内で進めば、陳腐なハーレムラブコメ、というそしりは免れないだろう。NON氏の活躍に期待する。