現状維持の“不満”を選ぶか、未来ある “不安”を選ぶか。高森杏寿物語

ホリデイラブ~夫婦間恋愛~第2集ホリデイラブ~夫婦間恋愛~ 第2集

評価★★★★

マンガボックスで連載されているNTR系恋愛漫画。第10話~第18話、特別編の後篇を収録。
出会い系サイトで知り合った井筒里奈と一時の過ちを犯してしまった高森純平。悔悛の念を献身的に妻・杏寿に示すが、純平を赦すことが出来ない杏寿だった。 しかし、純平を慕う娘・七香や友人、肉親等の声らに懊悩する。そこへ、謎の女・坂口を介し出会い系を通じて同じネイリスト・黒井由伸と出会う。
純平への想いを断ちきれずも、不倫を赦せない杏寿の懊悩を基本軸に、純平の捨身必死の謝罪と職場や娘・七香、肉親や杏寿の友人などが純平を掩護射撃する展 開は変わりがなく、純平の過ちの相手だった井筒里奈は夫・渡のDVからの逃避を純平に縋るという構図は本集でも蹈襲されている。
単純に読み進めてみれば、純平は里奈に対して表面的な謝罪と突き放しによって井筒家との終熄を図り、杏寿の赦しを得て家庭復帰のみを優先するという、仕事 は出来るがプライベートは屑というキャラクタ付けとなっていて、それでも男性読者側と、女性読者側で評価がくっきりと分かれるというベテランの女性恋愛作 家らしい視点で物語を進めている。一方、本集初登場で杏寿に深く関与することになる黒井由伸(ノブ)は、女性は美しく在り続けるべき、女癖の悪さは男の恥 と高言するフェミニストだが、杏寿に接近を図るなど油断ならない存在として描かれる。
浮気や不倫については、MBの感想欄に投稿されている恋人や結婚生活を送っているパートナー同士での討議がリアリティ感があるだろうが、そう言う立場では ないシングルパートの立場で読み進めてみると、純平は元より、杏寿、里奈、渡、黒井、謎の女・坂口らはまとめてクズという極論に達する。
物語は杏寿の心情描写を中心に進むので、必然的に男性側は都合の良い同情心の煽動で弱さを発露され、井筒渡に関してはDVが里奈によって強調され同情の余 地がなく、黒井はフェミニストを気取ってはいるが、杏寿に対する本音と建前がいまいちよく分からない。唯一、第三者的な立位置でシンパシーを感じるキャラ は、杏寿の親友の安達ハナや、熊野組の面々と言ったサポーティングアクターである。
仕事が出来、人望篤く、家庭思いの優しいマイホームパパという、理想の男性側から発せられた不倫による家庭騒擾をテーマに置くも、女性側から発せられた井 筒家は当初から夫の嫉妬猜疑心の強さやDVが根底にあるという意味合いから、男性側に対する同情の余地はやはり狭くなっている。
しかし、それでもなお純平を赦すことが出来ない杏寿の心情心理を理解しようとするならば、「不満は現状維持」「不安は未来を拓く」というある人生相談アド バイザーの言葉よろしく、純平との婚姻関係維持が不満を封じ、離婚の決断は新しい未来を拓くという選択肢が、杏寿には与えられているのだと考えてやまない のである。

「リア充爆発しろ」が、実際に爆発してしまったら、のお話

第一集の考察でも言ったが、このホリデイラブ~夫婦間恋愛~という作品は、寝取られ推奨漫画(NTR系)である。読者層は10代から60代までと非常に幅 広いとされている(マンガボックスの感想記事欄上)のだが、杏寿の気持ちが分かる。純平頑張れ。里奈可哀想、DV反対etc.
様々な実体験を基軸に討議が成されているが、ぶっちゃけた話、単なるNTRだろう。大人の恋愛譚、不結実の終極と言った美談で済ますなど烏滸がましいくら い、クズ連中がこの人実はいい人なんだよ、こんなに君のこと愛しているんだよ。と持ち上げ続ける胸糞漫画に相違はない。

一般的な少年誌系のラブコメの更に進化した内容であることには違いがない。これはマンガボックスという媒体に掲載されてはいるが、実質ゴシップ記事やス クープ記事が売り物の週刊大衆誌の漫画コーナーに連載されるような内容である。
この作品にはメインキャラクターにシンパシーを感じるようなキャラは皆無である。まあ、不倫をテーマにした素材で不倫を犯した発信源は人非人な扱いである ことは言う迄も無いが、被害者の配偶者にも問題がある。
井筒里奈の夫・渡は嫉妬深くDV。まるで細川三斎忠興のような男。
高森杏寿◀高森 杏寿
30歳。主人公。夫・高森純平は大手ゼネコンに務める32歳、現場主任の出来人。自身は「ネイルサロン・アズ」を自宅で開業している。結婚約7年の中堅夫 婦。
家庭大好きな夫・純平に感化されて新婚当時のようなラブラブな関係が続いているが、一子・七香の母親であり、妻という立位置にありながら「女性」であり続 けたいという願望が、純平に対する不満と猜疑心を強くしている。謎の女・坂口から勧められた出会い系サイトへのアクセスを切っ掛けとして、杏寿と高森家の 波乱の幕が切って落とされる。

「女」であり続けたいという、女性ならば誰でもそう願う想いを、出会い系サイトは叶える場として杏寿は映るが、同時に純平への猜疑心を一気に増大させる契 機にもなった。ラブラブな夫婦関係は張り詰めた風船のようなもので、ひとつの過ちが破裂してしまうという典型。「浮気は男の甲斐性」という男性視点の都合 の良い考え方に真っ向から反発する、女性のシンパシーを集めるキャラクタである。
確かに、女性に暴力を揮うなどとあり得ない。だが、井筒の家はお察し余り有る環境。DVは病気だとしても原因はあるもので、一概に暴力夫は極悪非道と片づ けてしまうのは性急というものだろう。子供も数人いるのだから仲は悪くはないはず。だが、それでも里奈が出会い系に手を出す切っ掛けはDV。それを掲げら れれば手段はともかくとして一概に里奈に対する批難はしにくいものだろう。被害を受けたキャラの中でも渡は特に貧乏籤を引いてしまったのだ。同情はしない が、察する。

瀬尾公治先生が描けない世界

ラブコメはすったもんだの果てに結ばれる(恋人になる、或いは結婚する)までを描く甘酸っぱい、それこそ青春浪漫譚なのだが、それを読み聞き「リア充爆発 しろ」が本当に爆発したらこんなんなるんだよ、みたいなラブコメ爛熟の果ての腐敗。という人生の盛衰を見ているようで、鷹岑としてはまた別世界の話だから 飄然として読み進めることが出来るわけだが、一応、マンガボックスと連繋があるマガジンつながりでいう、「涼風」「君のいる町」「風夏」の瀬尾公治君。マ ガジンラブコメの旗手と高言して憚らない彼だが、言うなれば秋月大和と涼風夫婦がこのホリデイラブの主人公達を演じ、桐島青大・柚希の桐島食堂夫婦の波乱 転覆を描くような物である。
どうであろうか、瀬尾公治君には決して描くことの出来ないテーマである。彼が全18集(涼風)と全27集(君のいる町)掛けて描いた馴初めを、ホリデイラ ブは特別編の1,2話で集約させている。サクセスストーリーではない、フォールストーリーである。御都合主義や、悪人無き世界しか描けない場合は無理であ る。
井筒渡
▶井筒 渡

里奈の夫。公認会計士。嫉妬深くDV癖があるという、現世に蘇った細川忠興のような人物。しかし、それまで何の脈絡もなく気がつけば美人妻が出会い系なん ぞに手を出し、どこぞの馬の骨とも知らぬイケメン野郎と、自宅のリビングで堂々とエッチをしていたら彼じゃなくてもブチ切れるのは当然の話で、考えてみれ ばホリデイラブ作中、一番の悲惨な境遇を持つ人物なのかも知れない。
しかし、里奈に対する執着心は三斎宗立(細川忠興)も真っ青で、不義を働いた女として一生惨めに生きてゆけや、子供の見ている前でちゃぶ台返しで平手打 ち、忘年会は挨拶程度でさっさと帰ってこいなど、里奈をさも奴隷のような扱いで拘束しようとするひどい奴だが、それも愛のひとつだという格好いいことを言 いそうだが、日に日に里奈の恐怖心が増し、愛情も冷めてゆくという、彼にとってはやることなすこと全てが裏目に出るという、リア充爆発して真っ白な灰すら 残らない状態という悪循環に藻掻き、偏頭痛を患っている。結婚しても、こうはなりたくない。尻に敷かれる方が余程マシと、かかあ天下の素晴らしさを身を以 て教えてくれている。

テレフォン人生相談、加藤諦三先生曰く……

人生相談ではよく浮気や不倫の相談を受けるが、掛けてくる相談者というのはある程度方向性が決まっていて、パーソナリティーや相談する専門家に後押しが欲 しいという本質が見える。
離婚した方が良いのか、しない方が良いのか。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだが、先日の加藤先生の金言で「不満は現状のままを望み、不安は未 来を切り拓くことを望む」というのがあったので引用した。なるほどである。
ホリデイラブの主人公・杏寿は、確かに純平に対する「不満」はモノローグなどでつぶさに述懐はしているが、いざ離別したときの先に対する不安というのは殆 ど感じられない。純平の不義に対して容赦しないという気持ちは強いものの、離婚する、愛情が冷めたという踏ん切りの良さがない。つまり、杏寿は純平のこと を愛しているという事なのだろう。だから、不満を抱えていた方が良い。加藤先生からすれば、キッパリと離婚するならする。将来の不安はあろうともネイルサ ロンという手に職もあり、縦しんば大きなサロンに就職して、シングルマザーとして七香を養い食っていける位は稼げるはずだ。未来を切り拓くというのはまさ にその通りで、今のところ、杏寿はそうした一歩に逡巡しているというところなのであろう。

鷹岑だったらどうするか

「お前はそういう立場じゃないから何とでも言えると思うが、実際にその立場だったらどうするよ」と問われたとしたら、鷹岑は正直答えに詰まる。まあ、第1 集で描かれた、純平と里奈の出逢いの端緒というものを見れば、ネット上の文字で紡がれる言葉の魔力というものが、いかに想像力を刺激し、自分自身をドラマ の主人公に置換してアクタードランク(アクトレスドランク)するかというところである。
「俺は絶対に浮気なんてしない」と断言するのは、「俺は絶対に詐欺には引っかからない」というのと同義で、いざその立場に身を置かれるとそういう日常の覚悟や理念が一瞬に吹き飛んでしまうというのは否定できないことであろう。
だからといって、さだまさしの「関白宣言」ではないが、「浮気はしない。多分しないと思う。しないんじゃ……ないかな? ま、ちょっとは覚悟はしておけ」 というフレーズは男の立場としては健全な証拠ではある。女性側にそんなことを言って開き直るのも余程問題はあるとは思うが、浮気や不倫というのは、出逢い があってこそ出来る可能性というものであって、そう言うプロセスを踏めること自体が鷹岑は正直凄いなとは思う(まあ、同じようなプロセスを踏んだからこそ 結婚できるのであるが)。

いずれにしろ、鷹岑としてはホリデイラブで感情移入できるようなキャラはいない。気持ちが分かる。そう言うものだろう。程度な話であって、いずれのキャラクタに対しても駁撃したいという気にはならないというのが正直な感想なのである。