壮大な世界設定が不均衡だった、魅力あるキャラクタ性

戦渦のカノジョ 第4集戦渦のカノジョ 第4集

評価★★★★

第28回~第37回を収録。
「ウィキテロリスト」対「自衛隊(国家権力)」という厖大な物語を基幹とした、主人公・松田優樹とメインヒロイン・藤宮真琴たち高校生たちのサバイバル活 劇は、舞台を名古屋に移行し、本格的なテロリズムとの抗争に突入する場面を描く。

今集では物語として“佳境”入りをするという進展から、テロリストからの攻撃や仲間達の生死が分かれる展開など、コンセプトの通り、見せ場の多いチャプ ターが連なる構成になるのだが、この物語は冒頭述べた「テロ対世界」という非常に大きな世界設定の上に、主人公とメインヒロインの恋愛要素を取り入れ、かつ仲間達の友 情・絆、テロリストの“大義”などと言った非常に複雑な要素を捌かなければならないという難題を常に背負っているのだが、世界が荒廃し、仲間が脱落してゆくという 重い展開の割には、主人公が満身創痍という状態ではなく、成長しているとは言いながらも、遅疑逡巡を繰り返し本来の主人公たる存在感にやや欠ける部分が目立つ。

今集に至ってテロリストが本格始動はするものの、ウィキテロリズム(サイバーテロ)とは言いながら、物理的手段によって主人公達の仲間を巻き込むなど、い わゆるネットを駆使し、政府機関のコンピュータをハッキングするという“暗躍”どころか、いわゆるレジスタンス的な「尖兵」という矮小化に、想像に違う部分を露 呈した。
また作中・自衛隊が対テロリストの実働部隊として、物語のキーマンたり得る活躍を見せているのだが、それも主人公側との均衡が保たれず、重い意味を成す組 織としてではなく、単に主人公にとって「いい人たち」という存在に収まっているのも、この物語の世界設定と、実際のストーリーの不均衡を象徴している。

ただ、ネット上での激しい批判を真に受けるほどでもないと言うのも事実であり、冨沢氏が設定したこの作品の世界観や、個々のキャラクタの魅力は率直に評価 して良い。
主人公・優樹が情けなくも真琴と共に歩んでゆく過程で大きくなろうと足掻く様子や、実質のメイン主人公であろう、ヒロイン・真琴のビジュアルやその存在感 は、恋愛要素という当作品のひとつのコンセプトの上に立てば非常に魅力的である。ただ、第二ヒロインである「陽菜」の存在は埋没気味なのが残念だ。

全体を俯瞰すれば、佳境の第4集は既述のように広大な世界設定と実際に動くキャラクタ達が不均衡で第3集までの内容の流れとすれば迷走気味ではある。
しかし、冨沢氏が示した設定の上に立ち、また人物相関がしっかりとしているので、優樹・真琴・陽菜ら個々のキャラクタに視点を移して読めば決して違和感を 懐くような内容ではない。
以上の観点から、世界設定は過大だが、個々のキャラクタそのものの魅力、相関関係、冨沢氏の当作に対する努力の評価と期待感から、星4の評価と位置づけ た。後日譚の描き下ろしを望む最終集に期待したい。

一城陽菜、優樹への想い披瀝する遑なきサバイバル

第3集のカバーで、メインヒロイン・藤宮真琴とツーショットを構えて、堂々たる第二ヒロインの座を確保していた一城陽菜。戦渦のカノジョ第一話で死亡退場した、主人公二人のキーパーソン・一城怜惟の瓜二つの実妹なのだが、どうも彼女の存在が薄い。
姐御肌の怜惟は真琴に強いインスパイアを与え、優樹の進む道を示したほどで、陽菜の存在がある意味、この物語の“恋愛”要素を担うべきキャラクタだったの だが、救出・帰北の途次、優樹にはけんもほろろに邪魔者扱いされるや、真琴に甘えられるものの、急転直下の修羅場の中で、台詞そのものが激減していく。
鷹岑は、戦渦のカノジョに関しては、捌ききれないほどの壮大な世界設定の中で恋愛要素は非常に難しいものがあるとは思っていたが、それでもやはり、キャラクタが魅力的なんですよね。
一城陽菜 真琴はメインヒロインだから別として、陽菜はその他の女性キャラとは別格。と言うよりも、第2ヒロインとして当初からキャラが立っていた。怜惟の瓜二つと いう設定も良い。性格は正反対なのだろうが、姉御として優樹の尻を叩いていた怜惟とは違って、陽菜は優樹に思いを寄せる。優樹・真琴の二人の世界にあって も、諦めない表情が、陽菜のキャラを立てていた。
ただ、メインストーリーが陽菜にラブコメディを演じさせる余白を与えなかったのが痛恨だった。
陽菜のキャラクタを立てるためには、対テロリズムに当てはめてみて、陽菜やその親密な人物が敵方に通じているなどと言った、ストーリーの根幹に係わる部分 を強調させるなどの工夫が必要だった。そうでなければ、藤宮真琴というメインヒロインがいる中で、陽菜の対抗できる余白はない。

個人的には正統派ヒロインの真琴よりも、陽菜のようなタイプが推しなので、出会いの頃の特異性なき大人しさがある意味拍子抜けだったと言える。率直にもったいないキャラだったと言うことだ。
戦渦のカノジョのメインコンセプトであるウィキテロリズム(サイバーテロ)側の息がかかった、一種の「悪役的なヒロイン」という設定も面白いかも知れな かった。真琴が敬愛し、優樹がリスペクトする怜惟の妹が、優樹らが立ち向かうべき巨悪の一味であるという葛藤・・・など、人物相関の深みと、こうした広大 な世界設定の調和を図るためには、感情あるキャラクタを、敢えて黒く染めると言うことが必要だ。ただし、殺すことはない。
根幹の中終盤に登場する、ウィキテロリストの女性が主人公達との相関関係がないというのももったいない話であり、陽菜がますます埋没してしまう結果になった。

自衛隊×ウィキテロリスト

サイバー攻撃を主体とする「ウィキ・テロリズム」が物理攻撃で国家や街を破壊し、既述の一城怜惟らの人命を奪ったことから物語は非常に厖大なものとなった。
彼らとの対決は日本の国防軍(自衛隊)を巻き込み、世界の指導者達対ウィキテロという構図さえ、劇中の雰囲気から見いだしたのだが、自衛隊を本編に絡めて しまったことで、主人公達の行動に対する理解が迷走したと言える。敢えて、自衛隊という国家機能にスポットを当てない方が、この作品にとってはある意味良 かったかも知れない。
一応、降りかかった災厄と、少年少女のサバイバルグラフィティ・恋愛要素というテーマなので、国家の機能をそういう個人的な感情部分に絡めるのは相当無理がある。

国家機能が名もなき少年少女達を救うという理由付けにはやはり、優樹や真琴、あるいは陽菜らにそうせざるを得ない理由付けがなければ齟齬が生じる。ウィキ テロリストによって破壊された町や避難する人々は彼らだけではないので、明確な理由や曰くが必要だ。大きな設定がある以上は、大きな理由がなければならな いのである。
ゆえに、ウィキテロリストの存在は由として、自衛隊そのものがここまで主人公達に介入する事が、「何故?」という疑問と共に、読者側の期待感と、作者側との乖離を指摘される素因でもあっただろう。
恋愛要素をも活かしたいのであれば、自衛隊を無理にひけらかす必要はなかったし、出すのならば、主人公サイドにそうした大きな理由付けが欲しかったのである。