自己責任か、国家への甘えかが問われる官製恋愛

恋と嘘 第4集恋と嘘 第4集

評価★★★★

マンガボックスの連載を単行本用に編集した第15話~第18話、15話の後に番外編を挿入した、実質5話を収録。

主人公・『ネジ』こと根島由佳吏、メインヒロイン・高崎美咲、真田莉々奈、そして実質の主人公と目されるネジの親友『仁坂悠介』の四人が織り成す、国策恋 愛主義、官製結婚社会の中で、甘く切ない想いに藻掻く少年少女を描いた、ファンタジーラブコメの第4集。
今回は、文化祭での演劇出展「ロミオとジュリエット」に絡む一連の流れがコンセプト。かの描き下ろし以降、絶大な人気を誇る実質主人公・仁坂悠介の“秀 麗”な場面も必見である。仁坂ファンは必ずご覧じろ。

さて、本編「恋と嘘」を俯瞰してみれば実に奇怪至極で、第4集に至りさらにそれが強調され、またせっかくの世界観が矮小化されつつある。
まずは本来の世界設定。はっきり言って、この世界は単に管理社会と言えば聞こえは良いが、実態は人権がなく、国策による恋愛勧告と官製結婚という、社会主 義独裁国家も真っ青の全体主義であると言うことなのだが、不思議なのはそうした国家の尖兵であるはずの厚労省官僚・矢嶋が少なからず制度に疑問を匂わすモ ノローグを飛ばしつつも、そうした国策を強く推し進める側の人物(物語的には悪役か)が、未だ登場しないことにある。
本来ならば、矢嶋や一条が政府国家の尖兵として私情なく無慈悲で無機質な国策推進を図るべき立場なのだが、主人公の学校の先輩などという設定にされ、少な からず自由なき恋愛に疑問を懐いているなどという事では、この「恋と嘘」が設定している本来の世界観の重大性を損ないかねないのである。
また、文化祭の出展、演劇「ロミオとジュリエット」という題材も、この物語の相関図を強く意識したものであるのだろうが、「恋と嘘」の世界は「政府通知」 の受諾・拒否で人命のやり取りをするわけでもなく(社会的抹殺の事実説明が乏しい)、主人公側がその曖昧模糊とした「政府通知」に涙を流すほど順わされ、 それでも互いの想いに逡巡するなど、自由なき世界にありながら、国策には盲従せず、だからといって自分の想いに行動するという反権力的な姿勢も取れず「政 府通知」なるものに責を委ねようとする姿勢がやるせない。

そういう世界設定そのものと、それに対する主人公根島由佳吏らの姿勢を広義的に捉えてみれば、単に高崎美咲が良いとか、真田莉々奈が良いと言うような単純 な二者択一という矮小な問題ではないような気がするのである。
無人権の国家主義社会という世界設定によるアドバンテージがあるためあまり言われないのだが、一般論で言うラブコメディの世界設定ならば、根島由佳吏は必 ず優柔不断、「ヘタレ」の烙印を全身に捺されるレベルである。

今集では全般的に特に高崎美咲の愛おしさが強調され、いわゆる「美咲派」読者の気を強く惹きつけるものとなっているが、物語全体としては、既述のように世 界設定の矮小化と、根島由佳吏の本質がエンボスされただけの内容であると思うのは言い過ぎであろうか。
しかし、ファンタジックラブコメとしては少ない登場人物で良く描けていると最大限評価しているので、星+3で、合計星4とさせて頂いた。

全体主義の世界の尖兵たる組織や人物がいない不思議

恋と嘘も第4集、マンガボックスの連載では既にチャプターが80を超えている。そうした中でこの物語はなかなか先に進まない。切なき悩み多き恋愛譚の王道だと言えばそれまでだが、考えるべき点は、その世界設定である。
国家が若者の交際相手・結婚相手を決めるという官製結婚。そのいわゆる“赤紙”に逆らえば、社会的抹殺が待っている。これは言うなれば人権のない国家主義 のようなもので、その中で高崎が好きだ、莉々奈が気になる、仁坂が変だ…なんて悠長なことを言い続けている暇は本来はない。
さて、それでもこの世界のおぞましさを象徴するかのような国家の手先である官僚・矢嶋と一条の二人が冷酷無比な国家の尖兵ぶりを見せつけるのかと思いき や、主人公の根島由佳吏の先輩で、自分もまたこの官製恋愛社会に少なからず疑問がある、ような匂いを漂わせているというのだから恐れ入る。
つまり、この世界は自由意志なき将来の伴侶を強いられるのに、誰もがそれに疑義を懐き、もしくはそれに唯唯諾諾と順う者がいない、と言う全体主義なのにそ ういうところは自由な意思を持つ、という点だ。官僚・矢嶋に至っては、同僚の一条に対して想いを寄せているような描写があるのだから面白い。

まあ、政府通知という制度に逆らったところで、即座に命を奪われる、と言うようなものではないのだから、危機意識としては作中も読者側もない。これが現実 世界で、政府通知に逆らえば「前科」がつくと言うことになるのならば、問答無用で政府通知に順わざるを得ないのだろうが、第4集に至ってなおそうした危機 意識の片鱗が見られない。だからこそ、根島由佳吏も今なお高崎美咲か、真田莉々奈かと品定めに興じ、高崎美咲もなんだかんだと言って根島の元から離れると いう行動に欠けている。

巻末に政府通知に対する謎を仄めかすキャラクタが登場するが、それについても陰謀説という観点からしても、根島たちにそれを掛ける意味が今後必要とされてくる。
政府通知は本来絶対的なものとされ、高崎美咲が涙を流してまで根島への想いを封殺しようと足掻いているのだから、この制度がいかに残忍なものであるかと言 うことを客観的に実証されなければならないのに、まだ見受けられない。故に、そこまで政府通知に拘らなくても良いじゃないか。という話にもなるのである。