語られる国策恋愛制度の成立。翻弄される 想い未だ

恋と嘘 第5集恋と嘘 第5集
評価★★★★

「政府通知」と称す、国策恋愛政策に翻弄される主人公の少年・根島由佳吏と、彼を激しく恋い慕う高崎美咲、由佳吏の政府通知の相手・真田莉々奈との純粋な がらも切ない恋愛模様を描く、第5集。マンガボックス本編連載を編纂し、単行本ベースでの第19話~第22話を収録。
カバー表紙を飾る謎の少女・五十嵐柊をキーマンに置き、学園祭終幕から仁坂家での勉強会までを描く。

本集では文字通り、前集から散発的に登場している新キャラ・五十嵐柊が、終始舞台の核心たる『政府通知』、いわゆるゆかり制度についてやや踏み込んだ話を しており、主人公・由佳吏に届いた『政府通知』についても語るなど、やや膠着気味だった前集までの流れを進めさせる立ち位置として存在しているのが特徴。 また、由佳吏と美咲のクラスメイトである加藤絢乃も、ゆかり制度の現状やメリットについて語らせるなど、舞台設定そのもののコンセプトに関するエクスプラ ネーションに費やしており、肝心の三者恋愛関係の進退についてはあまり目立った動きにはなっていない。

今集では、序盤に例の件から最大級の人気キャラとなった仁坂悠介のサービスカットが盛り込まれ、恋と嘘ファンをしっかりと捉えている。それは何処かは実際 に本編を覘いてみられたい。
その悠介の兄である遙一が、ゆかり制度に伴う結婚をする話が盛り込まれ、美咲・莉々奈が将来的な「結婚」を意識させながら静かに応酬し、美咲の由佳吏に対 する想いが爆発する場面もまた、後半の一見の価値有りとなっている。
冒頭述べた五十嵐柊、厚労官僚である矢嶋ともに由佳吏・美咲・莉々奈を気に掛けながらも方向性の違いを顕し、緊迫感を誘うのも見どころ。

ただ、当初から国策恋愛という人権なき世界という広い視点で見ていた場合、全国規模で展開されていよう無情苛烈な男女関係の現実が、主人公ら三者関係に収 縮され、五十嵐柊をキーマンとして語られる内容には、そうした国民全ての人生の浮沈に係わる制度であるという慄然たる緊張感に欠け、単純に「許されない 恋」というラブロマンス色に留まっている点もまた、前集までと同じ残念な部分である。
そういう意味も含め、敢えて狭義的に捉えるとして、三者関係の進展に期待を込めて、星評価は4とさせて頂きました。

仁坂悠介、紛れもない真のヒロイン(ビジュアル的な意味で)

仁坂悠介の美貌ぶりが止まる所を知らない。単行本・第1集で見せた姿以降、主人公の根島由佳吏以上の存在感を放つ、事実上の本編主役級。作者もしてやったりか、と思うほどの仁坂推しのようにも映る。
まあ、確かに悠介に始まり、悠介に終わる。と言っても過言では無い恋と嘘、第5集。彼の演じたジュリエットはなまじ有象無象の女どもよりも美しい。歌舞伎 の女形とはまた違う、いつぞやネットで有名になった中国の女装コスプレイヤーの素顔とも違う。素地が美人の男子だから腐女子からの支持も高いのか。ノンケ の私からしてもこの悠介ならば……と思うこと、はないかね(?)

少なくても彼は物語序盤の頃と比べて随分と乙女チックな部分も多くなってきたような気がする。勿論、ビジュアル的にもだ。彼の存在だけでも、根島由佳吏という主人公は120パーセントリア充であると断言出来よう。
そんなジュリエット姿の悠介を○○する場面がある。なんてことがないと言えばなんてこともないが、個人的には成る程な、と思った場面である。

こうしている間にも全国には国策に翻弄されし若者が……

この作品を語るに、前から落合ヒロカズ氏による漫画・ハッピープロジェクト(2012)のコンセプトと共通していると述べているが、内容的には恋と嘘の方が長命な分内容に踏み込んでいる。
しかし、そのハピプロの考察の際も鷹岑は警鐘を鳴らしていたが、どうも国策として展開されるお見合いや結婚、恋愛、という事について、実態として相当重いものであると言うことを自覚したストーリー展開になっているとは、どうも言い難い。
そういう世界の中で恋愛に懊悩する複数の若い男女……。という事なのだろうが、国策である以上、それは自由恋愛ではない。つまり人権が無い社会であると言うことだ。
ハピプロの場合は、お見合いを目的とした男女合同合宿の中で結婚に到らなければ、社会的制裁(死)が与えられ、人生が事実上崩壊する。と言った前提にあっ た。また、恋と嘘も当初は、この「ゆかり制度」に沿った「政府通知」に逆らうと、同じく社会的死が待っているとされたが、途中でその制裁の重みを軽減した かのような描写に変更されている。しかし、国策に逆らうとはとんでもないことだ。という点では同じである。

由佳吏と美咲、莉々奈に仁坂の複雑な恋愛関係に何故そこまで話を広げるのか、という批判もあろうがそれは違う。コンセプトはこの世界設定における「政府通知」が、文字通り、政府。つまり国の法律でそうなっている、と言う点である。
週刊ヤングマガジンで連載されている漫画家・non氏の「ハレ婚。」のように、もしこの「ゆかり制度」というものが由佳吏達が住まう地域や都府県の一地方 自治体でのみに通じる『条例』であるとするならばまだしも、恋と嘘の舞台設定は国家の法律なのである。国が定めた法律である以上、いかに由佳吏を囲む狭い 人間関係の情景を描くのだとしても、それはあまりにも矮小過ぎである。世界設定が厖大だと指摘するのもそういう点にある。

劇中、脇役である由佳吏らの友人・加藤絢乃らが「政府通知」によるメリットを殊更に強調しているようだが、取って付けた感じが否めず、また国体の大原則で ある憲法に定められた基本的人権を根本的に覆したこの国策恋愛制度の制定を、まるで一人の人間の安易な発案でなされ、今に到る。みたいな描写には極めて異 質な部分を感じるというのも事実だ。
勿論、恋と嘘の世界は非現実的なのは分かるが、それでも一国数千万人の若者達の人生設計を根本から変える国策恋愛制度というものの重大さを、たかが由佳吏らの三角関係の甘い描写に収縮させてよいものか、と言いたくもなるだろう。
ハッピープロジェクト時も同じようなことを言ったが、由佳吏たちがキャンプで燥いでいる時も、スイーツを選んでお茶会をして談笑している最中にも、日本中 各所では、政府通知を巡って様々な悲喜交々が発生し、秒単位で恋愛的成功と破滅が繰り広げられている。はっきり言って、そんな暢気なことをしている場合で はないのである。

国策、世界規模という設定にすればスケールは茫漠と広くなるのは確かで強い印象が残るのは事実だが、最初に打ち上げた花火がドデカくても、続く物がこじんまりとしてしまってはあまり意味がなく、陳腐ないちラブコメに収まってしまうのが関の山というものだ。
仮に極端な話として、この第5集現在、由佳吏たちにとって快刀乱麻の解決策がある。海外移住だ。国策恋愛制度によって縛られているとするならば、由佳吏は 美咲だろうが莉々奈だろうが、手に手を取って駆け落ち同然で外国に亡命すれば良いのだ。ただ、この制度というものが世界的にも定められている、という後付 け設定がされていては意味はなくなるのだが。

クズの本懐のアニメ化に連動してか

人気漫画家・横槍メンゴ氏の「クズの本懐」が年明けからアニメ化される。筆致もよく似た恋と嘘も、メディアミックスを視野に入れているのか様々な動きがどうもしているように見受けられる。
電子書籍・WEB漫画誌の発展寄与の嚆矢として、畑は違うが夜宵草氏の「Re LIFE」がアニメ化された。横槍氏に続くムサヲ氏のメディアミックスにも期待がかかる。文中挙げたnon氏も女性作家という全女性作家というのもまたひとつの魅力的な部分ではある。

世界設定を改めて咀嚼し、厖大な世界に小さな箱庭を建てて甘酸っぱい恋愛譚に終始しないように、毎集恒例の締めだが、改めてそう願うものである。