ジョアン、凓冽なる七死回生を経て神威の村に螺旋の一歩を踏み出す

『不滅のあなたへ』第2回 “おとなしくない少女”

【前回まで】『球』はレッシオオカミ・ジョアンに姿を変え、凜寒の廃村に住まう孤独なる少年に転生す。「僕のこと、ずっと覚えていて」 楽園を冀い、途上 に斃れた少年の声と共に、“ジョアン”は、南へと行く。

不死の業か、大地の意思か。皇帝が求めた不滅の旅路

七死回生「永遠に生きる」というのが、この物語のメインコンセプトなのだ。と断言するのは、もしかすると時期尚早かも知れ ない。
神罰として、決して死ねない、死なない。文字通り不老不死の身体。中国歴代王朝の皇帝が頂点の果てに求めたのは不老不死だったが、果たせなかった。親しい 人たちは皆、年老いてこの世を去って行く。自分だけが年取らず、何十年経っても同じまま。それこそが地獄の苦痛なのだという。
しかし、「不滅のあなたへ」は転生する。「球」がレッシオオカミとなり、少年となった。ここでは彼をジョアンと仮定しよう。

ジョアンはその少年に転生してから六度、斃れた。餓死、凍死、墜死などが散見される。面白いのは、ジョアンたる「球」を投げたナレーションが死する度に、 成長する。無駄な死などはない。と言った点だ。ここが目を瞠る。無垢の球が幾度の死を重ねて成長して行くというのは実に斬新で、新解釈だ。
七度目の死は巨熊に喰らわれたが、問題ない。という淡々としたナレーションは逆に物語に引き込むのだから不思議だ。
マーチ
チーグルⒸ バンダイナムコ
▲ 第2話のヒロインであるマーチ。最初見た時、テイルズオブジアビスのチーグル族を想起した

死することへの讃美、神威の村の風習と大人への夢滾らせる少女の絶望と抵抗

ニナンナ地域にある村々の風習に繁栄と豊饒の神、“オニグマ”への生贄として汚れなき少女が献上されるという。記紀に曰く八岐大蛇における櫛名田比売では ないが、悪習を断つ素戔嗚尊がジョアンならとぞとばかりに、大今氏の世界観はファンタジーだ。
川井みき?さて、第2回の主人公の少女・マーチはまだ成人のイニシエーションを経ていないために、顔に墨が塗られている。隣人 のリーがイニシエーションを経て墨を落とす姿に見取れる。そのリーちゃんだが、めがねを掛けるとそこはかとなく川井みきに近い容姿だと思うのだが、今のと ころはモブキャラのようだから由としよう。
閑話休題。早く大人になりたいと心弾ませながらも、飯事に余念がない幼女のマーチ。そんな彼女を見守り続ける準主役として、弓使いパロナという女性が登 場。前作に関する検索ワードに肖ったわけではないだろうが、マーチに「蟹」の縫い包みをプレゼントしてきた。

イニシエーションを経ていない主人公・マーチのチーグル姿を別にして、「不滅のあなたへ」は第2回にして大今流美女キャラクタの初見である。年の頃17, 8と言ったところだろう。随分とマーチのことを気に掛けているように描かれているのだが、来週以降の彼女たちの運命によっては、輪廻の渦に呑み込まれて行 く事になるのだろうと思うと、容姿性格にのめり込んでは読み手側が苦しくなるから、これがなかなか一定の立位置で読まねばならないところがつらい部分では ある。

パロナ、その優しさと限界

パロナパロナは勇武に優れている、かのような精悍な容姿だが、弓の腕は的を外すどころか、その的に止まった野鳥ですら逃 げないというものだが、果たしてそれが真の彼女の姿なのかどうかは大今流だからこそ表面的に受け止めるわけにはいかない。能ある爪は云々というわけだ。

しかし、同時に彼女にも限界がある。村、そしてその地域に深く根付いている為来り、掟、風習である。彼女は招集の鐘を聞き、マーチを村の外に連れ出そうと 図るが、女衛兵のハヤセに止められる。パロナはマーチがオニグマの生贄の候補に挙げられている事を知っていたのであろう。だが、仮にマーチを連れ出したと しても、別の少女が選出されるという仕組みなのだから何の解決にも至っていない。つまりは、パロナにも普通の少女としての限界があったのである。
大今流のファンタジーに、英雄という定義があるとするのならば、知勇兼備の万能型というものではないだろうし、そもそも英雄という定義そのものがあるの か、という話である。
パロナは後半、マーチを土壇場に誘う山道でハヤセに弓を射た人物かも知れないが、その行動は必ずしもマーチを救う事にはならない。最後の夜までの精神的支 えとして、傍に居ることも叶わなかった。
だが、パロナを無力と非難することは出来ないはずだ。そういうハヤセも言う、そういう決まりになっている。誰もが表面では悲喜混淆の様相だが、内面では マーチが選ばれたことに安堵感を禁じ得ないはずである。

女衛兵ハヤセ、ただ職務に忠実な公僕

ハヤセ植野直花によく擬したキャラまでも登場する。ここに来て女性キャラが一気に増えた感じだが、どうもこのハヤセという 女衛兵は「精霊の守り人」のバルサのようなタイプではなさそうだ。地域の掟・風習を忠実に全うしようとするだけの冷血漢。という感じに描かれているのだ が、やはりここも穿ってみる必要性があるのだろうか。

私は彼女はマーチが「名誉なことに選ばれた」という事の意味を、包み隠すことなく「あなたは死ぬのです」とはっきりと言ったことに人としてのあり方を示し ているように思える。下手に言葉を濁し、土壇場に辿り着いてから生贄の身動きを取れなくした後で、あなたは死ぬ。と告げられるほどの残酷なことはない。む しろ、初めから正直にそう伝えてしまった方が良いのである。死ぬことは大人になれないって事?と訊かれ、そうです。と返し、死にたくないんだけど。と付け 加えると「残念ですね」と、薄気味良いほどドライに答える。驚くことに、このハヤセの表情は殆ど無表情だが、表裏がない。「あなたは死ぬのです」とはっき りと目的を告げ、マーチに当たり前のように選択肢のない覚悟を求める。逃げればラーラが生贄となり、更にラーラが逃げれば、生まれたばかりの赤子を贄に出 す。全てを正直に伝えることが、残酷な風習のなかで生きていく者たちの最大限の優しさ、気遣いであるという見方だ。
むしろ、この地域、村一帯に住んでいる者の立場からすれば、マーチのように「生に縋る」という考え方こそ、異端に映るのだろう。

ジョアン回生、墨取れし美少女マーチとの邂逅

ジョアン回生マーチが土壇場に向かう途上で脱走し、池に落ちた。その瞬間、彼女の顔を覆う墨が溶け、素顔が浮かぶ。チーグル族 から美少女への変貌である。
後悔と悲嘆の涙に濡れながら、「大人しくなれなかった」と呟く。大人へのイニシエーションを経ずに、マーチは顔の墨を洗い流してしまうのだが、それは当然 のことながら今後村で生きて行くという選択無きものである。

清澄な池の底に落ちていた眼球を拾い上げると、それが切っ掛けとなったのか崩れた肉体の破片がみるみる修復され、“ジョアン”が回生する。八度目の回生 は、どれほどの時が経っていたのか。
その“奇跡”を目の当たりにするマーチ。
だが、きっとジョアンはこの村や地域に根付く風習を断つ英雄とはならないだろう。マーチやパロナはジョアン回生の奇跡に何を見るのだろう。此村の悪習を変 えた先の、誰も犠牲にならない未来を見るのだろうか。最終的にはその現実に従わざるを得ない事になるのだろう。
大今流ファンタジーに、ハッピーエンドはあるのだろうか。或いは、ハッピーとは一体なんぞや? という事を訊ねられるかも知れない。マーチが可愛い。パロ ナがタイプ。そう思うのも良いが、覚悟を持って読み進める事も必要ではないかと、何となくそう思った。

名言蒐懐

無駄な死などない(ナレーション)
素直に、凄い言葉だなと思った。命を大切にせよ。とさんざめく世界にあって、いかに輪廻転生の世界設定とはいえ、無駄死になどない。と言い切 れる力強さを感じる。
大丈夫、いつか上手くなるって(村の男)
パロナが的を全て外してしまい、いたたまれず下がる間際に慰めの意味で発した言葉だが、わざと外したという見方も出来る。何のためか。彼女な りに生贄という悪習を断つために鍛錬を密にしたかった・・・とかか。
あ なたは死ぬのですマーチさん(ハヤセ)
冷酷無比な宣告と映ってしまいそうだが、最初から正直に言った方が悲しみも傷も少ないだろう、という意図だろう。ハヤセなりの気遣いなのかも知れない。
死にたくないんだけど(マーチ)
読者側からすれば、当たり前の感情。この世界に生きる人々からすればどう思うのだろう。名誉なことを拒絶するとは、なんとおかしいことか。と思うのだろうか。
大人しく…(父親)
両親から受けた訣別の言葉。これが何よりもマーチにとっては残酷なものだっただろう。
大人しくなれなかった(マーチ)
生への執着が破った生贄の悪習。ジョアンとの出合いが、彼女にとってどう転ぶのか、予想はまだつかない。