意味のある相関関係の含蓄、淡泊なラブコメの隠し味となる

早乙女選手、ひたかくす 第2集▼早乙女選手、ひたかくす 第2集
評価★★★★★

日常系とラブコメ系の両パートを程よく融和させた、非ギャグの「蚤のカップル」ハートフル体育会系ラブコメ。
単行本ベースで第10話~第21話、週刊本誌時系列では、第5話の紺野美都初登場回を集約し、美都の登場話をまとめ、合宿篇・第22話の途中までを編集さ れている。
前巻同様、週刊本誌連載と較べて描き下ろされた加筆部分が相当数あるので、当該作のファンとしては非常に嬉しいところである。言及不足ぎみだった本誌連載 と比較してみるのもまた一興である。
さて、本巻は前巻末で初見の准ヒロイン格・紺野美都が大活躍となっている。ほぼ全話で美都が主人公・月島サトルと、早乙女八重の仲を取り持つ描写が目立つので、美都が余り好きじゃないと言い切る読者にとってはやや煙いかも知れないが、美都はムッツリビッチと言われながらも憎めない可愛らしさがあるので、本巻を読み進めれば、メインヒロインの八重よりも感情移入されるかも知れない。
また、ラブコメ系パートの新キャラとしてはサトルの姉の友人である若乃真帆が清楚系筋肉美女として後半登場、サトルと八重の三角関係に発展するかとばかり に存在感を発揮するのでこちらの方も注目されたい。また、日常系パートしては八重の家族・早乙女啓太と母が初見。

この作品の枢要は単純なラブコメと日常を描くというだけではなく、サトルと八重のなれ初めの切っ掛けがあり、若乃や塩谷監督、美都なども単なる賑やかしで はなく、きちんと厚みを持たせた相関図に含まれているという点である。それがどういうことなのかは熟読して頂ければ判るだろう。
抑揚が少ないと言う評価もあるが、相関図がキチンとされているので、変化前進は確実。主人公周囲の成長も同時に見ることが出来れば非常に面白い構成となっ ている。前巻同様、期待と加筆部分に満足。星は5です。

ムッツリビッチ紺野美都、むっつりと存在感を増す

この物語の准ヒロイン格として君臨するのが、紺野美都である。
紺野美都ヒロイン・八重が主人公・サトルに弁当箱を返そうと教室を訪れた際に、美都が何気に冗談で「アンタの彼氏」と答えたことが切っ掛けで八重たちに深く関わって行くことになる。
その言動や八重とサトルを何とかくっつけて弄ぼうと画策する部分をして「ムッツリビッチ」と評される由縁だが、鷹岑はメインヒロインである八重を別格として、実はこの紺野美都を、美都ちゃん。と劇中さながら言うほどに気に入っているキャラである。
なんて言うか、可愛い。嫌味のない可愛らしさなのである。そして、ビジュアル的にもそこはかとなくエロい。「いまどき女子高生」然としながらも、やはりど こか忠義の色合い、というか筋が通っている。いわゆる真性ビッチじゃない。少なくても、女子力の低い八重の底上げを図ろうと美都なりに考えてくれている。 八重もサトルも彼女を煙たがっていないことは事実のようで、それどころか色気ない二人に恋人としての自覚を喚び起こそうと頑張ってくれているのだから、感 謝しても飽き足らないくらいであろう。

準ヒロインと言っても、第2集現在では、美都がサトルに惹かれている、という描写はない。ここで美都がサトルに想いを寄せていた。となれば個人的にはそれで面白いのだが、同時に切なくなるし、物語そのものとしても非常に陳腐になるだろう。
仮に美都がサトルに想いを寄せていたとしても、物語としてはサトルは八重に一途なので美都と良くなるということは一切ない。断言できよう。それだったら、 美都はフリーとして八重とサトルを繋ぐムッツリビッチキューピッドで良い。その方が、美都の魅力を最大限に引き出せるのである。

第3のヒロイン? 若乃真帆、八重の宿敵に特化か

若乃真帆お 姉さん系美女キャラ・若乃真帆。八重たちの合宿先の大学で出会う女子ボクシング界のエースでサトルの姉の友人という位置づけだ。美都をして「はんなりビッ チ」と言わしめた清楚系筋肉巨乳美女。サトルと再会すると、いきなりヘッドロックをかまし、脇から胸を押し付ける。汗をかけば優しくタオルを手ずから掛け てくれ、料理も得意でエプロン姿がよく似合うときた。女子力でも色気でも圧倒、八重とは公私共に最大のライバル然としている。
だが、彼女はサトルのことを同級生の弟、自らもかわいい弟としてのみ捉えているのではないだろうか。彼女は恋愛的な立位置でのヒロインというよりも、描写 の通り八重のアスリートとしての宿敵という立位置のほうが実にしっくりと来る。そして何よりも、当のサトルに対してそもそも恋愛的フラグの1つも立ってい ないのが決定的だ。
美都が忖度して彼女に攻勢を仕掛けるが、暖簾に腕押し。若乃の女子力がサトル一人に向けられるというのならば考えなくもないが、どうも違う。
サトルを見つめる八重を気にするが、その視線も恋愛的な意味はまったくなく、アスリートの眼差しで八重を見ている。非常に才色兼備だが、男っ気がない。本人もそれにこだわるという事もないのだから第3ヒロインというのも少し買いかぶり過ぎだろう。
さすがの鷹岑も、年齢だけで見るのならば美都よりも若乃。若乃よりも塩谷監督…と行くのだが、この物語に限っては美都ちゃんが良い。

藤田浩之系主人公、月島サトル

1990年代後半に、「To Heart」という恋愛系ゲームが流行した。憶えている方もいるだろう。その主人公・藤田浩之は、「This is NICE GUY」と言うべきキャラクタだった。考えてみれば、その後数多世に出たハートフル系恋愛ゲーム主人公の原板とも言うべき存在だった。月島サトル
月島サトルは、そこはかとなく、そんな藤田浩之系の主人公像に近い。どんなに嫌われていようが、困っている人を放っておけない。と言ってしまえば語弊があるが、サトルの長所は、藤田浩之系の特長の一つ「さり気ない優しさ」にある。
美都ちゃんの仕掛けた八重女子力アップのためのショッピングデートへの同行。だが、目的を一定果たした後に、サトルは「美都さんの買い物も見て行こうよ」 と言う。無意識ながらも美都の心をぐっと掴むサトルの気遣いは、彼の素質である「気配り」だけではなく「さり気なさ」にあるだろう。
そしてまた美都ちゃんの策で大浴場から二人の着替えが消えた際、若乃との関係を邪推して懊悩していた八重が、裸で着替えを取ってくると言うサトルに、見ら れるのが若乃でもと聞く。それに対してサトルは「他の人にどう思われても良い。ボクの彼女は八重さんやんか」と答える。意志の強さもあるが、ダイレクトに 好きだ、と言うよりも、まるで八重の懊悩を察したかのように、「僕の彼女は八重である」と自然に切り返すことが出来るサトル。まさに「さり気ない優しさ」 のもたらす所以だろう。

藤田浩之は自身はそんなに際立ったスキルを持っているわけでもないが、特段虐められていた過去を持っているわけでもない。全てが月並みで、それでもその小 さな優しさが大きな魅力となった、男性向恋愛系ゲームの主人公の中でヒロイン以上に萌えるキャラの唯一の存在だったといえる。
サトルはそういう意味では藤田浩之の完コピという訳ではないが、恋愛に対する向き方は非常に誠実さを感じる。だからこそ、物語そのものもゆっくりでいいし、純粋に八重との恋愛に特化できれば良いのである。

貼られた相関図の含蓄

「早乙女選手、ひたかくす」は、ギャグマンガではない。ラブコメディであり、日常系コメディでもあり、シリアススポ魂と言っても過言ではない。
しかし、いずれもそれだけを取ってみればつまらない。無味乾燥。ただサトルと八重が遅疑逡巡としながらも絆を深めてゆくというだけの陳腐なラブコメとして終わるだろうが、この作品は二人は勿論、脇役たちにも厚みのある相関図を結んでいる。
塩谷監督、若乃、美都。直接的に言及されなくても、その物語の水面下では、意外と見栄えのするキャラクタの繋がり、ストーリーがあるということなのだ。だ からこそ、面白い。物語というのは、つくづく相関図がしっかりとしているということなのだ。勿論、それがあって初めて、キャラクタが映える、生きるという ことなのだが。
ちなみに、それがどれなのかはここでは語るまい。