マガジン系稀有のラブコメ未満のファンタジー漫才

楽々神話~高いオクターブの作風が斬新な新連載連名陣の旗手

▼直球なギャグ要素とストレートな観点の色合が絶妙な良作の卵

椿太郎氏は1996年2月18日生まれとされ(別冊少年マガジン・2016年10月号、プロフィール欄より)、阪神・淡路大震災を識らない世代である。
デビューは、第96回マガジン新人賞・佳作兼真島ヒロ賞受賞作で、別マガに掲載された『金星より!』である。
ファンタジー系の世界設定と息をつかせないハイビートなギャグが特長で、この読切りの世界観とキャラクタがほぼ踏襲されたイメージを楽々神話に連載という形で誕生したとみている。
文字通り、この漫画の嚆矢はファンタジー。ヒロインの設定が高天原・八百万神ということからして、厳かな日本神話を基軸にしたハートフル・ラブコメディに 行くのかという月次感にため息をつくのも一間。例によって主人公・東堂司は「ヤンキー君とメガネちゃん」の品川大地ばりに河原で因縁を付けられ喧嘩相手を フルボッコ。正にヤンキーというイメージそのままに女神様と出会ってゆく王道路線、かと思いきや。

神無初登場浅 い小川に頭から突き刺さり、犬神家の人々よろしく両脚をジタバタさせているメインヒロインの初登場絵面はある意味衝撃的で、作者・椿太郎氏の不思議な筆致 の効果でもある、ニーハイの美脚ながらも全くエロくなく、シュールさが先行するという状況は、この作品の先入観から、矮小なラブコメ色を一気に払拭させる には十分だったと言える。

この漫画の雰囲気はかくの通りで、現行・第9話時点でシュールさとハイテンションを維持しており、マガジンの連載陣の中でも、異彩を放った存在感を見せている。

回りくどさがないストレートなキャラクタ~「神無」

神無メ インヒロイン・神無は、高天原・八百万神の一という設定だが、災厄の子・疫病神と忌諱され、幽閉されており、その母神は神無が起こした災厄を祓おうとして 命尽き、天涯孤独の身の上となった。という重い設定の上に立つ。その為に、天津神から命を狙われ地上に降臨し、主人公・東堂司と邂逅することから物語は始 まるのだが、ファストコンタクトが件のように非常にシュールだったことから、神無の立位置をして物語そのものがラブコメとは一線を画すものになった。

神無は美少女キャラクタヒロインとして存在しつつも、同時にシュールなボケとツッコミを併用し、下ネタも忌憚なく披瀝するなど、従来の美少女ヒロインの概念を大きく変えたと言っても良い。
比較されるのが、ヒロユキ氏の『アホガール』とされるのだが、アホガールは主人公自身がメインヒロインに突っ込みを入れる、という方式に対して、当該作は 喧嘩が強く、朴念仁を気取る主人公が神無に翻弄され、水希や焔と言ったサブヒロイン達とのドツキ漫才を仲裁するという立位置に変化させているという点が評 価されるのである。
神無の行動は表裏や伏線的なものがない直情径行型で非常に分かり易いが、かと言って単なるバカキャラでは無く、その生い立ちや司や水希に対する思いも相 まって悪印象というものがない。楽々神話の楽々というのは、文字通り神無の地上に於けるポジティブな生活・探究心を表現されたものであって、神経をすり減 らす楽しみ方というよりも、日常系ハイテンションコメディの基幹である。ただし、こうしたテンション維持はネタの消耗も激しい。面白いがゆえの課題もま た、大きいキャラクタである。

ボケの受け方が生命線と言及された、異色の美少女三枚目キャラ~「水希」

水希(楽々神話)第4話から登場する、准ヒロイン・レギュラーキャラ。美少女でありながら立位置は三枚目で神無のドツキを一身に受ける汚れ役。
高天原・八百万の神の一という高貴な設定ながら、扱いは畜生並であり初登場早々から神無のライジングパンチが炸裂、ボコられキャラというイメージをたった1話で定着させてしまった。

神無抹殺のエージェントから神無の下僕に成り下がり、殴られ虐められ役に徹しているとは言え、ギャグ要素の観点からすれば非常に重要であり、第9話の人物紹介でもあるように彼女の汚れ役としての縦横無尽さが作品全体のユーモアさを引き立てている。
巫女装束だが、神無の折檻を受けているうちに袴がミニスカートとなり、美脚を露出させるお色気要素も加味された、ヒロイン双璧の片翼という、物語全体として非常に幅を利かせたキャラクタとして存在感を示している。
水希の汚れ役場面は多々あるが、斬新だったのが第7話の銭湯の場面である。神無からふざけて浣腸をされるのだが、こうしたふざけたお遊びシーンは広汎なギャグ漫画、かつ美少女キャラで描かれることは少ない。
また、水希が何故生殺与奪権を握っているかと言われるのは、神無の暴力行為の受け皿的存在である事が最大である。水希が存在せずにただ単に神無が大暴れす るだけでは不快を与えかねない。水希という存在を投入させ、主人公・司が緩衝となり仲裁的立位置にあるという現在の相関関係が、この物語最大の支持要因で ある事は言うまででもないだろう。
この作品が仮にラブコメ色を持ったとしても、水希が主人公の相手となる位置にはなり得ない。それほど、水希は三枚目として型に嵌まっているのである。

読切り「金星より!」からのクロスオーバーに比定した火神~「焔」

第7話から登場した第三のヒロイン格。火を操る高天原・八百万の神の一。焔(楽々神話)天界では名うての暴れ神だったとされるが、渾身の力を込めて神無に振り下ろした拳を、主人公・司に受け止められてから司に心底から惚れる。巨乳・ナイスバディというお約束のお色気担当キャラ。
司や神無との壮絶なバトルに展開するかと思えば、意表を突く司への熱いキスで読者を驚かせるなど、椿氏のセンスを窺い知ることが出来た。

焔のキャラクタは初出ではなく、先述の佳作受賞作「金星より!」のラストで登場した、火星の住人の美女である。おそらく、読切りのアンケートで好評を得、新作構想時にクロスオーバーさせた、必然的キャラクタであったと言えるのである。
また「うる星やつら」のラムを意識した肉付けが巧みであり、主人公に猛烈な恋のアタックを仕掛けながらも賛否が分かれるラブコメ要素に転じず、神無・水希との絶妙なバランスが良いのである。

おそらくこの作品はこの3ヒロインと、第3話に登場した神代美穂以外にも、同級生等で司を気にかける人間のヒロインの登場を予想させるが、主人公の周囲が美女・美少女に囲まれながらも、変にラブコメ色を強めていないのが実に巧妙である。
確かに、この作品のようなタイプは、不安定なジャンル付けは危うい。そしてそうした中でも、美女が出るから恋愛色を出そうというのもあまりにも陳腐に過ぎる。
現行・第9話時点で総評を述べるのも時期尚早だが、数多の新連載連名陣の中では白眉であると言うことは、自信を持って言える作品である事は間違いが無い。