月刊畑を希望し、週刊連載の切符を得た、遅筆のハイスピード・ギャグメッセンジャー

楽々神話・第1巻▼楽々神話 第1巻
評価★★★★★

第 96回マガジン新人賞・佳作並びに真島ヒロ賞受賞作で、別冊少年マガジンに掲載された『金星より!』でデビューを飾った、椿太郎氏の処女連載作。第1話か ら第5話までで、大きな加筆修正等は見受けられない。描き下ろしは巻末の「楽々小劇場」のラフ画と、プロットデザイン。

ヒロインである「神無」や、サブヒロインである「水希」は共に高天原から降臨した八百万の神という日本神話そのものだが、本編ストーリーでは神話の神々のような崇高さや神秘さの微塵もなく、現代風のハイテンションなシュールギャグによって展開されている。
主人公は喧嘩無敗で不良イメージが先行している東堂司。川に突き刺さっていたヒロイン・神無を思わず助けてしまってからまとわりつかれる、というイグニッションだが、直球型で回りくどくないギャグセンスが単純明快で新鮮味がある。
第4話から登場の「水希」はいわゆる道化方で、神無の容赦ない殴打や災難を一身に受け、司が生温かくフォローするという構図が形成。この物語のメインパートの要となっているのが特徴。

筆致は煩雑な部分も多いが、美少女系キャラクタの線が艶があって惹き込まれる。処女連載作家特有の肩肘張った丁寧さが目立つが、巻数を重ねるごとに荒さやバリが取れて綺麗になって行く素材であると考える。
ハイテンションのギャグは極めて維持し続けられるのが難しいものだが、巧くギアチェンジしてゆければ、失速することもないだろう。
純粋に面白い事と、次巻以降への期待、椿太郎氏の支援を込めて、星評価は5である。

遅筆を公言した新人作家、鎬を削る新連載連名陣の中で突出する

楽々神話については前回の記事でも語っているので、それ程作品そのものについては語るべくものもないが、巻末の後書きや作者フリースペースにおいて作者・椿太郎氏は自身の制作能力について、遅筆であると語っているのが印象深い。
本人は月刊畑を希望していたようだが、編集側が週刊連載を指向したというのだから、椿氏への期待の高さというのを窺わせる。

遅筆を公然と表明する漫画家は少なくはないとは思うのだが、鷹岑が識るギャグ系美少女コメディの遅筆作家と言えば、叶恭弘氏である。叶氏もまた、プリティ・フェイスで過酷な週刊連載を経験したが、自身は遅筆だから本来週刊は向かないとしてきた。
椿氏もそれを裏付けるように、自身のSNS・ツイッターが殆ど更新されない。ネーム作業の過酷さをこの後書きで示したと言える。また週刊少年マガジンは、 掲載順が人気と必ずしも比例しないとされているのだが、それが本当のことだとしてもまた、椿氏の述懐は裏付けられることになる。

マガジンの新連載攻勢とされる昨今の誌上。ハイクオリティの筆致を引っ提げて登場してくる連名陣の中で、椿氏は異色であると言えるが、逆にそれが突出した個性であると言える。
ストーリーの特性上、大ヒットの要素はないが過酷な連載生き残りをかけて奮闘して頂きたいところだ。

マガジンポケットか、マンガボックスか

予測を立てる訳ではないが、仮に楽々神話が移籍されるとするならば、マガジンポケットかマンガボックスかと言う事になる訳だが、遅筆を公言する椿氏ならば隔週以上の連載余地があるマンガボックスが適地であろう。
個人的にこの作品を支持する理由のひとつとしては、美少女キャラが殴り、殴られたり、平然と下品ネタを披露すると言ったタイプのコメディが最近極めて見かけない、と言うことにもあるかも知れない。
マガジン本誌で厳しいと言うのであったならば、そのままこの貴重な火を消さず、WEB漫画へ移籍させてでも継続してもらいたい作品である。