国 策結婚制度に翻弄されし厚労官僚と、恋のために国策に抗う者、想い強きゆえに国策に従わんとする者

恋と嘘 第6巻▼恋と嘘 第6巻

評価★★★★

「政府通知」という人権なき国策結婚制度下で自らの意思で恋愛をし、国策で定められた相手との関係。根島由佳吏・高崎美咲・真田莉々奈、そして仁坂悠介の3人+αを焦点に、懊悩と絆を描く恋愛譚の第6巻。マンガボックスの切出し連載を集約した、23話~26話を収録。
アニメ・実写映画とメディアミックスを次々と打ち出す、マンガボックス系の恋愛系エリートの面目躍如が期待されている。

今巻の実質的なメインヒロインはカバー表紙の通り真田莉々奈。政府通知に運命が流転した厚労官僚である矢嶋基、一条花月の過去とすれ違いが、稲垣潤一の名曲「雨のリグレット」よろしく主人公・由佳吏との会話からフェードインして行く様が印象的だ。
親友・有紗の叶わぬコイバナを胸に留める莉々奈。そして政府通知の創設を知る五十嵐の慚愧の念をフォローする由佳吏。そして舞台は由佳吏・莉々奈の両家族が揃って行く温泉旅行へ。そこで、莉々奈はひとつの大きな決断を胸に秘める。
終盤に登場するヒロイン・高崎美咲の胸を塞ぐような熱い想いに触れ、両ヒロインの政府通知、そして根島由佳吏に対する想いにいよいよ交叉点らしき部分が見えてきた。
ただ、劇中の時間経過やキャラクタの心情推移は思ったほど進んでいないというのもまた事実で、技術力を以て間延び感を補っていると言っても過言ではない。

今巻は真田莉々奈派にとってはなかなかサービスシーンも盛り込んだ内容になっているが、出番の少ない高崎美咲派にとっても決して損にはさせない展開が待ち受けているので安心して読むことが出来る。
幕間的な矢嶋基・一条花月の悲恋譚は、国策制度では型に嵌まりきれない人の感情をつぶさに表現されつつも、国家権力の不気味な尖兵としてイメージされてい た両者の好転を図ったものである様にも思え、ある意味悪役の存在が消えたことで物語の厚みがひとつ無くなった、と言うのが唯一の不満であると言える。

一条花月、国策に抗いて恋人に覚悟を求め 矢嶋基、決断を愆りて池塘春草の夢と化す

マンガボックスの唯一の大ヒットラブコメとして過言ではない恋と嘘も第6巻に及び、これをモチーフとした実写映画やアニメなどのメディアミックス展開が活発である。
「クズの本懐」の横槍メンゴ系を蹈襲して7月からアニメ放送。その成否は神のみぞ知る。と言うことで取りあえず今回の記事は根島由佳吏、高崎美咲、真田莉 々奈と言った主要キャラの華々しい心裡からは一歩引いて、彼らに国策結婚制度の下、「政府通知」をもたらした矢嶋基・一条花月ら二人の厚生労働官僚を少し だけ語ろう。

Amazonのレビューにも寄稿したように、矢嶋が語り出す一条とのエピソードは、稲垣潤一の「雨のリグレット」の情景が思い浮かばれる由佳吏との会話からフェードインされて行った。
彼らの初登場は「政府通知」の通達。いわば由佳吏らの自由恋愛を制限する国家権力の尖兵として非常に無機質で不気味な存在だった。
しかし、その人権無き国策制度は、由佳吏らの同級生の親族が作ったもので、政府通知を辞退すれば社会的死が待ち受けている、などといった設定も緩和されて行った。交渉すれば組み直すことも出来るし、穏便な辞退も出来るのだという。
まあ、そう言う方策が今になって発見されたのか、元々そう言う制度だったのかは別として、由佳吏が政府通知を盾に美咲や莉々奈の間を揺蕩う合間に、全国の若者達はこの政府通知による悲喜交々を無数経験しているのである。

そもそも、厚労官僚の二人が由佳吏達をまるで担当しているかのような、準レギュラー的立位置にあって、矢嶋が実は一条とは昔恋人関係にあった。という話を入れてきたことで、国家権力の手先という悪役のイメージが払拭されている。
まあ、矢嶋はともかく、一条のキャラクタを見てみれば、隣の矢嶋と何かがありそうだな。というのは大体判るのだが、実は政府通知に翻弄されてきた一組の「犠牲者」であったというのは何ともはや、である。

矢嶋・一条は悪役たるべきだった

まあ、正直な話「恋と嘘」は何度も言うように世界設定は人権がない世界であって、矢嶋と一条は経緯はどうあれ霞が関官僚の尖兵として根島由佳吏・高崎美 咲・真田莉々奈らに不幸を齎す存在であった訳で、それが何故か暗に由佳吏らに同情の念をもつキャラとしていい人然となってしまった。
こう言うファンタジーの恋愛譚にまで、全てが訳ありだがいい人というのはない。彼らはやはり、冷酷無比な悪役であるべきだったのである。

由佳吏を想いて国策に抗う莉々奈、自らの想いを封じんと抗いて国策に従うジレンマに悩む美咲

莉々奈派か、美咲派か。二大ヒロインが個性を以て活躍する作品は、往々にして分かれるものだが、この巻に到って、ようやく二人の考え方に色分けが鮮明になってきたような気がするのは鷹岑だけであろうか。
根島由佳吏に恋い焦がれる高崎美咲。ずっと一緒にいたいと想いながらも国策に抗う事を「不幸」と位置付け、真田莉々奈は国策で引き合わされ、それに順応す るかのように由佳吏に惹かれつつも、それに抗い、美咲の想いを尊重するようにしながら、自由恋愛を求めて行動しようとする。
由佳吏に対する想いは同じだが、見ている方角が全く違うと言うことがはっきりしてきた。まあ、しかし物語は正直遅遅として進まず、肝心の根島由佳吏は二人のヒロインの間を相変わらずふらつき、苛つかせること甚だしい。
結論は制作者側の匙加減というのが明瞭であり非常に自由が利く。どちらに転んでも納得のいくキャラクタであることは素晴らしい話ゆえだからだ。

ただ、着地点は未だ見えず。マンガボックスのラブコメホープの面目躍如が懸かっている。