ドラゴンクエストⅪ~過ぎ去りし時を求めて~プレイエッセイ⑪

ナギムナー村~海底王国ムウレア

ロミア、喜内游岐に永劫の聖愛を涯し母海に還り 海王セレン、異種愛の後先を守人と成す勇者に謝すること


featuring “You're the Only…”~キナイ・ユキとロミアの恋愛の結末

ロミア漁 師・キナイが語ったナギムナー村の人魚伝説は悲劇的なものだった。キナイ・ユキ(喜内 游岐)は、人間と人魚の結ばれない宿命に懊悩し、ロミアを愛するが 故に人魚の悪しき伝説を自らを伝説の主役にして伝えたのだという。時の流れは大きく事なり、ロミアが白の入江で俟つ間に、キナイ・ユキは既にこの世にな く、逼塞していた静寂ヶ浜に粗末な墓標を残すのみの存在なのだという。

白の入江にて俟つロミアに、真実を伝えるかフェルナンドは迷った。別れる仲間たちの意見。カミュは言う「だから人の色恋に荷担するのは嫌だってんだ。後味の悪い思いしかしねえ」それでも、ここまで来たんだ。引き返す訳にも行くまいさ。
フェルナンドは決めた。「キナイはナギムナー村に居ます。でも、ロミアさん。あなたが想うキナイ・ユキは既に大樹に召されて久しいようです」
ロミアは一瞬の間を空けたが、信じなかった。「私を、ナギムナー村までお連れ下さい」
それはロミアの痛切極まりない、最後の哀願のように思えたフェルナンドは、承諾する。「彼女自身で、キナイ・ユキの真実を知るべきじゃろう」ロウが言った。冷たいようだが、いつかは必ず判ること。未来永劫、来ない恋人を無為にただ俟ち続けるよりはずっと良いだろう。

キナイ。ロミアが見てすぐに判った。キナイは語る。あなたの思い人は俺の爺さんだ。最後の別れロミアはそこで初めて、キナイ・ユキがもうこの世に居ないことを実感する。心の何処かで、生きている。という願いが叶わなかった瞬間だった。

You're the Only… 静寂ヶ浜

小野正利の名曲「You’re the Only…」がバックグラウンドとしてイントロから始まるようなシーンがここだ。タイアップ「君のためにできること」ではないが、キナイは、思いを致すロミアに、「約束のヴェール」を渡すと、祖父のその後の一生を語った。
ずっと俟っていたわ人と人魚。叶う事なき愛の悲劇を知るロミアは、約束のヴェールを纏い、キナイ・ユキの墓標をそっと抱きしめキスをした。これが永久の彷徨いの終焉。
彼女は自ら陸に上がる。人の脚に変わるも、それは人魚としての生涯を終える覚悟。陸に上がりし人魚は、竟に泡となって消える。
「あなたの手、キナイと同じ……」キナイの手をそっと握りしめて、寂しそうに微笑むロミア。最期の別れを決した人魚の表情は美しいという言葉では物足りない、とキナイは後に語る。
どうしょうもない宿命に悲嘆するマルティナ。「彼女も覚悟を決めてここまで来たんじゃ。静かに見送ってやるのが、情けというものぞ」ロウの窘め。ロミアに想い一入だったマルティナだっただけに、フェルナンドも声を掛けられなかった。
海に還る
そして、海に還るロミア。それは大樹に召されたキナイ・ユキを追って。という悲しくも美しい恋愛の結末だったのかも知れない。だが、武田鉄矢はその楽曲の 中でもテーマとしている「海」は、生命の根源であり、海という字に「母」がいるから、とまで言っている。涙も海の味(しょっぱい)だろう、と海を語れば武 田節が炸裂する。

DQⅥ、ペスカニ・ロブとディーネを想う

キナイ・ユキ(喜内 游岐)

ちょっとだけ考えた。だったら、DQⅥのロブとディーネはどうなるんだろうか、と。
彼らはキナイ・ロミアほど深い恋愛関係にまで発展しているまででもないが、ロブ自身は自分と一緒に居ても、幸せにはなれないだろう。とディーネに仲間たち の許に帰るよう、突き放していた。人魚の世界も、人間を極めて怖れているため、はぐれてしまったディーネを置き去りにしてしまったというのだから、意外と 絆は浅い。
ロミアは彼女オンリーのストーリーが進んだので他の人魚たちについては触れなかったが、キナイ・ユキはロブのように想いを封じてまでサンクチュアリへの帰還を強く願っていた訳でもなく、結局はロミアを俟たせて懊悩の果てに死したのである。永遠の待人
ロブとディーネは、本編ではロブがサンクチュアリを単独航行で訪れ、ディーネを初めとする人魚たちの歓待を受けている場面で終わっているため、それに比較すれば、DQⅪのこのキナイ・ユキとロミアは相当、踏み込んだと言えるのである。

もしも、ロブとディーネも深い恋愛関係に至るまで描いたとするならば、キナイたちのような悲恋で終わっただろう。そういうことを考えると、ある意味今回のキナイ・ユキとロミアの話はDQⅥの伏線を違った形で回収したのではないだろうか。という見方も出来る。
人魚は500年の時間を生きる。人はせいぜい70~100年とするならば、その間に様々な出会いと別れもあるはずで、それでもロミアはずっとキナイ・ユキを白の入江で俟ち続けていた、と言うのだから、なまじ人間の移り気などとは比較にならない純愛だと言えるのだろう。
今なら、あなたを…
キナイは陸に上がったロミアの手を取ることも出来たはず。しかしそれをしなかった。キナイもやはりキナイ・ユキの孫と言うことなのだろう。彼女を想えばこそ、海に還ることに抵抗をしなかった。彼もまた、痛切極まりない思いをしたのである。
憎しみと言えば語弊がある。それでも決して相容れないと判っているはずなのに、キナイは言った。「今ならば、喜内游岐の気持ちがわかる。俺も、ロミアに恋をしそうになった」
それは、しそうになったのではなく、恋をしたのである。祖父の悲恋を識るからこそ、ただ人魚伝説を縁に臆病を隠していただけなのかも知れない。
そしてフェルナンドたちは、ロミアの加護を得て、海底王国への道標を得ることになった。

静賢王、ムウレアで人魚たちに懸想する

ムウレアロミアの「遺書」は、フェルナンドへの感謝と喜内游岐への弛まぬ恋を綴り、海底王国への道標を残した。ムウレアの女王にオーブの件と、ロミアの経緯を奏上するためでもあった。
まだ、悲恋の余韻醒めやらぬ一行。元気なのはシルビア姐さんとロウ公くらい。年の功だと言われればそれまでだが、泡船となって辿り着いた、海底王国・ムウ レアに降り立った瞬間、多くの人魚たちが興味津々とばかりにフェルナンドたちを見回して行く。人魚は好奇心旺盛のようだが、中にはマーマン、魚人もいて面 白い。ロウが突然、ムフフと含み笑いし出すので、フェルナンドが訊いた。
「ロミアも美しかったが、何何。ここの人魚たちも皆、負けず劣らずじゃわい」
気分を紛らわすためなのか、天性の好色なのか。呆れるはベロニカ。マルティナはロウのことをよく知っているので別段驚かない。もしかして、フェルナンドのモテっぷりは、ロウの血を色濃く受け継いでいるためなのかも知れないな。
滄晶女王セレン
幻想的な世界よりも美人人魚を目で追うロウの手を引きながら、ロウを更に楽しませる御仁への面会が成された。引見されたのはムウレアの女王にして、海底を 統べる滄晶女王・セレンだ。絶世の美女で、巨乳。ロウの精気が爆発しそうなほど、確かにロミア以上に気品があって美しい。
フェルナンドがロミアたちの顛末を語ると、一部始終を見ていた。さすがである。でも、何もしてくれなかった、という不満はあったが仕方がない。他人の恋に あれこれ言う奴は犬に食われて死んじまえ。と、何処かで聞いたことがあるようなセリフよろしく、セレン女王からすれば、あれで良かったのだという。むし ろ、フェルナンドたちに感謝していると言葉を賜った。マルティナがとにかく、一安心した様子であった。
セレン女王はフェルナンドの本来の来訪目的をも知っていたので、ロミアの件での感謝の意味も込めて、オーブを託した。そして、道に迷ったらいつでも来訪してくれて構わない。とまで言ってくれたのだ。
今回はロミアの件と、オーブの件での来訪だったが、またいずれセレン女王の力を借りる日が来るかも知れない。
武器屋では店番のサメと言葉も通じないから残念だが、それでも名残惜しげなロウの手を引っ張り、再び地上に戻ることになったのである。

それでは、また次回。