ドラゴンクエストⅪ~過ぎ去りし時を求めて~プレイエッセイ⑮

聖地ゴルダ~命の大樹

フェルナンド、聖地に勇者の荘厳なる伝説を承継し 双子姉妹、命の大樹にその使命を再確認させるのこと


瓏公、ムフフ本の趣味を露呈し、フェルナンドにその好色の遺伝子色濃く受け継いでいること

ムフフ本クレイモラン(雪遶国)を出立する直前、ロウ公が荷物から一冊の本を落としてしまう。古代図書館に所蔵されていたという、「ムフフ本」。要するにエロ雑誌だ。
ムフフ本の内容は想像の域を脱しない。ロウがいかにも好色なのかと言うことが窺えるし、マルティナも幼い頃から知っているせいか淡々としている。それより もフェルナンドがそのロウ公の嫡孫であると言うことからしても、この祖父があってこの孫あり。というように、フェルナンドも無頓着ではあるが行く先々の町 や城で、女性たちの心を捉えてやまないのだから全く気が気ではない。マルティナもロウと比較してしまうから、フェルナンドのモテっぷりが気になって仕方が ないのだろう。呆れるマルティナ
叡智の結集である古代図書館に収蔵されていたというムフフ本は一体いつの時代のムフフ本なのかという検証も必要だろう。今の世で言えば江戸時代の春画のよ うなものなのだろうか。そうだとするならば相当のマニアであって、マルティナもただただ呆れるだけだというのもわからなくもない。
「ロウさま」「なんじゃ、フェルナンド」「そのムフフ本というのはいったい――――」その質問を聞いていたマルティナが長足を蹴り上げてフェルナンドを牽 制する。「ロウさまの悪い癖よフェルナンド。覚えなくてもいいから」あまりこのことを尋ねると、白の入江で牽制された以上に、本気でマルティナはフェルナ ンドを叩き落としそうな勢いだ。まあ、時宜が訪れたら聞いてみることにしようと思った。

聖地ゴルダ、フェルナンドを迎えローシュの伝説を承継せしめる

バンデルフォン故城で最後のオーブを収集すると、一行はいよいよ聖地ゴルダへと向かうことになる。
シケスビア雪原の奥地に進むと、酷寒の風景から一転、緑滴る温暖な風景が広がる。聖地・ゴルダへの道。心なしか、ベロニカ・セーニャの双子姉妹も足取りが軽い。
聖地ゴルダ高山の岫を乗り物などを駆使して進んでゆく。こうでもしなければたどり着けないというのだから、過去ゴルダを目指した者たちの苦労は計り知れない。
「神秘的な場所ね…」マルティナが思わず吐露すると、愛郷心旺盛のベロニカが照れる。セーニャは既に心は故郷のもとにあるように見えた。

ファナード猊下と再会した双子姉妹は、自身の使命である勇者庇護を報告。勇者到来をゴルダは渇望していたといい、ファナード猊下も勇者を大歓迎した。門前 町には姉妹の両親が住む家もあり、姉妹は久方ぶりの両親との再会に心を踊らせている。「僕に構わず、会いに行かれたほうが良いです」フェルナンドがそうい うと、ふたりとも嬉しそうに駆けていった。家族水入らず。フェルナンドが味わえなかった思いを、二人には思う存分味わってほしいと思ったからだ。
ローシュ
ローシュの伝説は伝えられた。フェルナンドはローシュを承継し、姉妹はローシュを扶けた大賢者の転生だという。魔王殄滅の方法を探るべく、また勇者の使命として命の大樹を目指してきたフェルナンド一行に、いよいよその時が迫ってきたのである。
ゴルダ聖堂の扉が開かれ、人跡未踏とされる命の大樹への道が今、開かれた。

姉妹の想い、マルティナの想い、皆の大原理への思い

「大樹、蒼穹に能く神羅万象を統べ護りて闇邪の厄禍を和す」そんなロトゼタシア蒼氓すべからく仰天する命の大樹の幹麓は、鬱林の如く緑の木陰で湿湿とし、草の匂いがする。
モンスターも住み着いてはいるが静寂でマルティナがゴルダへの印象そのままに神秘的な様相。
どれくらい歩き、また登ったのか。やや広い草地に出たところで、キャンプを張る。多分、ここを超えれば命の大樹へと導かれることになるだろう。最後のキャンプになる可能性が高かった。
皆、やけに神妙で感慨深い表情をしている。

【小説形式】

六宝珠を掲げる祭壇を間近にしたその晴夜。フェルナンドはキャンプの焚き火から少し離れた場所で天頂近くに茫然と輝く大樹の核光を眺めながら物思いに耽っ ていた。「フェルナンド。ここにいたのね」マルティナが声をかけた。振り向くと彼女は微笑みながら見つめている。「隣、良いかしら」「はい」
「静かね。こんなに静かな夜って、久しぶり」「嵐の前の静けさとも言うそうですが」なんともムードを壊すようなフェルナンドの言葉。「もう、せっかくの雰囲気壊すようなこと言わない!」「あはは」フェルナンドの空笑い。マルティナ
「長かったような、短かったような……。グロッタの町で、キミと遇ったのが昨日のことのようで……。それくらい、私のこの16年は……」マルティナの話す 横顔をフェルナンドが睥睨すると、彼女は少し寂しそうに睫を伏せ気味にしていた。フェルナンドが気づいたことがある。普段はあれほど勇猛果敢なお転婆姫な のに、肩がすごく小さく感じた。
「…………」フェルナンドはためらうことなく、そっとマルティナの肩に腕を回して抱き寄せる。「あっ……!」軽く引き寄せられる。思わぬ力に、マルティナ は戸惑った。しかし、肩から伝わるフェルナンドの腕の力、ぬくもりにそっと身を預ける。「生まれたばかりのキミが……もうこんなことするようになるなん て……」「嫌ですか」そっと腕を離そうとするがマルティナはフェルナンドの手を握りしめた。「ううん。安心するわ。もう少し、こうしててもいいわよ」
マルティナがフェルナンドの顔を見上げると、彼はいつもの真顔で真剣な表情に緩やかな温かさを乗せて大樹を見上げている。「フェルナンド。ひとつ訊いても いい?」「はい」「今まで、何人の子に、こうして来たの……?」「え?」「…………」フェルナンドは質問の意味が全くわからず、キョトンとしている。「う うん。いいわ。全てが終わったら、あとでゆっくり聞くから」もどかしさだけが、マルティナの胸奥に残った。

同年同月同日に・・・眠れない夜。ベロニカ・セーニャの姉妹も然りだった。「いよいよですわね、お姉さま」セーニャがつぶやく。「そうね! だからホラ、さっさと寝ちゃうわよ!」そうは言うものの、眠れない。いろいろと思いがこみ上げてくる。
「ねえお姉さま?」「なに?」「私たち、芽吹く時も散る時も、きっと同じですよね……」突然そんなことを言う。どうしたのだろう。やけに感傷的なセーニャ。「当たり前でしょ! 私とあんたは二人で一人なの!」

「フェルナンドさまをお守りして……ここまでやってきました。お姉さまのお気持ち、私にはよく――――」セーニャが言いかけるのを、ベロニカが止める。 「タンマ! それ以上言うとひどいわよセーニャ!」「でも……フェルナンドさまは……」ベロニカは黙る。黙っててと、ベロニカは言っていた。
しばしの沈黙。やがて、ベロニカが口を開いた。「セーニャ。あんたも強く言わないけど……フェルナンドのこと――――」「…………」セーニャが無言で背中を向ける。語る背中。双子は思いが共通する。「今は、わたしたちの『役目』を果たしましょう」「はい、お姉さま」

七色の枝が発した。六宝珠の祭壇にオーブを掲げると、虹の階段が連なり、大樹の大幹へとフェルナンドたちを誘った。

命の大樹へ

高所恐怖症虹 の階段、大幹。フェルナンドはマルティナの手をしっかりと握って一段、一段と歩を進めてゆく。その二人の様子を歯がゆそうに見ている姉妹。こんな時なの に、フェルナンドが気になって仕方がない。「私、実は高いところが苦手で……フェルナンド、お願い。私の傍を離れないで」強気のマルティナが本気で怖い表 情を見せる。フェルナンドは自らマルティナの手をしっかりと握り、先頭に立って歩きだしたのだ。
「マルティナ、やるのお」二人の様子に感心するロウ。「男心を掴む術、心得ているわねぇ~。これもロウちゃんが教えてあげたの?」シルビア姉さんが言う。「あれは天賦の才と言うんじゃよ」

大樹の魂そして遂に一行は命の大樹の核、大樹の魂へと到達する。万感溢れる森羅万象のマナ。旅もいよいよ大詰めかと思った矢先、不穏な空気はすぐ背後まで迫っていたのである。

それでは、また次回。