ドラゴンクエストⅪ~過ぎ去りし時を求めて~プレイエッセイ⑰

海底王国ムウレア

滄晶女王(セレン)、救世の勇者を魚体に匿い 亡世に冀望を燻らす雄心に惹かれて荒野に フェルナンドを還すのこと


セレン、海底に墜ちしフェルナンドを宮城に匿い想いを寄せる

【小説形式】

地上に異変が起こった。ロトゼタシアの大原理・命の大樹が、魔王ウルノーガの手によって枯朽崩落させられたのだという。渺邈として穏やかな大洋世界も、その影響からか頗る悪しき漣がわき起こり、渦も威を増しているのを感じた。
「滄晶女王!」ムウレア王国左執議・淘潯(トウジン)が慌てて駆け寄ってきた。「いかがしたのです、淘潯」「先ほど、北瀛令チャンムウより火急の報せが届きまして。女王、まずは直接お確かめを」「……わかった」滄晶女王セレン
私は淘潯の後を追い、ムウレア街中の宿に駆け入った。そして、寝台に臥る人間の姿に、愕然とせずにはいられなかった。
「この人間は……もしや――――」すると淘潯が大きく頷く。「勇者――――さまでございます!」
どうしてこのようなところへ、そしてボロボロで昏睡状態。何があったのですか、なんて聞くまでもなかった。命の大樹が枯朽した。全ての原因がそこにあるのを、私は判っていた。
勇者フェルナンド。勇者の痣が喪われても判る。飄乎として窈然とした瞳。表情を曇らすこともなく、人に対して常に真剣で遜恭。人魚ロミアと、人間・喜内游岐の恋を見届けた優しき旅人。
「勇者フェルナンド……なんて痛ましい――――。ああ、でも生きている。きっとここに来たのも大樹のお導きですね」私は不謹慎にも彼がムウレアに漂流してきたのが嬉しく感じた。「淘潯、勇者フェルナンドの傷の手当てを。このままだと命の灯火が消えてしまいます」「御意!」

大樹が墜ちてからのロトゼタシア私は彼、フェルナンドに施呪して青魚の姿に変えた。意識のない人間が長く海底に居することの負担や、魔王の尖兵から勇者を守るためにはこうするしかなかった。数ヶ月。私たち人魚族にとってはほんの数日の感覚だが、永い。実に永い時を感じた。
淘潯や、何故かフェルナンドの看護を我先にと買って止まない人魚達のお陰もあって、彼の健康状態はゆっくりではあったが回復していった。そして……
「勇者さまがお目覚めでございます!」淘潯が嬉嬉として報告してくると同時に、悪い報せも同時に受けた。魔王六軍王の一、征瀛将軍・覇海軍王ジャコラが、ムウレア鏖定に向けて魔軍を出したというものだった。

フェルナンド、滄晶女王の宸憂を打ち払う瞳光

「セレンさま。申し上げます。勇者さまがお目通りを……」衛兵の人魚の報告を受けた私は、眇然と喜びが湧いた。早く通しなさいという言葉よりも先に、青魚姿の彼が私の前に姿を見せてくれた。
「セレンさま。僕、なんてお礼を言えばいいのか――――」鰭の使い方が様になっている。私が人魚だからだろうか、人間の姿をしたフェルナンドも良いが、そ れ以上に凜々しくも愛らしい青魚姿の彼に思わず見惚れてしまう。「何を言うのです。あなたは勇者。生きてくれていてこそ私たちの希望。お礼を言うのは、私 たちの方です。フェルナンド、生きていてくれて、ありがとう……」
失われぬ眼光フェルナンドは気になっていた。感傷に浸っている場合ではないとばかりに、私に訊いてくる。世界は今、どうなっているのかと。
私は彼を『守り人の海』へと導き、世界を映した。ありのまま、起こった事実を彼に見せた。

海底の大君として、大樹の眷族として勇者に道を示すのが私の使命。大樹枯朽の世界を、彼は口を真一文字に結び爛爛とした眼差しで凝視していた。そんな彼に対して、私は使命とはまた違う、言い切れない感情があるのを覚えていた。
(このまま、海底の民として彼が傍に居てくれても……)
数百年を生きる海底の王がそんなことを想うなんて。彼はそもそも人間で16歳。歳だけで言うなら私の何十倍も若い。いや、そんなことよりも、人魚が人間を想うなんて、ロミアと喜内游岐を見届けたことを考えれば、辛く哀しいだけではないか。

……でも、何故だろう。このセレン。生まれて初めて、1人の人。この青魚姿の少年を想えば胸苦しくなる感覚を抱く。
「セレンさま」フェルナンドの凜とした声に、幻想から引き戻された。「何かしら」
「たとえ僕が勇者の紋章を失くしたとしても、このままウルノーガを見過ごすことは出来ません。ですから……」そう。フェルナンド。彼は諦めてはいなかっ た。ずっと、ここにいて私の傍に居て欲しいなんて、刹那でも思ってしまった私が恥ずかしい。でも、フェルナンドはそんな私の想いをこんな言葉で返した。

「セレンさまや、この海の人々も、非力な僕はそれでも守りたいのです」

私は誰よりも強いと思った。渺邈とした大海を統べる海の女王として強く在り続けなければならないと言い聞かせてきた。でも、そんな強い決意さえも、この勇者の少年は温かな言葉一つであっさりと私の心を掴んでしまう。別れの時
私は青魚姿の彼を思わず抱き寄せ、口づけをした。「……!」驚き、一瞬鰭を激しくぱたつかせたフェルナンド。私はそれでも羞恥を懸命に隠し、威厳を以て彼を見つめた。「不思議な人。こんな惨状を見せつけられても、凛々とした光を失っていないなんて」「セレン……さま?」
「何も言わなくてもいいわ。勇者フェルナンド。あなたが目覚めた時から、いつかきっと――――」
その時だった。淘潯が大慌てで駆けつけてきた。「陛下――――セレンさま! ジャコラのた……大軍が――――!!」
しかし私は絶望どころか、不敵な笑みを浮かべていた。勇者フェルナンドの存在が、私にとって何にも勝る勇気と希望となっていたからだ。
「ウルノーガってせっかちなのね。別れの言葉すら、言わせてくれないなんて」「セレンさま!」フェルナンドの叫びに、私は答える。「行きなさい。勇者フェルナンド。あなたは、私たちの希望……。あなたが希望を捨てなければ、私たちも、きっと――――」
私は……と言いかけて変えた。女王である前に、私も女。ロミア、今なら判るような気がします。あなたの気持ちが……。
「セレンさま!」淘潯が出撃する。「行くわよ!」
ジャコラは邪気を発し、叫喚が波紋震動となってムウレアを襲ってくる。私と淘潯、そして私の愛するムウレアの民達が一丸となってジャコラに向かっていった。

それでは、また次回。