ドラゴンクエストⅪ~過ぎ去りし時を求めて~プレイエッセイ㉓

預言者の庵

覇海軍王、シルビア号を強襲し 預言者、夢翠溪にフェルナンドの道を示す


ジャコラ、シルビア号の動向を捉え勇者を海中に抛り 預言者、夢中の青岸にてフェルナンドに大道を顕す

【小説形式】

ロウ公を再び迎えたフェルナンドだったが、どうもソルティアナに碇泊しているシルビア号へ向かう途中のロウの機嫌が優れない。理由を訊くと、経緯を話すロウにグレイグやシルビアが呆れた。「ワシもニマ大師の胸に抱かれたかったわい……」
ロウに何故か頭を下げるフェルナンドに「そんなことする必要はないわ」とシルビアが嘆息し、旅を続ける。瓊摩大師には、もう会えない。フェルナンドもある程度は現実を受け止めようとしたが、辛いことには変わりがない。だから、ロウの剽軽さは少しばかり助けになる。ジャコラ強襲
ソルティアナからシルビア号が出帆する。散り散りになった仲間達を探さなければならない。ロウ公の進言もあり、シルビア号はバンデルフォン地方へと針路を 向けた。大樹枯朽前も、処女航海の行き着く先はバンデルフォン地方だった。ユグノア故城・グロッタなどの主要地域にも通じる。

バンデルフォン南岸の港が水平に見えた頃、急激に海が荒れ始めた。アリス航海士だけでなく、シルビアまでもが舵を取るが言う事を聞かない。その時だった。 フェルナンドが和すようにも忘れられない影が、海中から現れた。ウルノーガ六軍王の一、覇海軍王ジャコラ。海底王国ムウレアを襲い、滄晶女王セレンの消息 を絶った憎き魔王幹部の一である。
太公望(預言者)しかし、それでもなお今のフェルナンドには敵せず。シルビア号を揺さぶられ、フェルナンドは海中に投げ出された。再び魔王軍の前に敗れるフェルナンド。
意識がゆっくりと戻る。驚いた。
静隠長閑で緑滴る草原。四方には遠巒が続き、空は抜けるような青空に爽やかな風。しかし、小川が流れる側にある小屋以外は建物どころか、人の気配すらな い。ここはどこだろうか。フェルナンドは川辺の小屋を訪れた。人の暮らしの匂いはするが、そこに人はいない。梯子があり、屋根の上に続いているようだが、 それがどうもフェルナンドを誘導しているようにも見えた。
屋根の上に登ると、更に美しく穏やかな風景を四方に眺める。そして、屋根に備わった足場に腰掛け、釣り糸を垂らす1人の人間がいた。腰まで伸びた黒髪を束 ねた、年の頃三十前後の若い女性。美しいが、どこか達観したかのような威厳すら感じさせる。中華に、姜子牙あり。渭水に釣りをし国家の計を案ず。太公望と 称す。周文王、太公望を得て殷紂王を伐つ。何となく、この女性からはそんな気のようなものを感じた。
「ここは夢翠溪の潺(せせらぎ)。どうじゃ、そなたも釣りをせんか」声は若いのに、口調がやけに老老としている。やはり、不思議な人だ。フェルナンドが隣 に腰掛け、釣り糸を垂らす。時が止まったかのように、ゆっくりと、静かな空気。川の流れと、微風の音、遙かに飛ぶ小鳥の囀り。眠たくなりそうだ。
「どうじゃ、釣れたかの」「あ、いえ……」「よいよい。釣れる時には釣れる。来たるべき時が訪れるまで、堪え忍ぶこと。それが肝要じゃ」勇者の力
そう言って笑うものの、女性は竿を下げ、席を立つ。フェルナンドも暢気に釣りをしている場合では無いような気がした。竿を下ろし、屋根から階下に跳び降りる。
改めて小屋に入ると、彼女はフェルナンドが迷い、困惑し、途方に暮れていることを見抜き言った。「勇者の力なんてものは見えるものでも、触れられるものではない。ましてや握りつぶされて亡ぶなどあり得ぬ事じゃ」愕然となるフェルナンド。
「貴女は、いったい……」「儂は夢翠溪の預言者……とでも言っておこう。じゃが、そなたの迷いは詮なき事、くらいはわかる」
笑いながら預言者の女性は獲れた魚を炉火に炙り、フェルナンドに勧める。自らも頬張り、旨さに顔を綻ばせる。川魚なのに、塩気が良く効いていた。
『そなたの迷いは、詮なきこと……』その言葉に、フェルナンドは妙に勇気づけられる、そんな気がしていた。
託宣
そして、預言者の女性は、フェルナンドにおもむろに顔を近づけ、瞳を重ねると、指を伸ばしてフェルナンドの額に当てた。そして

「世界を救え」

その言葉と共に、パチンと額を弾いた。それと同時に白くフェイドする意識。預言者の女性の優しくもどこかしか不可思議な微笑みが、フェルナンドの心の靄を払って行くような心地がした。
そして、気がつくとそこは海岸。バンデルフォン南岸の船着場の砂浜だった。天空から光が差し、文字を水面に映す。
「勇気を胸に、雷霆を手に」
それは、不思議とフェルナンドにしか見えなかったのだという。

それでは、また次回。