鷹岑昊のTOD的こころ Part.71

短編映画『君のままで』(2003年)

タカミネコウのTOD的こころ。第71回はDEEN初の俳優出演として知られた隠された話題作、映画「君のままで」
14年の時を経て今の恋愛漫画や恋愛諸作品に通じるキャラクタ達の設定とバックグラウンドをノスタルジックにかんがえる。

講演、鷹岑昊。原作・注目、鈴木浩介監督作品・ショートムービー「君のままで」。お囃子、星の雫(DEEN)

『君のいる町』(瀬尾公治)
『それでも僕は君が好き』(徐譽庭・絵本奈央)
『虹浜ラブストーリー』(元町夏央・柴門ふみ)
『クピドの悪戯』(北崎拓)などに通じるコンセプト

 先年は、新海誠監督の「君の名は。」が世界的に大流行したが、今回わたしが語るのは同じ「君」、「Your」でも、名前ではない。「君のまま で。As you are...」である。多分、そのタイトルを検索してみれば、歌手〝azusa〟が歌うテレビアニメ「アマガミ」の主題歌の同タイトルが上位にずらりと出 てくるだろう。まあ、それも全く違う。アニメではない。わたしにしては珍しく実写の、それも多分世間一般的には殆どと言っても良いほど知名度がない、全 45分というショートムービー作品なのである。
この映画、2003年というから今から14年ほど前。わたしがファンのDEENがオリジナルアルバム『UTOPIA』を引っ提げて全国ツアーをこなしてい た時に、ライブ開始前に上演されていたとする作品で、要するにプロモーションビデオの延長線上にある映画作品であったと解釈している。君のままで(鈴木浩介監督/坂井真紀・石川伸一郎・池森秀一・粟田麗・佐藤二朗他)
わたしはDEENのライブ等には行ったことはなく、この「君のままで」という作品も話には聞いていたが今の今まで視聴するきっかけもなかったのですね。そ うこうしているうちにあれよあれよと光陰矢の如しであっという間の14年。やっとこさ、手に入れた訳です。廃盤なのか、限定数だったのかはわからないが、 お手頃な値段で入手出来たのは僥倖と言うより他ない。

主演の坂井真紀さんと言えば90年代トレンディドラマの旗手的存在ですが、わたしとしては実写ドラマ「ヤンキー君とメガネちゃん」で皆川猿時さんが演じた 堺先生の妻役が印象に残っている。と言うか、他のトレンディ系はわたしがいちいち語るまでではあるまいと言う話(逃げている訳ではない)
それにしても、今は良い年齢の重ね方をしている坂井さんですが、この映画当時は32,3歳位ですかね。本当、綺麗ですねえ。

翼を風に乗せて~fly away~よりも星の雫

ちょっとだけ話をずらします。この短編映画は、さっき言ったようにDEENのアルバム「UTOPIA」に連動したもので、〝星の雫〟を主題歌に、〝いくつ ものありがとう〟を挿入歌に起用した。わたしが「いくつものありがとう」がこの映画の挿入歌だったことを知ったのは、恥ずかしながらこれを観た昨日今日の 話である。工藤加奈美(坂井真紀)
同じアルバム「UTOPIA」にはシングル曲でもある「翼を風に乗せて~fly away~」も収録されていて、こちらにも本格的なプロモーションビデオが存在している。離婚してぎくしゃくしている父娘家庭で、家出した娘をめぐるもの で、主演は現在もずっと第一線で活躍している、俳優・小市慢太郎さん。娘役は居城エリカさんという、当時南青山少女歌劇団に在籍が確認されていた子役。
こちらのプロモーションビデオもきちんと構成すれば十分ショートムービーを作れるクオリティはあったと思われるが、星の雫はインタビューで池森秀一が 「〝君のままで〟のシナリオにインスピレーションを受けて書いた」と述べているように、映画があっての楽曲だったのだろうと考える。「翼~」はDEENのクラシッ クシリーズの内「春」のイメージとしてあったとされている分、やはり独立的な楽曲だったのだろう。

わたしが星の雫を聴いたのはそう言う意味でアルバム・UTOPIAからであってこのショートムービーはいつか観たいとは思っていたのですね。
仁志(DEEN 田川伸治)星 の雫はわたしの拙作小説群である短編集などのアトモスフィアイメージに頻繁に使っている曲のひとつでもあり、とりわけ漫画・君のいる町(瀬尾公治)、それ でも僕は君が好き(徐譽庭・絵本奈央)の野ブタ・キムサムスン篇、柴門ふみ・元町夏央の虹浜ラブストーリーなど、傷心のヒロイン達が故郷や想い出のある場 所に行く、というシチュエーションによう似合うのですわ。
作品の主人公・工藤加奈美は不倫に破れて故郷に帰る。そこで学生時代の恋人だった政樹(DEEN・池森秀一)に忘れ得ぬ想いを寄せるという場面がある部分に、北崎拓の恋愛ファンタジー譚・クピドの悪戯-虹玉-のメインヒロイン・桐生麻美を連想させて止まない。

▲仁志(DEEN Guitar田川伸治)…セリフがない、主人公・工藤加奈美の親友・桂子(大家由祐子)の夫で三人の子の父という設定。出番は冒頭の信州別所線・別所温泉駅でのシーンのみと言うものだったが、セリフがないだけ自然に演じることが出来たように思える。

また、加奈美が傷心を癒やすために帰ってきたはずの上田の町では、同級生や知己がみなリア充ときたものだから立つ瀬がない。雅樹(DEEN・池森秀一)
都会暮らしに夢破れて帰ってきた故郷の田舎町というシチュエーションは往々にしてあるのだが、大人向けのラブストーリーとして非常宇にノスタルジックで、 90年代の良き時代を彷彿とさせた。まあ、この映画自体が2003年という、その90年代の残光が立ち込める時期であったと言うこともあるのだろうね。

▶政樹(DEEN Vocal池森秀一)…主人公・加奈美の元恋人という結構重要な役。婚約者・朋絵(粟田麗)がいるという、やっぱりリア充な立ち回り。俳優として初めて望 んだ割には自然体で演技をこなせている。共演した粟田麗からミュージシャンのイメージが変わったと褒められる好演ぶりだったそうだ。

少し大人の「君のいる町」

漫画家・瀬尾公治さんの代表作である「君のいる町」のメインヒロイン・枝葉柚希は、この工藤加奈美に共通する部分が多い。枝葉柚希に関する詳細は考察記事 を読んで頂くとして、そう考えてみれば、坂井真紀さんが30歳の枝葉柚希っぽくも見える。桐島青大との恋愛が破れていたとするならば、どんな感じだったの だろうか、とさえ考えるがそう言えば枝葉柚希の故郷は東京だったね。
まあ、DEENのギタリスト田川伸治さんは瀬尾公治さんと同じ広島県出身なので、遠回しなリンクとして君のいる町を連想してみた。なんて少々強引なものがあるのはご愛敬。太一(佐藤二朗)
枝葉柚希はいわば逆パターンで、東京でのゴタゴタがあって広島の田舎に疎開してきた。という感じでのスタートを切ったが、中盤以降は終わりまで東京だったのでそう言う意味では、「君のままで」と星の雫からのコンセプトからは少し外れるかもしれない。

◀太一(佐藤二朗)…「勇者ヨシヒコシリーズ」のホトケ役で一躍ブレイクした佐藤二朗さん。いやはや若いですねえ。しかも細い!(笑) 今現在はアクが強 くなったとされる演技の台詞回しと立居振舞だが、この映画の二朗さんもホトケそのままにコミカルな台詞回しが特徴。ホトケ、いや佐藤二朗ファンは一見の価 値がある。因みに役どころは市役所広報課の課員で、町おこしのために廃校舎に住み着いた世界的知名度の画家・リュウタに描き下ろしをして欲しいと加奈美に 頼む。妻子有り。

それでも僕は君が好き~野ブタに背中を押されてサムスンの元へ

本屋の店主・加奈美の先輩(DEEN・山根公路)と ころどころにセリフのモノローグが入る。加奈美の心情心裡なのだろう。それを置き換えれば徐譽庭・絵本奈央さんの「それでも僕は君が好き」の主人公・芹澤 祐輔に当てはまる。まあ、そうなると政樹の立位置は「野ブタ」ということになり、リュウタはサムスン、と言うことになるのだろうか。わたしも今それでも僕 は~の小説をぽつりぽつりと書いている最中なのだが、サムスンの実家という設定でこの「君のままで」を無意識に想定したものとなってしまった。先入観とい うのは時に残酷であるね(笑)
それでも僕は~は都会調の恋愛譚だ。原作が台湾の作家である以上、信州上田のアトモスフィアとは明らかに違う。でも不思議なもので、キャラクタの相関図や心情心裡って恋愛ものは共通する部分が多いのでしょうね。

▶本屋の店員(DEEN keyboard山根公路)…加奈美の先輩という役で、加奈美の求めていたものをリュウタの画集だと見抜く。今流行のリュウタの画集が5冊売れたと喜び、 100冊取り寄せたと無謀なことをする。DEENメンバーの中で一番演技が緊張したという山根さんは、撮影前日に演技の勉強として「男はつらいよ」を視聴 したと言うが、付け焼き刃も良いところだったと苦笑。台詞回しや陽気さはライブのMCさながらであったという。

謎の世界的水彩画家リュウタ

この映画の男の主役は、水彩画家のリュウタ。3年ほど前に上田に移住し、小学校の廃校舎に住み着いた謎の若者だというが、出版した画集は世界でも爆売れと いうのだから驚く。設定云々に手厳しい今現在の映画評論家気取りの人々からすれば、やれ勝手に廃校舎を塒にして良いのかだとか、人と交流しないのにどう やって画集出しているのか、とか突っ込みどころは多いが、そんなのは野暮天というものである。リュウタ(石川伸一郎=現・石川シン=)
このリュウタ、ぶっきらぼうで小生意気そうな言動を見せているが、内面は非常にピュアで美しい心を持っている。今や死語ですね、ピュアなんて言ったら笑われてしまうでしょう。
彼の描く水彩画は「俯く少女」が多いのだという。それには理由があるのだが、もう少しこの作品が長かったら、そう言う部分も描かれていただろう。だが、そ れが丁度良い。鈴木浩介監督も述べているように、本来は60分の脚本だったが、40分前後まで短縮することに苦戦した。映画の20分というのは観る方から する以上に、制作サイドとしては大変な作業なのかも知れませんね。
当たり前の話なのだが、この映画を観て初めて「星の雫」のプロモーションビデオの意味が判った。リュウタ役の石川伸一郎(現・石川シン)さんも述べているが、星の雫のサビは、役を演じる上で凄く自然に溶け込めたとのことである。
油絵作家や普通の画家、というのではなく、水彩画というのがまたこの映画の雰囲気と、リュウタのイメージにピッタリなのである。

信州上田の風景

アニメファンとしては、サマーウォーズが信州上田を舞台に描かれたものである事が印象深いが、信州上田の風景「惡の華」や「血の轍」など押見修造氏の作品の舞台ともなっている群馬県桐生市や、「聲の形」で社会現象とまでなった、大今良時氏の岐阜県大垣市など、日本の原風景とも言うべき美しい景観はやっぱり日本人として好きである。
長野県はいつかは行ってみたい地である。特にこの上田の風景は映画を観ていても非常にノスタルジックで、「星の雫」というタイトルもあるように、とても星の綺麗な町なのだろう。

そして何よりも心引かれた設定。スマートフォンがない! みんなガラケー。まあ、2003年だからそうなのだろうが、やっぱりLINEとかSNSとかがま だ無く、やっと電子メールがメジャーとなった時代だ。文明の利器も便利すぎると大切な何かを失う。あまりにも近づきすぎたデジタルの関係は白黒をはっきり させないと気が済まなくなった。窮屈な時代が良いか、離れていると少し相手の気持ちが見えない、そんなもどかしかった時代が良かったのか。この映画を観て いてそう改めて思わされたんですね。
ほんと、ハートフル。ラブストーリーというと烏滸がましい。DEENらしい、心温まる物語に違いがありません。
ラストシーン
改めて思う。坂井真紀さんほど黒髪ロングが似合う女優はいないですね。ちょっとだけ貞子っぽく見えなくもないですが、貞子も実は美人であると思えばこその話(笑)
発表から14年という期間を置いて初めて視聴しましたけど、なるほど。観て凄く良かったと思います。メイキング映像で池森さんは、デビュー15周年、20 周年にはもう一度挑戦したいなと言っていましたが、いつぞやのラジオ番組でこの「君のままで」の話を振られた際に、いろいろと当時のことを失念していたよ うです(汗)多分、俳優をすることは無いのかな、とか思いましたわ。

でわでわ、そんな訳でまたいつかのTOD的こころだー!