躊躇逡巡せし三角関係未満の仮 初めの恋愛劇、虚構の脚本晩夏の海に藻屑となりて即興の実演と成す

彼女、お借りします 宮島礼吏

第14,15話「海と彼女①, ②」 考察記事前編

木ノ下和也、たゆたう柔懦の本質を一気に醒めさせる千鶴の 落水に昂じ
 千鶴、なおも仕事人の矜恃を一縷に繋ぎ、湧発する想いを封じんと欲す


巻頭カラー、一挙二話。単行本発売という好事に重なった企画で木ノ下和也・水原千鶴・七海麻美の三角関係は一気に蠢き出す。……と、あれ? ならば今まで 蠢いていなかったのか?
という話になる。いや、公式のSNSでこのようなことを発信していた。

これからが本格的なスタート宣言。 壮大な前振りか

何かと話題になる〝カノかり〟ですが、まずは上述の公式SNSから見る、第13話までの壮大な前振りを振り返って人物考察を挙げて行きましょう。

彼 女、お借りします人物考察①

木ノ下 和也(彼女、お借りします主人公)木ノ下 和也
冒頭、恋人に破局を齎された精力旺 盛の主人公、その欲の浄化を求めて千鶴と出会うもその矜恃を痛罵し心象を大いに貶める
大学経営学科、20歳。練馬のアパートに独居、バイト等はせず、一度きりという約束で「100万円」を当座の生活資金としてスタートしたという。七海麻美 という恋人がいると言う設定だったが、ものの2ページで破局を語られるのだが、この麻美からの破局宣言だが、非常に謎が多く和也としても腑に落ちないもの だったという。SNSはブロックされ、明確な理由が語られることはなく、本編中でこの麻美が何故和也と別離することにしたのか、その嚆矢を見つけなければ 話の核に迫ることは出来ない。

沸き立つ男子健康の結晶、向かう先 は風俗か、デリヘルか

和也がいつしかクズ呼ばわりされてしまっているのは、私としても少し残念で、私が同じ立場環境に立たされていたとするならば、決して和也を「クズ」呼ばわ りなんて出来ないと思いますね。まあ、和也を「クズ」とこき下ろしている方々は余程、満天下に自慢出来る廉潔の好人物なのでしょう。尊敬致します。
閑話休題。出だしでいきなり恋人である七海麻美から別離を告げられて哭泣するという体たらくぶりなのだが、当然その別離の原因は触れられていない。麻美の 真意がわからない以上というよりも、そもそもこれがファーストインプレッションだとするのならば、この別離そのものがこの作品の根幹を成す、と言うことに もなる。ゆえに、和也や麻美の行動そのものを批判すると言う事は、天に唾のようなものであまり意味を成さない。
これから色々と心身共に楽しい経験が出来るだろうと快晴の海原に順風満帆たる船出をしたところで、一ヶ月経って突然の霹靂と大嵐でマストが折れて方角を見 失い大海を彷徨うことになるのであるから、惨いもそうだが、茫然自失となるのは必然であろう。
2日不眠で泣きはらしてすぐ「レンタル彼女」という風俗に手を出すとも言われそうだが、大好きだった恋人に突然訳もわからず別離を告げられたショックとい うのは尋常なことではない。たかが2日とは言うが、当の本人からすれば2日も100日の苦行に似たり、である。
まあ、下半身の捌け口は何処に……などと下劣な方面に焦点も向くが、19や20歳の健康な青年ならばそれは当たり前の話であって、デリヘルやソープではな く、レンタル彼女というジャンルを選択したというだけに過ぎない。コンセプトがそうでなかったら普通にそう言う方向に行っていたはずで、援助交際などの犯 罪に手を染めないだけ極めてまともであろう。

◇恋人を演じるのは仕事だからこそ

レンタル彼女制度を利用して水原千鶴と出会った和也は、〝恋人としての仕事〟をほぼ完璧にこなした千鶴に対し八つ当たりをしてしまうのだが、当然恋人を 失った自虐と僻見である。和也の叫び
「職業に貴賎無し」をモットーにして私はこういう風俗業に対しての偏見はなく、ただ忌諱している似すぎない訳で、そう言う意味では自棄糞になって和也がレ ンタル彼女に対してぶちまけた罵詈は個人的に全否定は出来ないし、むしろ共感する部分の方が多いと言える。
まあ、それでも需要があっての供給なのだからレンタル彼女制度で満足しているメンツも居る訳で、和也の場合は第1話の時点では両足を跨いでいる、と言うよ りもまだ地に足が着いていない状況だから、そのままの状態で否定してしまうのも性急過ぎるという感じがするのである。

和也の祖母・木ノ下和は一家の支柱という存在で、旧家の嫡流らしいプレッシャーが和也にもあると言うことを窺わせる。そこを俯瞰してみれば、和也はいわゆ る軽佻浮薄というわけではなく、和媼の意向を一所懸命に遂行しようとしている至誠通天の本質が窺える。恋人が欲しいという欲求が前のめりにはなっている が、肉親に対する畏敬は強いので、いわゆる不貞行為を恣にするような賊匪(DQN)とは全く違う。

◇要求過多に批判

和也批判の大本は、自らの保身のためにレンタル彼女という業種の「制度」を盾にして水原を利用しようとする部分であろうかと思うのだが、面子にこだわるというそのものを否定することは出来ない。和也の要求過多水原も本気で和也を否定するつもりであるならば警察官を召喚して様々な罪で逮捕させてしまうことも可能である(今のところ、ストーカーという用語がないのが特徴)
この一連の関係を俯瞰してみると、和也自身も水原千鶴に対しては「レンタル彼女」であるという一線を画していようとする立位置で、いわゆる性的関係に至ら なければ、利用し尽くすことに何ら忌憚はない、という考え方に因るものである。確かに、1回利用で数万円も搾取する訳なのだから元を取らなければ話になら ない。モアレの一つ一つを数えきらなければ、私だったら嫌である。
そういう商売上の利害関係と一個の人間としてのプライベートの境界線が実に曖昧であり、和也と水原の関係はその足下が弛緩している状態の中でバランスを保とうと強く意識していることが、逆に深みにはまって行く事になっているような気がするのである。
そして、和也にとっては服喪にも匹敵するほど2日の不眠哭泣の大失恋があった訳で、その無聊を慰めるためにレンタル彼女制度に縁を求めるのは極めて自然の理であるし、物語の上に立てば何ら違和感はない。

◇麻美に対する幻想

この物語の基幹である、和也の残念の要は元カノの麻美なのだが、何せ別離から始まる物語なので和也がどれほどの思い入れがあって麻美の残光を追い続けているのかが判らない。
上手く表現出来ていると思うのは、「男はフォルダを保存し、女は上書き保存」という名言であろう。事実としての経緯はなく、ただ和也のモノローグのみで別 離を語られるだけなので何とも言えないのだが、確信的なことは和也は水原への帰心に恟然として、麻美への想いを作り上げて破綻した際の言い訳にしようとし ている、と言う風に思える。そんな訳あらへんやろ~麻美のことを今も好きで大切に思っている、とは言うものの和也として具体的な行動を麻美に対しては起こす気配がないのである。

和也は麻美に対しては早くエッチをしたいというような妄想を抱いて尽きることはないのだが、不思議なことに水原に対してはそういう妄想はないように思える。これは暗に和也が二人に対してどう言う想いの差をもって見ているのかが判る気がする。
つまり、和也は麻美とはもう復縁の可能性がない故にかなわぬ妄想に耽り尽くすことができ、水原に対しては深層心理で惹かれているためにそう言う妄想になかなか至らない。
どういうことか、何を言っているのかと突っ込まれそうだが、要するに和也は表面上で描かれるほど「猿」ではないと言うことだ。大切に想っている相手に対しては紳士的な行動を取れる素質があると、私は見ている。
だったら、「より戻した時水原が気を悪く・・・」と勢い余って言ったことも、まだ水原を「レンタル彼女」という一線を画して言いたいように言える関係であるがゆえの話。本当の恋人や物理的に好きな相手に対してはまかり間違っても出る言葉ではないからだ。

◇こだわり

話が進むにつれて、和也は「レンタル彼女」の制度を強く意識するようになる。水原の存在意義を、レンタル彼女であるからという防衛線を張っている様に思え る。これは逆の意味で和也自身が強く水原を意識していると言うことであり、それを無意識のうちにまだ麻美に対する純情一途な自分という虚飾をひけらかして いる効果であろう。
仮に水原がおらずとも、麻美との復縁はないと見込むのだが、仮に復縁を果たしたとしても長くは保たない。一度別離したと言うことは代替の利かない大きな欠陥があったと言うことであるが故である。それが何かはまだ明らかにはなっていないのであるが。
レンタル彼女であるから水原とは一線を画す。という思いが強くなるほど麻美に対する遠心力は強くなる。そのこだわりはしがらみとなってくる。自覚するまでの時間の問題と言えるだろう。