彼女、お借りします 宮島礼吏

第14,15話「海と彼女①, ②」 考察記事後編

さて、そう言う中で物語が動き始めるという切っ掛けとなるフェリーからの落水事故。ご都合主義と批判を受けるがラブコメなのだからご都合主義で良い。人物 相関関係がきちんとしていれば良いのである。主人公に都合の良いことばかりでなければラブコメにはならないわけである。
水原千鶴、七海麻美の人物考察はまた後日に上げるとして、この第14、15話はその木ノ下和也、水原千鶴ら二人の欺瞞と先送りのツケが回ってきたと言える だろう。

レンタル彼女の矜恃を超えた失格者~水原千鶴

結論から言えば、水原千鶴千鶴は〝レンタル彼女〟失格である。レンタル彼女どころか、普通のキャバクラやスナックバーの従業員としてもほぼ 仕事が困難な不適合者だと断じざるを得ない。
こう言う仕事は彼女自身が当初に言っていたように公私分別が明確に分けられる人物でなければ大概は務まらないだろう。
和也の祖母が入院している、生きているうちに恋人を会わせてあげたい。それこそ情である。情を入れるのは人間として良いことかも知れないが、仕事遂行中に 情を先んじてしまってはダメなのである。
千鶴は言葉では自分は「レンタル彼女」であると言い聞かせながらも、肝心なところで情を優先させてしまう。
「水曜日に一時間だけレンタルされてあげる」と千鶴は言ったが、特定の人物に対してそう言う約束自体が間違っている。いかに仕事上の矜恃を装おうが、すで にその時点で和也に対して情を優先させていることであり、一度そこに肩入れしてしまえばとりとめが無い。
しかし、単純な疑問点としては、木ノ下和也の指名を受ける前まではそつなくほぼ完璧にこなしてきたレンタル彼女の ホープ・水原千鶴が、和也の指名を受けた途端に件のようにポンコツに陥ってしまうと言う懸隔だ。
この部分については一定の説明というか、謎解きは必要だろう。いかに主人公アドバンテージがあるとはいえ、それまで何の接点もない(・・・・・・・)和也に引き当てられた瞬間に私情に奔ってしまう、と言うのはやはり無理がある。出来ない約束ほど・・・

この物語の和也と千鶴の関係は、官能系作品では古典的な「キスだけ、触れるだけ」と言いながら結局最後までずるずるとしてしまう、みたいな背徳感がある部 分で、レンタル彼女だと言いながらも仮初めが本物になってゆくプロセスなのであろう。しかし、そこには男性視点で行けば千鶴がレンタル彼女という矜恃をか なぐり捨ててでも本気で好きになった男性と添い遂げる道を選ぶか、矜恃を保ちプロフェッショナルとしての仕事の道を選ぶか、と言うことである。
通常のラブコメならば和也と千鶴が本物の恋人関係に昇華して大団円。という形になるのだろうが、それを陳腐だとして評価が下がるようでは立つ瀬がないというものだろう。まあ、ラブコメの宿命と言ってしまえばそれまでかも知れないのだが。

和也を試した〝悪女〟の真意~七海麻美

七海麻美和 也をキープしつづける麻美にとって、和也が水原に傾斜して行くのは想定外の出来事である事を自ら告白している。「え?」と驚く様子がそれである訳で、和也 は結局、自分を選ぶだろうと正直高をくくっていたのである。水原を貶し「そんなことはない」と反論された時から麻美の中で計算が狂っている。大本は彼女が 何故、和也とひと月あまりで別離に至ったのか。というそれの本質であり、童話昔話の如く、逃がした魚の大小を量ったり、奇貨となすには和也をふったことの 代償は予想以上に大きかったと言えるだろう。
プールでずっと待っている。そのこと自体は虚偽ではなかったが、和也の心を掴むにはインパクト不足が否めない。しかし、それまでは本物の恋人関係だと思っ ていた和也と水原の関係が、「レンタル彼女」とそのユーザーである、と言う風に気がつくのはもはや時間の問題だと言えるくらい、言動での既成事実は積み重 なっている。悪女として人心を弄んできた麻美ほどの者が、それに一切気がつかないというのはまずあり得ない。
問題はそう言う真実の関係を知ってなお、麻美が弄んでいた和也に今度こそ本気で惚れて行くのか、お似合いのカップルだと芥視してフェイドアウトして行くか だろう。いずれにしても、物語は(現状)彼女が一方的に和也を遮断したことから始まっているので、その要因が明らかにならない内は確証的なことは何も言え ないのである。

仮初めの関係から、本格的にデレへと入るか

もしもテンプレート通りに和也と水原が結実したとするならば、新婚さんいらっしゃいで文枝師匠の椅子が転げまくりで面白くなるだろうが、やはり二人はそう容易い関係にはならないと考える。千鶴(彼女モード)
まずは先ほども述べたが、レンタル彼女とそのユーザーであると言う関係が表面化すること。祖母への体裁を気にし、またレンタル彼女という職業に矜恃を持っている千鶴が、その事実関係に耐えられるかどうか、と言う点である。
二人は明らかに惹かれているので、わざわざ「レンタル彼女」であること、その利用者である事を互いに強調する。本当に公私分別があるならばそういうことも 意識しなければ感じないはずであるが、落水し助けられたことに対して「助けてもらってゴメン」と変な言い回しになっていることが、逆にそれを意識している 由縁なのであろうという話である。
子供ではないのだから、人工呼吸をキスだと思っているのであればそのまま溺死して結構なのだからそれ自体を強く意識するようでは麻美に負ける。麻美との別れの原因が何処にあるか、本質が明らかになるのはこれからなのだろうから注目するべき点である。
また、「レンタル彼女」というコンセプト上、単純に和也と正式カップルとなって結実すれば物語は終焉を迎えるので、今号の最後にデレてしまった水原がどこで舵を切り、また栓を閉めるかによって、作品の長短が決まる。
まあ、和也と好き合っていても「レンタル彼女」の職を辞められない切羽詰まった理由付けがあれば別だが、目の肥えた目下の読者諸兄からすれば、そんな理由付けのだめ出しを好むというのもまた宿命なのであろうと思われる。