非エロの矜恃を貫きながら、スポーツパートと恋愛進展を巧く融合させた水口流

早乙女選手、ひたかくす 第4集▼早乙女選手、ひたかくす 第4集

評価★★★★★

今集のオビのキャッチフレーズが作品本来の「バッキバキの腹筋女子高生が、ドッキドキの初恋」から、「無口(クール)な部活女子が恋をした。」となっていることに注目。
単行本ベースとして第33話~第44話。スピリッツ本誌連載としては2017年第28号の第34話から41・42合併号のセンターカラーである第45話を収録。話数調整の為にこうなっている。このセンターカラーの構図が、カバー折り返しに使われているので、本誌をチェックしてみるのも良いだろう。
また、目立った描き下ろしは見られなかったが、幕間のワンポイントは八重の弟・啓太の1日のベッドゲーム生活が描かれている。
今集はインターハイが主要舞台で、八重の宿敵・佐津川ミヅキが物語の基軸となっている。第四集に至って本来のコンセプトとも言うべきボクシング魂に力点を置きながら、きちんと主人公・サトルと八重の関係も進歩していて、全体を俯瞰すれば非常にバランスの取れた内容となっている。
因みに今集では「はんなり女」こと若乃真帆の出番はない。八重と秘密の特訓・練習を重ねてきた主人公・サトルの試合もあるので結果は見てのお楽しみ。八重の試合も合わせてスポーツパートとして実にすっきりとしたまとまり方をしていて読みやすい。また、終盤では今集の事実上のヒロイン的存在だった佐津川ミヅキのサービスシーンもあるので、ミヅキファンも必見だろう(ただしエロは一切ない)。
不満な点は前集まではあった加筆修正部分が殆どなく、巻末も本誌他作品等の宣伝に使われている点。
作者・水口氏がこの間に単行本作業等による休載が無かったため、その懸念が現実となったのだろう。
しかし、それを補って余り有る面白さなので、星評価は文句なしの5である。

ラブコメとスポーツ魂の融合、正統派の非エロ展開で大きく化ける

正直、『早乙女選手、ひたかくす』がここまで長い連載(単行本第4集、第5集は確実)に漕ぎ着けるとは思わなかった。と考えている読者もいるのではないか、と思うほどにこの作品の息の長さは特異なものがあると言えよう。
昨今のラブコメというのはエロに奔りがちだが、この漫画はこの第4集時点であざといエロ描写は殆ど見られない。主人公・月島サトルとメインヒロイン・早乙女八重はよく言えば純情、悪く言えば古臭い思考で互いにそう言う性的な言行からは一歩も二歩も退いている。青年誌系なのに極めて異色である。
比較されるのは「猫のお寺の知恩さん」で、同じく純情系ラブコメ。両者共に共通するのは同じ。
しかし、どちらも意外と頑張っている。長期連載も視野に入れたまったり系。早乙女選手~の方がストーリー的には展開が早いのか。その根本的な理由は何か。私は読者のエロ系ラブコメに対する食傷感が根底にあると思っている。エロを描けば売れるという単純な理由で殆ど意味の無いサービスカットを濫発する漫画は、もはや飽きられている様な気がするのである。
しかし、この漫画も全くエロさがないという訳ではない。言い方を変えれば、エロいはずの場面もエロくならない、と言うのが特徴なのである。
今集では前集まで活躍していた若乃真帆や紺野美都が活躍の場を見せず、前集最後になって登場した佐津川ミヅキが事実上のヒロイン的存在として縦横無尽に活躍している。

佐津川ミヅキの存在が、恋愛パートとスポーツパートの両立に寄与

佐津川ミヅキ

水口尚樹氏の巧さはこの作品を語る時にいつも言うように、キャラクタの相関図がしっかりと組まれている、と言うところにある。無駄なキャラクタというのがいないのだ。
今集活躍する、佐津川ミヅキは主人公達が通う高校のライバル校であり、八重の宿敵という位置付けで登場した美少女だ。しかし、新キャラで美少女という設定にも拘わらず、サトルが気になるという陳腐な設定ではなく、前年のインターハイで破った八重に対して強いライバル意識を燃やし、「恋愛に現を抜かす軟弱者」と決めつけて出会い頭に蹴りを見舞わせるというインパクトを持たせて登場した。
その意味は大きく、彼女の存在は物語に新キャラを投入することでマンネリ化を防ぎ、八重に敵愾心を燃やすことでスポーツパートに向けた存在意義を与え、恋愛が人を弱くさせると豪語することでサトルと八重の仲に新たな展開をもたらす呼び水となるなど、まさに一石三鳥とも言うべき存在感を示すことになる。

この漫画の基本舞台は「ボクシングの強い筋肉美少女が、冴えない陰キャラに恋をする――――」というものでそもそもボクシング漫画である。一応、メインヒロイン早乙女八重はボクシング強し、という設定こそ散発的に示してきてはいたが、普通のラブコメというイメージの方が強くあったと言うのも正直なところだろう。
そこで八重に本格的に対峙するスポーツパートの新キャラとして、ミヅキを投入させた。若乃真帆は年上で大学生という事もあり、同年代のライバル投入は自明の理とも言えるものだった。
このミヅキが意外にも活躍する。まさか、膠着状態だったサトルと八重の関係を一歩ながらも前進させる契機となったキャラとしても重要だった。水口氏がそれを想定していたとするならばまさに時宜に適った新キャラである。しかも途中で退場したり知らない間にフェイドアウトしていたりするような昨今の漫画とは違って、八重のライバルという設定付けからも今後も十分なほどに絡ませることが可能になった。
ラブコメ・スポーツ漫画として、両立がどうしても難しいジャンルを、巧く媒介できるキャラクタ作りに成功するのは、水口氏のキャラ設定が良いと言うことだろう。考えてみれば何も奇を衒ったようなこともしておらず、漫画とはこう言うものである。みたいなと言えば少し大仰だが、少なくてもキャラクタを大事にさえしていれば、ストーリーは上手く繋がる、と言うことなのであろう。