五等分の花嫁 人物考察Ⅱ

中野一花

中野 一花

五つ子の〝長女〟として求心を保つも、舞台女優への夢、その心底に滔滔たるも独り苦悩する
 心を視た廉潔の士に、その空笑を看破され能く大切な時を失わず。
  彼への感謝を大いなる秘恋へと昇華させる

五連星の〝α星〟当初は風太郎に対し心を偽るも、その赤心に触れて信頼を寄せる

◆『それでも僕は君が好き』のラスティングヒロイン・サムスンに重なるキャラデザから惹かれたファーストインプレッション

中野一花は「五等分の花嫁」が読切版で掲載されていた時から、私の一推しのキャラクタであると言うことは、当ブログの過去記事でも言及されている。目下、三女の中野三玖がそのキャラクタ性と主人公・上杉風太郎に寄せる密かな想いで断トツに人気が高いとされるのだが、中野一花も本連載に於ける花火大会のイベントから一気に人気を高めている。サムスン(それでも僕は君が好き)
実は私が最初から一花を推していた理由というのは至極単純なもので、別冊少年マガジン(一時、週刊少年マガジンでも)で連載されていた、徐譽庭・絵本奈央両氏の〝それでも僕は君が好き〟という恋愛作品のラスティングヒロインであった「サムスン」にキャラが非常に似ていたから。という事だけである。モチロン、読切版や新連載当初から一花のキャラクタ性が摑める訳はないので、決め手は見た目と言う事になるのは当然の話である。

寧ろ思ったのは、中野一花が十年ほど過ぎた、アーバンチックな姿がサムスンではないだろうか、という見方をしてみれば面白い。サムスンも虚飾を纏って苦しい恋愛に苛まれ続けてきたという設定。五等分の花嫁の本編でやがて紐解かれてゆく五姉妹長女しての責任感と、自身の秘めたる夢の狭間で懊悩し、廉潔の士・上杉風太郎に空笑いと無理な余裕ぶった立振舞をして、自らを「一花お姉さん」などと年長ぶる姿など、実に重なる部分は多いのである。
いや待てよ? と、なるともしも一花がこのまま風太郎と結ばれず、独り身のまま10年経ったとして、上杉風太郎とはまるで正反対の芹澤祐輔みたいな男のものになるってことか。それはまた胸糞だ(苦笑)

◆超然とした振る舞いに垣間見える虚飾

一花の誘い?一花の活躍は連載開始以来暫く見られなかった。と、言うよりも上杉風太郎との出逢いから、中野家来訪にかけて彼女は風太郎に対してお色気っぽいような仕草をしてみせる。胸元を開いて見せたり、部屋では基本裸だからと言いながら、風太郎を誘う素振りで拒否をする。
二乃以下の妹達が少女然とした露骨な拒否反応を風太郎に見せているのに対して、一花は超然とした装いで大人の女性を演じているように感じる。本編でもそうだが、短いカットで描かれる一花の『瞳』は激しく渦を巻き、途轍もない深淵な色を帯びているというのを感じて止まない。第1話は読切版の修正なのだが、読切版の一花のファーストコンタクトでのその短いカットで描かれた風太郎を見る瞳はまさにそうなのである。
最初の一花は、風太郎に対しておそらく二乃程度の不信感、と言うよりも拒絶感はあっただろう。大人の女性を気取ると言う事は、虚飾に満ち、また同時に自分自身を深く偽ると言うことでもある。
自らのキャラクタ作りをどうしようが自由だとは思うのだが、本質は五つ子であり、感情隠さない二乃や天衣無縫な四葉と同じ土俵で、同じレングスなのであるから、一花自身が自ら受ける心の負担というのは相当なものではなかったかと考えてならない。

渺漠たる砂原からダイヤを見つけるが如き芸能界を夢見る

謎の男性に送られてくる

風太郎が最初に出した実力テストでは四葉に次ぐワースト2位の12点を記録。それでも一花は飄飄としている。勉学に勤しむことはあまり意味を成さないことだと思っているのか、単なる能ある鷹は爪を隠す。といった感じなのだろうか。
第5話の最後で彼女は謎の男性の車に送迎されている様子が描かれたが、私はこの場面を見てすぐに芸能関係の活動でもしているのかという見方以外には及ばなかった。風太郎に対するお色気っぷりから援助交際などの違法行為に手を染めているのか、という話も散見されたが、そう言う懸念は全く無かった。物語全体の設定やコンセプト上、そう言う重いテーマを背負わせてしまうと、一息にバランスの崩壊を招く。それ以前に春場氏がせっかく廣瀬氏と袂を分かった意味がなくなる。
閑話休題。
一花は中野五姉妹にとって一番寛恕を標榜すると同時に、芸能界への思いを強くする一人の少女という顔を持っているということが、ババ臭さを持たせなかった点であると考える。
芸能界デビュー(一花は女優を目指しているとされる)という、少女らしい夢が逆にギャップをチャームポイントにして読者の心を惹き付ける契機にしたとも言え、それが無かったら文字通り没個性で五姉妹といえど事実上の上杉風太郎の嫁合戦から早晩、脱落していたはずである。
姉妹もの、特に複数系はこうしたインパクトやギャップがなければいかに作者が舵取りをしても埋没は避けられず、特徴のあるキャラクタに勝てるものではない。それくらい、一花以外の姉妹達はそれぞれ突出した属性を持っていると言えよう。

余計なことしないでこれは漫画の世界だから作者の舵取り次第で天国にも地獄にも描かれるのだが、一花が姉妹に内緒で演劇の修練を積んでいることや、それが結果に結びついて女優としてデビューすることになった。というのはお誂え向きというか、確かにご都合主義な部分である。現実的になれとは言わないが、女優と言ってもピンキリで、主役を張れるのは言わずもがな万人に一人であり、他はエキストラが関の山。
せめて地方劇団の主役級を得られればまた、道は拓かれるのだろうが、一花は送迎してくれたヒゲの男性(芸能事務所の関係者)に見出されて活動を始めたばかりの、生まれたばかりの卵に過ぎない。
と、言う事で浮かんだのが、その最初の一花送迎シーンで何故彼女は芸能活動をしようとしているのか、家族姉妹に内密にする理由があるのか、と言う話である。五姉妹の長姉だから下の妹達を引っ張って行かなければならない使命感。聞こえは良いが、それと芸能界への夢を天秤に掛けるというのも変な話(風太郎のような赤貧ぶりな家庭環境ならば理解できるのだが)。先述したように、ただ可愛く美しいだけでは、トップにはなれない世界だ(一花の夢は女優として大成したい、と言う風に捉えられるから)。作者の神威を振りかざしてとんとん拍子に芸能界デビューで主役を取った、というのは余りにもチープ。
私はそこで実は中野家の富裕はそれこそ虚飾で、内実は倒産間近の社長一家。一花は演劇の華胄界に飛び込み大成して、是が非でも家計を助けたい。と言うような感じなのだろうかと妄想を膨らませてみたが、どうやらそれは妄想で終わったようである(笑)
しかしそれだとしても、一花が一瞬『暗黒』の部分を覗かせてまで風太郎を威圧するような様子にただならぬ歴史を感じさせるというのは、今以てなお払拭できない部分であるのは事実だ。

廉潔の士、作笑を看破し一花の心を捉える

作笑の一花芸能界を夢みる長女は、姉妹との日々も演劇の鍛錬と見ていたのか、風太郎にその笑顔が作笑、空笑いであると指摘されてしまう。役者たる者は与えられた役に入り込み、自分自身で最高の演技をするように作り上げて行くものなのだろうが、風太郎は一花が成りきれていない事を見破った。
そして、自らの本心・本音を語り、また阿諛追従も一切言わない廉潔の直言を以て一花の虚飾を取り払った風太郎は、一花の心の枷を外したのである。
一花にとって、心底で邪魔とも言えた風太郎の存在が、一息に大切な存在へと化学変化する一大イベントとなったのは確実だろう。芸能人としての夢を追うことを後押ししながら、正直にぶつかってくる風太郎に、一花の心の壁は壊れていった。
しかし、一花は三玖が風太郎に淡い想いを寄せていることに気がついているので、自らの思いを恋だと認めることを、長姉の矜恃で否定している可能性が有り、それがもう一山の波瀾があるとすれば面白い。

上杉風太郎と結ばれるための展開はどうするか

第1話の結婚式での風太郎の回想から始まる物語だが、花嫁は五姉妹の誰か。という明確な表現はされておらず、有力な候補は数人いるのだが、一花と風太郎が結ばれるとするならば、どう言う展開やシチュエーションが望ましいか、と考えるのもまた面白いと言うものだ。一花の膝枕
一花は件の通り、基本妹たち想いで自分の優先度は低めに設定している。三玖が風太郎に想いを寄せている事を空気で感じ、冒頭の風太郎とのファーストコンタクトで五月が気になっているのだろうと鎌をかけるなど、一花自身が出遅れの感と、肝心な部分で身を退きそうな性格が一花帰結の難所と言える。

まずは三玖を支援しながらも、一花自身が風太郎に対する恋心を自覚して行く必要がある。夢を叶えるためには、風太郎がいなければダメ。みたいな展開があれば良いのだが、なかなか難しいだろう。彼女自身、自分は難攻不落と言っているので、もしも一花帰結に舵を切ったとするならば、当初から彼女推しだった私としては、我が意を得たりなのだがね(笑)
風太郎は一花の芸能活動が無事卒業の足かせとなってはいないかという懸念があるので、特に一花に重点を置いて卒業まで漕ぎ着けるという課程の内に、風太郎自身も一花に心を寄せている、という感じになるのが良いのかも知れない。
または三玖が一花の想いに気がついて軽い争奪論争を巻き起こし、三玖自身が身を退く。風太郎もやっと自分の気持ちに気がつく。まあ、色々シチュエーションはありそうだ。

五姉妹結束の先達とも言うべき一花が、恋愛に関してはそれすら捨てて構わない、と言うような情熱家だったならば、更に魅力が増すような気がする。至難の結末だからこそ、面白くなりそうである。