五等分の花嫁 人物考察Ⅲ

中野二乃

中野 二乃

異分子・上杉風太郎の排斥を計り続けた、五姉妹随一の姉妹想い
 姉妹の絆、瓦解の危機を救った風太郎に少しずつ心を開いて行く裏に、恋することへの恐怖有りや

五連星の〝β星〟廉潔の士を激しく排撃するも、その行動理念を悟られ軟化せしめる


◆強い敵愾心、読者人気の大いなる出遅れを喫する。行き過ぎたるツンデレキャラも朝比奈涼風に及ばず

春場氏と五等分の花嫁の公式Twitterで実施された、カラー獲得人気リツイート順位で五月とのワーストを争った二乃は、典型的なツンデレ系なのだが、この投票が行われた時点ではその〝デレ〟の部分が殆ど皆無だったので、「女の子は優しくあり。男性にとって萌えるシチュエーションがあってしかるべき」な読者達の評判は余り芳しくはなかった様である。二乃の先制パンチ
まあ、しかし一応はタイトルの通り五等分の花嫁と言う事で、そんな二乃にも後に花嫁になる可能性もあると言うことを考えれば、今の時点で主人公・上杉風太郎に塩対応どころか、シベリアの厳冬かくやとばかりの露骨に冷たく苛烈に当たる部分だけで嫌ってしまうと言うのも勿体ない話ではある。いずれは必ず風太郎に惚れてゾッコン(古代語)になるのだからね。

まあ、ツンデレと言えば釘宮理恵君の演じるキャラクタ。しかし、釘宮君のキャラクタ達よりもずっと前に知る人ぞ知る「田中美沙」が太祖だが(知らない人はググろう)、田中美沙はツン的には二乃に今一歩及ばない。二乃に唯一勝つツンを長い間貫いたキャラクタは誰かと言うと、瀬尾公治氏の名作「涼風」のタイトルコンセプト・メインヒロインである朝比奈涼風である。ツンデレ中興の祖と言っても過言ではない彼女などは、二乃とは比較にならないほど主人公に精神物理両面で辛辣対応を続けてきた。それでも人気は凋落せず、現在の連載「風夏」に至る。そんな田中美沙や朝比奈涼風と較べれば、二乃など全く可愛いもので、二乃を現状の行動だけで嫌う面々がいるとするならば、実に愚かしく、目先だけしか見えないのかなと思うのだ。

◆痛烈な先制攻撃~読者の反感を買った、風太郎を嵌めた顔合わせの策謀

とは言うものの、実際問題としてそう言うラブコメというジャンルを判っていればこその話というのも理がある訳で、上杉風太郎の立場に置き換えてみれば、怒りだけでは収まらない行動が二乃にはある。強制送還
五姉妹と風太郎の初顔合せで、二乃は策を巡らせ風太郎に眠剤入りの飲み物を飲ませて、タクシーで上杉家に強制送還させているのだが、運賃先払いをせずにしてしまったことは流石の私も擁護に値しない。タクシーというのは金銭的余裕のある富裕層が使う交通手段であって、風太郎と生活感が共感できる私からすれば、これはある意味犯罪とも言える行為である。運賃4800円は極めてリアルな数字で富裕層がワンコイン的な感覚で使える5000円札と、末端庶民の5000円の価値観のズレは、大いに中野二乃の評判を落とす最大の要素となったことは否定できない。

焼肉定食を焼肉抜きで注文するほど、上杉風太郎の赤貧ぶりを見ていた二乃からすれば、これは未必の故意であって、確信犯であろう。それに、風太郎に家庭教師を依頼したのは中野家の当主である二乃らの父親なのであるから、風太郎を追い返す為にこうした嫌がらせをやったとしても詮ない話である。
後に風太郎は二乃の弛まなき排斥行動を「姉妹を何よりも一番大切に思っているという証左」と弁護しているのだが、やって良いことと悪いことのボーダーラインは認識して然る可きだった。

◆売られた喧嘩は買わねばならぬ。成算なき挑戦を巧みに風太郎に利用される

料理対決まあ、そう言う二乃だからある意味単純という見方も出来るのだが、それでも読者側からする二乃のハンディキャップは相当なものである。風太郎に対して敵意むき出しなので彼に対してはまだ素直ではないが、姉妹関係を見るに根は素直なようである。
三玖を籠絡することに成功した風太郎によって三玖が風太郎に傾斜して行くようになると、二乃も自然力学的に風太郎との接触が多くなって行く。目的そのものは姉妹達から風太郎を遠ざけると言うことなのだが、結果的には向心力が働く結果となっている。料理の腕対決など、本来心から風太郎が嫌いだというのならば、そういう事をする、考える余地はないというものだろうが、いかに姉妹ベースで思考しているとはいえ、風太郎の挑発や提案を受けて行動するところに、心底では風太郎を嫌っていない、と言うのが判る。そう言う部分に、二乃推しの面々は惹かれている基本と言えるのではないだろうか。

特に三玖との料理対決で、風太郎はグルメ美食家とは正反対の赤貧による悪食に慣れた舌をもって審査してしまい、二人の明らかな勝敗も本心から両方「美味い」と裁定してしまうのだが、風太郎はここでも二乃から受けた排除行動を根に持つことは一切なく、料理を褒め、三玖に対しても褒めている。二乃にとっては、勝敗よりも先にある姉妹の絆を大切に思う心を考えた裁定であったとも言えるので、風太郎への敵愾心を大いに弱める名場面であったと言えるだろう。

◆風太郎の垣間見せる〝男らしさ〟に甘えたい強がりっ子

風太郎の男らしさ

別の見方として二乃は非常に強い甘えん坊で、それ故に風太郎に辛く当たってしまう。と言うのもある。小さな子供が、親に駄駄を捏ねる。と言ったらやや語弊があるかも知れないが、二乃は総じてそんな傾向と言えるだろう。
花火大会のストーリーは二乃の更なる敵愾心低下に繋がった訳だが、同時に彼女にとって風太郎の存在は父のようでもあり、また兄のような感じに映っているという効果がもたらされているのが特徴だ。
つまり、二乃は姉妹を一番想いながらも、自分自身はワガママや駄々をこねられる相手、父親か兄の存在を欲している様な気がする(まあ、二乃に父親は存在するので、兄としてみていると言った方が良い)。風太郎はどんなに二乃が迷惑をかけても、「しょうがないなあ」と苦笑しながら赦し、優しく男らしく自分を守ってくれる存在だと思うようになったのではないだろうか。やや性急すぎとも言えるかも知れないが。
五姉妹中、妹属性として彼女を捉えた場合、一番現実の「妹」に近い存在である。それ故にリアリティがあるゆえに人気も芳しくなかった。と愚考しよう。

上杉風太郎と結ばれるための展開はどうするか

お!つ!か!れ!風太郎の花嫁相手が二乃であったとする場合、どう言う紆余曲折があるのだろうと考えると、二乃は非常に難しい。
まず、二乃の性格から見て、彼女から風太郎に愛の告白をすると言うことはまずないと思う。どんなに二乃の好感度がマックスになったとしても、他の姉妹を大事に思う彼女が、抜け駆けして風太郎に告白して独占を図る、という行動はないだろう。
と、なると風太郎の行動如何に掛かっている訳だが、風太郎もまた恋愛に無頓着な廉潔の士であるから、第1話のラストに描かれた結婚式花婿の体に至るには、さもネパールからエベレストを越えてタクラマカン砂漠に抜けるくらいの急峻な経緯を踏んでいるはずで、その伴侶としてある意味生死を共にするのが二乃というにはやや不安がある。
風太郎は男らしさがあって引っ張って行くタイプではあるのだが、それ故に二乃を手の焼ける妹のような感覚で見ているという可能性は高く、そこから恋愛を経て結婚に至るストーリーは、単行本15冊分のイベント事件を巻き起こし、ひとつひとつ二乃の心を摑んで行く描写が必要である。
また、他姉妹や二乃がお気に入りの上杉らいはの媒介という可能性も問われるが、風太郎や二乃の性格を合わせると結局、擦れ違い続きでまた衝突を重ねてしまうと言うのが関の山だろう。

二人はある意味似たものであるがゆえに、距離も一番近いがゆえに一番遠い。今後の展開で春場氏が二乃を花嫁として決定づけた際に、説得力のある経過を示すことが出来れば超一流のラブコメ漫画家となり得るのだ。