行動はドS、その内実は柔弱な主人公の本質を見抜き、心惹かれた純真可憐なラブコメディ


イジらないで、長瀞さん

▼イジらないで、長瀞さん 第1巻

評価★★★★★

マンガボックスにおいて新連載攻勢の一角として台頭した作品。作者のナナシ氏は某大手掲示板サイト関係で勇名を馳せたことがあるという事だ。
ストーリーとしては、内向的で激しい人見知りな〝ヘタレ〟である美術部長「センパイ」が、ギャル集団の前にぶちまけてしまった趣味の漫画原稿を見られ揶揄され、その中でヒロインとなる長瀞の心を掴み、様々いじられてゆくという、ヒロイン上位のコンセプトのコメディ。
ラブコメディ、というにはまだ一歩不足しているが、ヒロイン・長瀞が明瞭に主人公と他モブキャラ男子生徒との対応の違いを示しているので、ラブコメという見方をして間違いは無いだろう。
オビアオリにあるように、Sのヒロインながら、ヘタレの主人公に対し心を寄せて行く、決して手を出さないと判っていながらお色気混じりで迫って行く様子は、読んでいて鬱積止むことのない部分もあるが、ストーリー的には実に斬新で、遺賢の有能な漫画家がその実力を発揮出来るWEB漫画の象徴的存在として位置されていると言える。
主人公は名前がまだなく「センパイ」、ヒロインも「長瀞」というだけでキャラクタ設定も小出しという近年よく見かける手法に準拠している。
主人公をいじめているようにも見られるため、不快に感じる部分もあるかと思うのだが、よく読むとヒロイン長瀞の「好意」が成せる技である事が男性読者の嗜虐的思考を能く捉えている。名作の卵と言えるだろう。

主人公の立位置

このマンガの主人公「センパイ」は恋愛的な意味で『幸運の徒』と呼ぶに等しい。しかし、私はどうもこの手の手合いが苦手なようである。
自分の世界観に入り、漫画を描いてきた主人公。この作品では漫画だが、私からすれば創作小説と取ってみても良い。それがふとしたアクシデントで現代風の無知無能なギャル達の前に散蒔かれてしまい、それを手に取った連中に嘲笑されてしまうのである。
「お前達のような奴にはわかるまい」と言えるのならば素晴らしい。しかし、実績が全ての現代社会。何かしらの「形」がなければ人はおこぼれを求めて寄ってこないというのも、正直事実なのである。

それを考えれば、この物語のヒロイン・長瀞は、主人公がぶちまけてしまった趣味のラフ原稿を見て一気に心を惹かれていった。第1巻中盤で見せた、音楽をやっているという男子生徒との対応の落差がそれを物語っている。
長瀞は今どきのギャル風情としているが、主人公のような全てがヘタレでも、好きなことに関しては一所懸命な姿勢ひとつが自らの嗜虐心と恋心を併せた部分を直撃した理想の男性であると言えるのかも知れない。

まあ、それを思うのならば、そんな長瀞や主人公のようなキャラクタも、現実世界にはそうそういないという意味で非現実的なのであるわけだが、長瀞のロックオンした時の瞳が何ともたまらない。
今の私のような精神状態に少し難があるような人間にしてみればストレスなのかも知れないが、こんな女でもイジってくれれば嬉しいと思うほど、世の中の非リア充の心の変化は推し量りがたいものがある。

新連載時から、個人的には面白く単行本も紙媒体で買ってみた。どの位続くのか、2ch(現・5ch)から名声を高めたとされるナナシ氏の手腕に大いに期待を寄せたい。