栗儕に水原千鶴を、ルカの同業と明かした和也、しかし虚言癖の言い訳で大いに読者のシンパシーを失う

彼女、お借りします だい5巻

▼彼女、お借りします 第5巻
宮島礼吏氏 / 評価★★★★

第33話から第41話。今回も更科瑠夏が事実上のヒロインの座に推し留まり、終盤に新キャラである「桜沢墨」の登場紹介で締める。
〝負けヒロイン〟であるがゆえの強みが遺憾なく発揮された第5巻。とにもかくにもメインヒロインである、水原千鶴以上に、俯瞰してみれば更科瑠夏の心を占める割合は大きくなっているのが特徴。「レンタル彼女」という風俗稼業を別にして、主人公・木ノ下和也をどう思っているのか、と迫る場面は、男性読者にとって一度は女の子にそう思われたい「修羅場」として自然に描かれている。
しかし、肝心の主人公・和也がいけない。自分を心から恋い慕うルカに対して猜疑心を隠せず、「虚言癖」がある娘だと言ってしまう。これは流石に擁護の余地がややない。
和也は水原千鶴、千鶴もまたレンタル彼女という職業を錦旗に掲げているが、内面は和也に惹かれているのは自明の理で、ラブコメ特有の、何人傷つければ、己が本心に気がつくのか。という部分に至りつつある。
しかし、忘れてはならないのは、この作品のコンセプトは、「レンタル彼女」である。宮島流が単純に和也と千鶴を詮なき紆余曲折で結びつけて大団円では済まない。そう言う意味で、新キャラの桜沢墨まで登場させてきた。宮島氏の恋愛観が問われる一冊である事は間違いが無い。


更科瑠夏、水原千鶴の幇間としての役割を大いに果たす

ルカは可愛い。見た目女子高校生(公称・18歳オーバー)。これでもかと言うほどの思いを和也にぶつけて和也の本命・水原千鶴を圧倒する。
しかし、ルカが和也を好きという根拠は、ドキドキ指数の90オーバーのみで、和也の善悪の部分、受け入れる、また受け入れがたい部分まで全て知り尽くしているのかどうかは言及されていない。いかに想いが強いとは言え、水原千鶴に一歩及ばないのは自明の理、と言えるだろう。

「和也君が好き」 中高生の恋愛だけならば、それで通るだろう。しかし、ドキドキ指数90オーバーの対象者が和也というのは現状に過ぎず、非常に脆弱である事は彼女自身も理解しているのだろうか。それならば、まるで言う事はないのだが。
器械が示す指数値は根拠としては非常に物足りない。

栗駿への事実告白。水原千鶴もまた、レンタル彼女であった。和也なりのけじめというか、本質を知らしめる行動であったとは思うが、栗駿が、それについてどう思っているのかは言及に至っていない。
それにしても、ルカの猛攻に対して「虚言癖がある」というのは言い過ぎである。最低と言われても仕方があるまい。根拠が薄い篤い好意なのはわかるが、忌避するのならば、もっと別の言い方というものがあるというものだ。勢い任せとはいえ、身体の関係まで夢みたルカに、男としてフォローをしなければならない筈だ。
よもや、水原千鶴が、心から木ノ下和也を恋い慕う相手として見てしまっていることが判ってしまえば、立つ瀬が無くなる。和也の地位はますます落ちて行く事になるだろう。

新キャラ・桜沢墨。今の和也達の相関関係に快刀乱麻を来す存在ならば面白いのだが、実際はどうなのだろうか。単なる賑やかし程度の存在なのか、再び和也に惚れて行くキャラクタの一人としてレース線上に上がるのか。しかし、それでは根底から「レンタル彼女」というコンセプトを失う。桜沢墨は、純粋にレンタル彼女としての成長キャラとしてあって欲しいような気がするのである。

莫逆の友・栗原駿

今巻で株を上げたのは、図らずも和也の親友である栗原駿だっただろう。更科瑠夏をレンタル彼女として紹介し、それが露呈して和也と水原千鶴の気遣いを受けて和也との絆を大いに深め、共有したこと。何よりも、千鶴やルカをレンタル彼女であると割り切っているところが、好感と共鳴を憶える部分ではないだろうか。
この作品の特徴は、和也が少し軽佻浮薄なのに対し、知己取り巻きがしっかりとした考え方を持っているという点。持つべきものは共であると言うことを如実に示している。