圧倒的な効果線効果による、押見流狂気の世界

血の轍 第5集

▼血の轍 第5集
押見 修造著 / 評価★★★★★

第34話~第41話。今集のメインヒロイン格は、吹石由衣子。静子の元から飛び出した静一を、由衣子は匿おうとする。
静一のことを恋以上の愛で想っている由衣子は静一の抱える心の闇ごと包み込もうとする。その優しさ温かさは、静一にとっては今まで感じたこともないほど、恍惚としたものであった。
そして、初めて入る同級生の女の子の部屋、風呂上がりの由衣子の部屋着。一緒に聴く音楽。そして……夜も更け、由衣子は静一に一緒に寝ようと誘う。
一方で、静一を不眠で探し続けてきた静子が吹石家を訪れ、慄然とする言葉を叫ぶ。それを聞いた静一は……?

押見流の効果線効果、情景描写。盪けるような由衣子の若い誘惑。全てがリアリティに近く、由衣子も天使然としながらも静一に依存する狂気ささえ感じさせる。純粋潑剌とした由衣子が一瞬、魔性に見える程に静一を誘惑する場面は必見だ。
広義的に見れば由衣子も狂気、静子もまた何十倍の狂気。惡の華の後継・仲村佐和のバージョンアップが由衣子。佐伯奈々子のバージョンアップが長部静子ママ。
押見氏は我々読者をいったいどこに導かんとするのか、益々目が離せない。


吹石由衣子、純粋溌溂な白・仲村佐和の美少女が妖艶に今春日高男こと長部静一を大いに誘惑する

恋の狂気とはこう言う物なのか。想いを寄せていた静一が、由衣子の元に奔る。まだ中学生の幼い逃亡劇。
しかして、由衣子の想いは静一に依存する毒親・静子をも震撼させるに十二分だったのだ。と、言うよりもまず読まれたし。面白い。「惡の華」にハマった者ならば尚更ではあるまいか。由衣子がどうしても仲村佐和に見えてならないというのならば立派な押見世界に魅せられた読者であろう。静子ママが佐伯奈々子。上等、である。

由衣子がとにかく可愛くてエロい。そんな単純な思いで読んで良いのである。静子が何故、静一に固執するのか、心の闇の真相はまだ見えないから、そんなことは今は考えなくても良い。由衣子が無事に静一を手に入れられるかどうかの第一段階なのだから。
しかし、押見修造氏というのはまさに奇才。ベッドで交わした由衣子との初キスで溶解する効果を描いた。それは実は……。という事なのだが、こう言う描写は実に生々しくて、確かに「惡の華」のその先へと謳った文言に偽りは無い。実に素晴らしい。
静一の「心」を手に入れられたと思った由衣子だったが、親に2人の密会を見つけられ、短い限界の駆け落ちを図る場面は惹き込まれる。毀誉褒貶の枠を超えた息を呑む押見流効果の真骨頂なのだ。

白・仲村佐和が果たして今度こそ、春日と添い遂げることが出来るのか。春日こと長部静一が、母親・静子の深愛という毒沼に埋もれて行くのか。読み進めるのは怖い。でも、読まずにはいられない。結局、私も押見ワールドに魅せられた読者の1人という事なのだろう。