カッコウの許嫁 人物考察③

非常な悪筆にして学年常勝たる文武両道の女傑。凪に間隙を抜かれ1位を獲られ敵愾心に牙を向く主人公の想い人

瀬川 ひろ(カッコウの許嫁)

瀬川 ひろ

目黒川学園高校2年A組8番。あらゆる試験で学年1位の常勝女傑。文武兼備で人望があり天然系の学年(学園?)の文字通りヒロイン。学年2位に甘んじてきている海野凪が初期設定で思いを寄せている娘。彼女に実力テストで勝ってから告白するという目標があった。
第1話での初登場来、第4話で本格的始動を迎える。
非常に悪筆で「挑戦状」を凪のロッカーに忍ばせるも、その字体から「悪戯・嫌がらせ」の類いと勘違いした凪にゴミ箱に捨てられてしまうほどであった(後に拾う)。法事を理由に実力テストを受けなかったと言う理由から、学年一位を凪に獲られ、屋上で学年テストやスポーツ競技・食事など、全ての分野をごっちゃ混ぜに海野凪には絶対に負けないと、敵意剥き出しに一方的にまくし立て宣言すると、凪の告白の島も与えずに颯爽と去って行った。


〝猫を被る〟常勝女傑。凪の想い何処吹く風、一方的に敵対宣告して颯然と踵を返す

中国魏晋南北朝時代の五胡十六国・後趙(319~350)の高祖石勒(274~333)、同・南朝劉宋の武帝・劉裕(356~422)はいずれも文盲に近く悪筆だったと伝えられる。いずれも奴隷賤民階級から登極した本邦の豊臣秀吉以上の苛烈な環境下からまさに陞龍したので一概に比較できないのだが、当該の主人公の想い人・瀬川ひろは、その悪筆の理由を「頭の中で考える速さと文字を書くのが追いつかない」などと、「私、アルベルト・アインシュタインやトーマス・アルヴァ・エジソンまでは及ばないけど……」と遠回しにさらりと宣言しているようで、悪筆は天に選ばれた逸材の証とばかりに指摘した凪をさり気なく牽制。
常軌を逸するほどの負けず嫌いな気性の激しい本性を凪に剥き出し、鋭牙を見せつけて威嚇。学業ならばいざ知らず日直・掃除・食事の速さとくれば、お風呂や着替えの速さも是非二人きりで勝負を……と妄想はラブコメらしい領域に到る。
第1話で凪とぶつかった際に「誰でしたっけ?」などと白を切る事から、彼女にとって海野凪の存在は常に自身の地位を脅かす存在であったことは紛れもない。
竜頭蛇尾で巧く締めたかのようにして実質崩壊した〝五等分の花嫁〟という作品を引き合いに出せば、瀬川ひろはその主人公・上杉風太郎を負けず嫌いにし、武田祐輔を海野凪にしたような存在だが、どうも瀬川ひろは出だしが読者の心象を掴むにまだ及んでいないような気がするのである。

チートな天才が敗北を重ねて行くと

文武において常勝無敗。才色兼備の学園のヒロインという位置づけに、天然という猫を被って颯爽と第1話からカッコウの許嫁三ヒロインの一人として登場した瀬川ひろだが、その実力は人並み外れた知性と才覚を天性のものとして備わっているのか、凪のように寝る間も惜しんで天野家という特異な筋肉体質の家庭にあって努力し身につけていったのかは現行、第4話の時点では不明で、彼女の為人、家庭事情もまだ分からないままで全てを語るというのは痴がましいものではある。
しかし、第4話までの主人公・海野凪の思い人とあって、色眼鏡的な見方がウェイトを占めているのだが、一言で言ってしまえばチートな女なのである。そして、蒲魚なのだ。そんなことを言うと瀬川ひろは性格が悪い悪女じゃないか! と言われてしまいそうだが、それは早合点。今まで猫を被った蒲魚の為人は自身がチートな存在で、誰も自信の影すら踏む存在は無いと確信していたが故の余裕に過ぎない。
第4話の実力テストも「法事がなければ受けていたし、海野君には勝っていた」と嘯くが、法事があると判っていたというのなら事前か事後に予め受験することだって可能だろうし、仮に海野凪でなくても、誰かが一位を獲っていたはずである。法事で未受験というのは単なる言い訳に過ぎず、実質不戦敗なのだ。だから、一位にランクアップした海野凪に対し過激な敵愾心を剥き出しにして一方的なライバル宣言。凪の計画だった「一位を獲ったら告白」の島も与えず去って行った。
まあ、凪からしてみれば不戦勝で一位を獲ったから告白する。というのもフェアじゃない。一方的にまくし立てて去って行った瀬川ひろにある意味助けられた、と言っても過言ではない。
仮にあの場で

海野凪「一位を獲ったら決めていたんだ。瀬川さん、ずっと貴女が好きでした。俺とつき合って下さい」

と告白したとしよう。一瞬、ぽかんと素の表情に戻った瀬川ひろ。頬を赤らめるどころか、更に敵意を剥き出し、般若の様相で

瀬川ひろ「何の冗談? 一位って、さっき言ったでしょ? 私が法事で受けられなかったからあなたが一位になっただけ! それに私、あなたのことなんか、ライバルとしか思ってないから!」

と、まあこんな感じで逆効果だったことは間違いがないだろう。
しかし、そんなチートな人間はひょんな事から一度蹉跌を経験してしまうと、ガラガラと音を立てて崩れてゆくように不振に陥る。スランプというものだ。彼女が喧然と今後全方位の予告勝利宣言をし、凪をさらに陶然とさせてしまったが、これが思わぬ大きな落とし穴になる可能性も否定できない。
勉強はともかく、飯食う速さまで競争だって、幼稚園児じゃあるまいし、相当我を見失っている感も否定できず、凪は粛然とそれを受け流してみる必要性もあるだろう。

瀬川ひろが凪を意識して意識して仕方がない~ヤンデレ化?

彼女の本性を見てしまった凪。それを公言したとしても元々狷介孤高で『ぼっち・コミュ障』と定義されている彼の言葉を信じるモブは誰もいないだろうが、粛然とする凪の姿に、彼女はどうしても気になって仕方がない、という流れも想像がつく。彼女にとっての勝負ふっかけが、連戦連敗となる様なことがあるのかないのかは今後の流れ次第で判らないが、第4話末で、オルフェウス女学院校長室に流出した凪と天野エリカの密接写真の展開で、エリカが目黒川学園高校への転入を余儀なくされる(天野ホテル王の謀略等)などの展開になれば、否応なく学年第一の美少女の座も天野エリカに奪われかねないとなって益々、瀬川ひろの不動の地位に亀裂が生じることになるわけである。(特進校の目黒川学園高校への編入ともなれば学力が十人並みのエリカが入れるかどうかは判らないが)

いずれにせよ、彼女は言い訳を重ねたとしても経歴に黒点がついたわけで、これを機に海野凪を意識せざるを得ないことは間違いが無い。良くも悪くも凪の一挙手一投足が気に掛かるようになり、なりふり構わず凪の成長を止めようとするかも知れない。また、執着が高じてヤンデレ化してしまう可能性も否定できないのである。
初期設定で主人公が指向している片想いヒロインと成就するというのは稀少。間違いではないが、この作品の場合は天野エリカがタイトルコンセプト上のメインヒロインとして位置づけられているので、瀬川ひろが次点に甘んじる確率は、6:4と言ったところであろうか。