クールビューティと画力に長けた童貞オタクの急接近に救われる心地がした一冊

やんちゃギャルの安城さん 第5巻

▼やんちゃギャルの安城さん 第5巻

加藤 雄一氏・著
評価★★★★★

アンナが抱える悩み、もどかしさを知り、払拭しようと乾坤一擲、2人きりのデートに誘い、本音を伝え、プレゼントまでした主人公・瀬戸。「友達以上、恋人未満」という関係に押し上げられた瀬戸は、アンナの心に立つ不安のプロテクトを自ら外した事が切っ掛けで、更に恋人並みの濃厚接触攻撃に晒されることになる。今巻はそんな事実上の「恋人同士」となった瀬安CPを一段上に置いて、サポーティングアシスタンスキャラ・アンナの親友・豊田と、瀬戸の親友・犬山のもどかしくも、互いに必要とされる存在に昇華される過程を描いているのが非常に素晴らしい。
舞台は一年において恋人達の最後の祭典のクリスマス。この主人公にエロく絡んでくるアンナのキャラ以上に、物語は暖かく優しく包み込むような展開を迎える。保健室の小牧先生と、瀬戸との馴れ初めなどをワンポイントに、それでも今巻は豊田と犬山の「美女と野獣」が互いにかけがえのない存在になってゆく様にぐっとくる。
そして、現代文明のトップを突き抜けるSNSは、媒体の電池切れと共にアナログの世界に切り替わる。今巻最後の瀬戸・アンナの話は、アナログならではの胸キュン。必読である。

今巻主役は、チート級画力のトヨニスト・犬山と豊胸クールビューティ豊田の進展

瀬戸とアンナの関係? もう言わずもがな。まだ語ろうとするのか!? という読者の声を汲み上げたのかどうかは知らないが、加藤雄一氏は、作中「瀬安」関係よりももどかしさを残していた、犬山×豊田(犬トヨ)にスポットを当てることになる。
健康的な男子高校生・犬山。女子に対する性的関心の高さは健康的な思春期男子として妥当。だが、アンナフレンズの豊田(トヨ)との出逢いと接点が、彼を豊田一点のトヨニストへと変えてゆく。クールビューティ・巨乳という外見的な好奇心を超越して、豊田の本心、本当の姿を知るにつけ、犬山は性的関心から、一人の恋する少年へと変化し、豊田のために何が出来るか、真剣に考えるようになる。そして、自分の唯一の天稟・画力を介して、豊田がぽつりと漏らした将来の「独自ブランド」の夢を徐々にペアリングさせてゆく様子が、実に微笑ましく、また主人公・瀬戸とヒロイン・アンナとは別の視点で応援したくなる構図になっている。「ガンバレ犬山! トヨ、彼の思いは純粋ぞかし」と、私は読みながらそう思っていた。

瀬戸はアンナのエロいスキンシップに途惑い続ける日々。それに対して、犬山と豊田の関係は「惚れた方が負け」の関係である。「かぐや様は告らせたい」と対極にある関係。豊田は自らの夢のために、犬山を必要とし、犬山もまた、豊田の心を摑むために彼女の夢を支えんと奮迅する。将来、二人が結婚したならば、絶対に豊田の立ち上げたブランドは世間に認知されてゆくだろう。安直な感想だが、王道は何故面白いのか、改めて感じさせる話なのである。

瀬戸とアンナ、事実上の恋人関係~純潔不器用な二人の比翼連理

第4巻末のアンナの苦悩を見事に晴らした主人公・瀬戸。ハグをし、「もう離さない」と宣言したアンナ。明確な告白はないが事実上の恋人関係になった瀬戸とアンナ。肉体的な接触のない、プラトニックな恋人関係と断じて良い。互いに「あなたが、好きです」「あなたを、愛しています」という想いがまだアイドリング中の関係だ。
今巻終盤、クリスマスという恋人同士にとって神事とも言うべき日に、ひょんとしたことから瀬戸とアンナは離れてしまう。
その時に、私は脳裏にカズンの「冬のファンタジー」という曲が流れた。まさに名曲・名場面である。
加藤雄一氏の粋な構成は、瀬戸のスマートフォンの電池を切らせ、瀬戸の周辺を90年代のアナログ時代に変えたことにある。SNSが一息に繋がらなくなる瞬間。その時、今の若者達はどういう行動に出るのだろう? と考えた。

スマホが断たれ、アナログの世界に置かれた瀬戸は改めてアンナの存在の大きさを知る。そんな想い溢れる彼の前に、奇蹟が起こる。クリスマスの奇蹟。と言えば大げさだろう。だが、SNSの繋がりだけでは決して感じることの出来ないアナログの大切さを、加藤雄一氏は、当巻第65話で示してくれたと言える。
そう、如何にデジタル技術が発達しようとも、如何に時代が5G、6G、7G……と進化していったとしても、人間は所詮、アナログな存在なのである。心から想う人が傍にいること。それが何よりもかけがえのないもの。

「やんちゃギャルの安城さん」は、トレンドを取りながら、人はアナログな存在で恋をしていることを伝えているのである。実に、胸キュンで、面白い。