メインヒロイン左旋帯・瀬川ひろ、満を持して嫌われ役に立ち向かう

カッコウの許嫁 第2巻

▼カッコウの許嫁 第2巻

評価★★★★★ / 吉河 美希

第7羽(話)~っ第15羽を収録。カバー絵の通りに、メインヒロイン左旋帯の瀬川ひろが今巻の実質的ヒロインに位置づけられた。
幸が天海亭に来訪し、凪の斡旋による姉妹初会談+融和。片や凪は思い人・瀬川ひろへの想いが無残に玉砕されたと思い込み、意気消沈。エリカに発破をかけられ渋々登校した凪が待っていたのは……?
天然で超負けず嫌いの美少女・瀬川ひろ。彼女の実像に迫りながら、彼女もまた、抱えきれない運命を背負っていることを知ることとなる凪。果たして、ひろの想いに応えることが出来るのか。そんな苦悩の中で、天真爛漫なエリカが無邪気に絡んでくる。
無意識にエリカに惹かれてゆく凪。運命の赤い糸は、ゴルディアスの結び目のごとく、複雑に絡んでゆく。


瀬川ひろは、何故忌諱され続けているのか

ネット上の大手掲示板サイトでは瀬川ひろの不人気ぶりは尋常ならざるものがある。確かに、初登場であからさまに凪を知っていて惚けて見せたり、尋常ならざる負けず嫌い。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、とその容姿まで叩く。第2巻ではその瀬川ひろがメインヒロインの立ち位置にあって進んでゆくわけだが、確かに彼女の言動は異様なほど凪に敵愾心を滾らせている部分が多い。可愛げがない、すべてが刺立っている、あからさまなぶりっ子。母子ともに性格が悪い。
なまじ成績学年一位というハイスペックがひろを悪い意味で泰然自若とさせ、読者層の囂囂たる非難も耳に届かず、と言ったところなのかも知れない。

しかし、それでも彼女をフェイドアウトさせて仮にメインヒロイン左旋帯に妹の海野幸を宛がったとしても、それは逆に物足りなさを感じて、この作品の奥行きというか、コクがなくなってしまいかねない。ひろは確かに嫌われキャラなのかも知れないが、全体の構成・相関図を考えてみれば、必要不可欠な存在であるのは間違いがない。
ひろは良くも悪くも〝カッコウの許嫁〟に関する負の部分をすべて背負ってやまない、貫徹するべき「負けヒロイン」なのである。
平成の後年にラブコメの標準軸とされた古味直志氏の「ニセコイ」に於ける、メインヒロイン左旋帯・小野寺小咲に現行、比定されるキャラといえるだろう。

第1巻と比較して地味な装丁

第1巻は、マッド紙と呼ばれる特殊な紙を用いて黄色の部分を蛍光色にして極めて目立つ印刷法で目を惹いた。単行本第1巻は、紫外線(ブラックライト)を当てるとその本領が発揮される装丁だったが、第2巻も同じマッド仕様ながら、非蛍光色のピンクだったために、紫外線効果は得られなかった。
私としては2巻の装丁が、瀬川ひろ(負けヒロイン)だったから。と勝手に邪推してしまいそうな、そんな感覚だったのである。
しかし、この第2巻を読んでいて面白いと思ったのは、確かに中央部の話は瀬川ひろ中心だったが、序盤はメインヒロイン・中軸帯である妹・幸、終盤はメインヒロイン・右旋帯・天野エリカがきっちりと固めているという事だろう。スポットを当てるキャラはきちんとしながらも、押さえるべきキャラは堅実に押さえる。という手法は、さすが過去二作のヒット作品で要点を押さえた吉河氏ならではの構成であると思います。

瀬川家の神社が不改変の安堵感

単行本を手に入れる前に、瀬川ひろの実家である神社の名前が『目黒明神』から、『目黒天神』に変わっていたという情報を得て愕然となったものである。
然もない話だと言われてしまいそうだが、主祭神が明神と天神とではまるで違うのである。因みに〝 天神〟とは菅公・菅原道真を主神。〝 明神〟は神道の諡号のひとつ。改変は良いが意味合いが違うのだ。
寺社としては天神(菅公特化)・明神・権現(仏教)とあるので、瀬川家の実家が、目黒〝明神〟から、目黒〝天神〟に改変されたとするならば、大問題です。呼び方が違うだけではありません。国家神道から、菅原道真を主祭神とする天神に変わったことは、地味と思うかもしれませんが、大きな話なんです。どういう事かは私から説明するのも烏滸がましいので割愛しますが、瀬川ひろの立ち位置を自ら動座せしめる事で、【カッコウの許嫁】における瀬川ひろの立ち位置が解りますね。
それにしても、難しい話でした。要するに簡単に言えば、同じ神でもイスラム教に喩えれば、スンニ派がシーア派へ、キリスト教だと、カトリック派が・プロテスタント派に変わるようなものです。だとするならば、当たり障りなくどちらとも取れる(意識しなくてすむ)「瀬川神社」としていた方が、無難でした、ということになります。

とにかく瀬川ひろは、1000年以上も前の朝廷から公認を受けた主祭神(誰か)の祭祀を受け継ぐ名族。一方、天野社長グループは近現代で一代で財を成したと思われる商家。名声か、財力か。或いはささやかなれども貧乏な定食屋でやってゆく。……なるほど、皆、キャラが立っている。素晴らしい作品ですね。