木部芳秋、名言を生む和也莫逆の友。クラファン編収束

彼女、お借りします 第15巻

▼彼女、お借りします 第15巻

評価★★★ / 宮島 礼吏

第122話~第130話を収録。
八重森から衝撃の言葉を聞かされる千鶴。しかし、それはあり得ないと決然とした態度で否定する千鶴。クラウドファンディングも大詰めを迎え、アクターズスクールの仲間・海にリツイートをしてもらったお礼として最終日に演劇鑑賞という名のデートに誘われる千鶴。内心面白くない和也に対し、軍師・八重森は海とのデートをするように勧める。演劇鑑賞を共にする海。その場で千鶴に恋人とは別れたと告げられ動揺する。食事を共にしようと誘われるが……。
そして、物語は映画撮影編に。制作統括者として挨拶をする和也。そんな彼に莫逆の友・木部芳秋が再び名言を発する「100均でお得に時計買った話より、高い金払ってうんこ買った奴の話を俺は聞きたい」
女優として撮影に臨む千鶴。その彼女の姿に将来の自分に不安を抱く和也だった。

クラウドファンディング物語はお誂え向きの結果に終わるわけだが、この巻もまた七海麻美の存在は全くない。かといって和也・千鶴の仲も八重森の蠢動虚しくして殆ど動かず、海が直截に訊いても曖昧模糊とした返答に終始。小百合の為に動いているはずだが、その小百合も登場しないなどどれだけ作者がクラウドファンディングなどの解説促進に力を入れているのかが判る一冊である。ラブコメであるはずなのに殆ど進展がないので、相変わらず★3


千鶴に想いを寄せる〝海〟 和也への想いを問われ曖昧な回答で躱す

「和也は千鶴を好き」秘めていた想いをあっさりと当の本人に暴露してしまう八重森の突出行動。しかし、千鶴は冷静にあしらう。
それにしても恐ろしい程の鉄面皮といえる千鶴の心。感謝はしているが、和也が自分を好きでいるはずがない。そう言い切っているのか、言い聞かせているのか。八重森の突出を発起点に、アクターズスクールの同期・海も千鶴に急接近を図ってくる。クラウドファンディング最終日に演劇鑑賞という名のデートに誘ってくる海もなかなか鬼畜だが、恋人の代理という名目で言った千鶴に、恋人とは別れた。と言って千鶴に接近を図るこの不意打ち。なかなかの策士ではある。
最終日のチラシ配布に余念が無い和也たちに合流せんとはかる千鶴に食事を誘うも断られ、ついに海も訊いた。「その彼(和也)のこと好きなのか?」
「好きじゃない。……けど、好きじゃなくもない」と実に曖昧模糊な回答で煙に巻くというかはぐらかされる海。モヤモヤ感だけが渦巻き、私だったら絶対に発狂しているよ。と言ってしまいたくなる感覚だ。しかし、海も大人だなと思うのは、そこで「馬鹿だな、俺も」と自嘲して済ましてしまうところだ。
これが私だったら……と言ってしまえばお仕舞いだが、私だったらそんな答えじゃ諦められないだろう。少なくても海ほど物わかりが良い方ではないからだ。

木部芳秋、莫逆の友ならではの名言の宝庫

クラウドファンディングが劇的な終結を向かえて間もない、クランクイン当日。和也の莫逆の友である木部芳秋が和也と千鶴の仲を案じ、和也の背中を押す名言を発する。

「100均でお得に時計買った話より、高い金払ってうんこ買った奴の話を俺は聞きたい」

宮島氏はおそらくどや顔でこの言葉を思いついただろうが、全くもって名言である。表現の仕方が極端だが、得意げに自慢話をする奴より、ダメ元でも一生懸命全力疾走している奴の話の方が面白い。という事なのだろう。木部らしい激励と言えばそうである。
この作品唯一の良心的存在と言えば極端だが、木部は登場人物の中で一番まともなことを言えるキャラクタであることには違いが無い。正直、彼が主人公でも良いくらいだろう。
彼ならば、千鶴がレンタル彼女であることが判ったとしても、八重森と同じような言葉を掛けるのではないだろうか。
いずれにせよ、木部は和也よりもずっと大人である。