映画撮影編、クランクアップ。されど和也の心は未だ遥遠の彼方

彼女、お借りします 第16巻

▼彼女、お借りします 第16巻

評価★★★ / 宮島 礼吏

第131話~第139話を収録。
映画撮影編もクライマックス。自分と住む世界が違うと改めて自分で思い込む和也に、千鶴は女優だろうがコンビニ店長だろうが家族のためになるなら同じ事。自分は「和也に出会って後悔したことは一度も無い」と、励ます。そして、八重森の策謀で和也と千鶴はラスト・シーン撮影のために二人きりで高原旅館に一泊二日の撮影旅行に出かける。戸惑う和也、冷静を装う千鶴。満天の星の下で、千鶴は秘めていた想いを和也に告げる。それは、初めて語る、彼女の過去。
無事(?)にクランクアップした和也と千鶴。そこへ待っていたのは、和也の仮カノ・ルカ。この暴風娘は、自分の誕生日を祝わせるため、和也をプールに誘うのである。

和也のモノローグなシーンが多いのが印象。このモノローグをすべて言葉にしていれば千鶴の陥落は意外と容易いのでは? と思うのは間違いだろうか。2人の距離は相変わらずで、特に千鶴の方が意識的に平静を装っている印象がある。一進一退ではなく正直、膠着状態。当然、七海麻美の存在は3巻連続で忘れ去られ、思い出したかのようにルカを投入してくる。この作品はいつになったら、2人の仲が進展するのだろうか。と、言うわけで今巻も星評価は3


和也、そのモノローグ言葉にすればいんじゃね?

和也には相変わらずイラッとさせられる。過度な卑屈、千鶴の過度な美化。考えてみた。和也、そのモノローグを全て言葉にすれば万事解決すんじゃね? ってことに。
今巻のメインはラスト・シーンの撮影で北信州・飯山市の斑尾高原に八重森の策謀で二人きりの撮影旅行だが、映画撮影編で千鶴が唯一動いたのは、撮影寸前に、和也に祖父のことを語った場面くらいであって、2人の距離は結局縮むことはなかった。どうしても千鶴が1人の時にためていた思いを独り言のようにつぶやくというパターンは変わっていないのである。

まあ、映画撮影だけではなく、それを祖母・小百合に観てもらうという最終目的があるわけだが、それでもなお千鶴は固い。どんだけ固いんだろうか。十六巻140話弱かけても和也に対する距離を縮めないこの鉄仮面は一体どうすれば融解するのでしょうか。その方策が全く判らないのであります。
まあ、それでも繰り返すようだが、和也が毎度毎度のように心で呟いている言葉をそのまま言葉にすれば、意外とあっさりと陥落してしまいそうな気もするんですよね。張りぼてとは言わないが、千鶴は自らの矜恃を維持するのに懸命だ。和也の心に突き刺さる一言で崩落、一息にデレに転じるかもしれませんよ?

更科ルカ、全身全霊で和也に凸する

一般論として考えた場合、叩いても叩いてもびくともしない鋼鉄の分厚い壁よりも、向こうから壁を破って自分に凸してくる女の子の方が良い、というか普通そちらに靡くだろう。という話なんですね。ルカはそう言う意味では最もヒロイン然としています。しかし、この作品的には明らかに負けヒロインであっていくら頑張ってもラストは目に見えている。逆にラストがルカだったら、今までの和也の千鶴に対する想いは何だったのか、という話になる。この作品はその分厚い鋼鉄の壁をいかにして破るかという不可能なフリを可能にしてしまえという無理ゲーを強いられているようなものであるから、負けヒロインであるルカに人気が集まるというのもある意味自然な流れなのかもしれません。

自分の誕生日だから当然、仮カレである和也に祝福して欲しいとせがむルカ。良いじゃありませんか。余裕ぶっている千鶴なんかよりも、百倍可愛く、そして同情に値します。
次巻は本編準拠で更科ルカ活躍の巻。やはりルカや八重森の掩護射撃なくして2人の距離は縮まらないのか。いやはや、ホントめんどくさい。