海野幸、満を持して参戦するも本格的恋愛戦役は持ち越しへ

カッコウの許嫁 第3巻▼カッコウの許嫁 第3巻

評価★★★★★ / 吉河 美希

第16話~第24話を収録。カバー表紙の通り、凪の妹・海野幸が今巻の実質的なメインヒロインとして縦横の活躍を見せる。今巻最終話は特段必読の価値がある。
「赤子取り違え」をコンセプトテーマとしている以上、主人公・凪と妹の幸は血縁関係が全くない事は第一話の時点で判っていることで幸の方が特段、凪を意識している様に前巻までは描かれていたので幸推しの読者諸卿にとってはこの上にない幸せな一冊であることに間違いはない。
幸に比重が置かれており、次に彼女の実姉であるストーリーメインヒロイン・天野エリカと続くので第3勢力の瀬川ひろの活躍の場は極めて少なく、瀬川ひろ推しの面々からすれば少し不満な点もあるが、凪との関係性は紛れもなく進展しているので、次巻以降に期待を寄せておこう。
アニメ化は既定路線でありそれまでにカッコウの許嫁新連載時のメインイメージイラスト(凪+3ヒロインが卵を抱いているもの)にあるように、幸も含めた本格的な恋愛戦役(四角関係)に期待をしたいところだが、第3巻の時点では幸の活躍が中心なので、戦役開戦は第4巻以降への持ち越しとなっている。影が薄めな第3勢力「瀬川ひろ」を改めて識る必要があるが、そのためには第1巻から改めて読み直してみる必要性がある。アニメ化に向けてヒロインの特徴を今巻も含めて復習しておくのも重要である。
評価は文句なしに★5。吉河氏にはキャラクタ設定を大切に波瀾なる恋愛戦記を綴っていって欲しい。


海野幸、当巻事実上のメインヒロインへ

カッコウの許嫁が連載開始となった当時から、初期支持の高かったメインヒロイン(MH)中軸帯、妹・幸がようやくストーリーに絡むようになってきた。ただしそれには、凪とMH右旋・天野エリカが舞台とする天海亭(天野家別邸)に、幸が移動する必要性があったので、半ば強引ながらも幸の転居が成された。
ただ、海野一家の仮寓からの転居の経緯が半ば家出同然と言うことと、天海亭転居について天野社長(CEO)の見解に言及されていなかったことは重要イベントの省略と言うことになってしまいやや残念な心象を受けた。
思いつきの様相で「明日からお兄とエリカちゃんの家に行く」と宣言したとしても、そりゃ海野両親は納得できるわけがない。家出の理由
家族構成を分野的に軸を置いている割には、幸を早くメインストーリーに絡めようという一種の焦りのようなものが働いたのではないかと、私は思っている。幸のメインストーリー合流は当然の流れだとしても、そこまで要点をスキップしてまでやってしまって良かったのか、という話になる。現状、天野・海野の両両親ともに機能不全に陥っていると言っても過言ではないのである。
幸は設定上、海野洋平・奈巳恵夫妻の第2子であるのだから、凪の元に行くのを肉親として諫止するのは至極当然の事ではある。その諫止を振り切って、血の繋がりのない兄の元へ行くというのだから相当の覚悟がなければならない。
今巻で幸は理由をつけているのだが、端から見ればその程度の理由で? と言われても仕方のない話ではあった。差し迫った緊急性の高い理由付けは難しいとは云うものの、そこをあえてやらないとなかなか厳しいものがあるだろう。

瀬川ひろ、強まる遠心力

左旋帯・瀬川ひろの遠心力が止まるところを知らない。今巻の主要出演部分はわずかに1話程度。今後、彼女を軸にして一巻分を稼いだとしても悪いが不評は免れないだろう。
三番手という事もあるが、残念なことながら現状姉妹を上回るマウントが取れていないという事だろう。
起死回生の秘策は限られている。彼女の言う許婚の正体と、先ずは海野幸との接点を繋ぐこと。二桁以上のマイナス出発の瀬川ひろにとって、凪を本気で獲りに行くというのであるならば、相当の覚悟と決意が必要なのである。

天野エリカ、メインヒロイン首座を譲らずも、幸が相応しいとの迷発言

海野幸がメインヒロイン中軸帯として先鋭化している第3巻だが、それでもストーリーコンセプトであるメインヒロイン右旋帯・天野エリカは、さすがメインであるだけに安定の存在感を発揮している。カッコウ×それ歩

やはり、メインヒロイン右旋(嫡流)としてのアドバンテージというか、カリスマ性は頑強である。出番は幸に比率的に負けているが、存在感は抜群で、コンセプトにある海野凪の許婚という立ち位置を基にした存在感は、キャラクタ相関関係を引き合いに出して有無も言わせない。
幸が高い人気があるという調査結果にあっても、余裕があるエリカ帰結継承の機運は編集部並びに吉河氏の強い信念があることだろうと思うのだが、あくまで、メインヒロインの両翼帯は、右がエリカ、左が瀬川ひろ(凪の想いを寄せる人という設定上、必然的に)なので、この左右両翼が健全に機能しないと、歪みが発生し、物語は失速します。出番の少ない瀬川をスケープゴートにすると言った戦略はやめた方が良い。

天野エリカ、瀬川ひろ、海野幸という、凪を廻る三者対立の構図が見所なのだが、肝心の三者が凪に対する想いに言及されていない。エリカはいい加減にしろよと思う一方で、幸もぬるま湯に漫然と浸っている暇はないと言いたくなる。
購入後、初めて今巻を開いたとき、「カッコウ×それ歩」のコラボレートチラシが封入されていたことに驚いたが、「カッコウの許嫁」の展開はどうであれ、主軸は右旋・天野エリカという事を改めて知らしめる結果となったのは間違いがない。完結時にエリカ以外だった。というのならば、それはそれで説明があるべきだろう。同僚漫画家たちは是々是々というだろうが、筋を通してほしいものである。