恋の衝動を否定し続けてきた沈勇の少女、行者と遇いて世界が変わる


湘南旭
湘南 旭

CV:-

◆スリーサイズは第5巻現在、公式未発表
◆出身:東京(?)
◆学力は1年生でトップクラスでバスケットボール部のエース級
◆狷介孤高の美少女だが、親友は白浜美波。
◆連んで遊ぶ、他愛のない会話は嫌いだが、メダカがいるところには場所を問わず行く。


モナの覇道に立ち塞がる純剛なる少女、モナの本性を知りて正攻の戦いを模索する

2021年第41号・第16話から登場の第二ヒロイン格。高校一年生ながらバスケ部のエース級として活躍しているとされている美少女。才色兼備でクールビューティというお約束の設定ながら、黒岩メダカには一目惚れをしていたという基本設定から始まっている。経緯は不明。
周囲には冷淡な対応で狷介孤高を演じてきたが、廊下ですれ違ったメダカに一目惚れするというベタなヒロイン加入。春野つぼみの存在を一気にネタキャラに転じさせた驚異の存在感を秘めて登場したわけである。
タイトルコンセプトの通りに展開するとなれば典型的な「負けヒロイン」として終始するわけだが、第16話という序盤から春野つぼみを押し退けて第二ヒロインの座に抜擢されたわけであるので相応な立ち回りは必要不可欠なわけである。

キャラクタの棲み分けとメダカへの心理攻略戦

後輩でありながらモナに対して敵愾心を剥き出し、メダカ以外のキャラには基本的に塩対応。純粋一途というよりは、単に恋愛等の男女関係に対して臆病であった、という方が正しい解釈であろう。実際彼女のみに特化して読み進めてみると、彼女は恋愛そのものを否定しているわけではない。
「一目惚れ」という事に関して、それはあり得ないし、一目惚れで何もかも判った風にしてのめり込む女子達の心情が理解出来ないというか、追いつかない立場だったというだけである。一目惚れというワードを抜いた湘南旭という少女は、ごく普通の16歳の少女である。

湘南旭・恋愛観幼い頃から男女の別なくモテて好かれてきた川井モナと比較すれば、頗る一般ラブコメディのヒロイン然とした佇まいであって、恋に関する考え方も潔癖症というわけではない。普通に手を繋ぎたい、キスもしたい。言及はされなかったが、二人きりでキスをすると言うことは彼女の中でそれ以上のこともしたいと思っているはずである。
モナという存在をストーリーから外して読んでみると、実は旭との場面だけでラブコメとしてのストーリーは成立する。それくらい、メインヒロイン・モナとの棲み分け、キャラクタが立っているのである。
モナが劇中で脅威に思っているというのは実はこの点であり、モナ自身も「ガチ」と直感で見抜いて警戒をしている。制作者サイドや読者側が物語を操縦している限り、モナが勝つのが判っているのだが、作中のモナがそう言った旭を警戒しているというのが余程の強敵という事になるのだろう。

仁義を通す恋愛武士道、女陶朱公范蠡・白浜美波の力を得て台頭す

旭その人自身は極めて奥手でメダカの前では言葉すら上手く発せず、極めてポンコツになってしまう。そんな彼女の親友にしてサポーター的存在なのが白浜美波である。白浜美波
范蠡というのは立位置。常に勾践(旭)の傍にあって臥薪嘗胆を奨めたというわけではないし、孫武・伍子胥の知略卓見があるという意味でもない。
黒岩メダカという、それほどイケメンでも文武両道でもない普通の2年の一男子生徒に一目惚れをしてしまったという旭に対して純粋に策士として不器用さを補完する立位置に徹する。
メダカの頬とはいえ、物理的にキスをした旭は抜け駆けをせずにその事実をモナに伝える。美波ならば必要なしと言っていそうだが、旭の〝武士道〟がそれを赦さなかったのであろう。結果としてモナはメダカへの想いを覚醒させ、互いに仁義を切って錦の御旗(メダカ)争奪の華麗で過酷なバトルロイヤルの開幕となって行く。

湘南旭、その勝算の行方と拭えぬ疑問

正直な感想、モナと比較して旭には〝華〟がない。魅力的な美少女ではあるが、女性への指向性に厚い心頭滅却壁を構えている黒岩メダカを崩すには一番最初にキスをしたのは私。というマウントはあまり効果がない。
ただ俯瞰してみれば、白浜美波の掩護もあって現状ではメダカに対する物理的な接触は旭の方が印象に強い。この強みを活かして突き進めば或いは勝算が見いだせるかも知れない。

疑問は恋愛に対して全くと言って良いほど無関心であった、モナも含めて特に旭が何故、黒岩メダカに一目惚れだったのか、と言うことだ。直前まで他者の一目惚れを「沙汰の限り」と切り捨てて憚らなかった旭が、「恋は理屈じゃないですから」と言い遁れる、というのも釈然としない。一目惚れというのは深層心理的に恋愛のスイッチがギリギリ入らない状態だったのが、ポツンと入る状態な訳で、昔のSF作品でよく出てくるような、屈強な男でなければ動かせないような錆びついたどでかいスイッチのような感覚で恋愛感情がオンになるわけではない。彼女のそれまでの人生で、そのスイッチをギリギリのところまで動かしていた動機があったはずである。それが気付かない旭が「恋は理屈じゃない」という言葉で自己納得しているに過ぎないのである。
仮に、メダカモナが定石通りに結ばれて旭が敗北したとしても、そういうきっかけがある以上、傷心期間は長くはない。スピンオフの話になるが新しい恋愛は至極簡単に描きやすいキャラになっていることは紛れもない事実である。

まあ、そうならないよう、令和の初年期のラブコメディは「恋と嘘」に代表される分岐エンディングが等しく重宝される。または他誌ではあるが負けヒロインゼロ。正ヒロインが100名登場予定という、平成期までは考えも及ばなかった作品もドンドン受けいれられている。旭もそうした流れにあやかって欲しいものだ。